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第89回 フォーストへと行き方

 フォン達は宿へと戻っていた。

 宿に戻るなり、四人は地図を囲み唸り声を上げる。

 一方、部屋に残っていたメリーナは一人増えている事にただただ目を丸くし、あわあわとしていた。

 そんなメリーナを他所に、四人は話し合いを繰り広げる。


「現状、どうなんだ? フォースト王国は?」


 地図上の東の大陸を指差し、リオンがレックへと目を向けた。

 濃い緑色の髪を頭の後ろで束ねたレックは、腕を組むと鼻から息を吐き出す。

 そして、眉間にシワを寄せ首を捻る。


「他の里がどうなっているのかって言うのは、わかんねぇーけど、雰囲気は最悪だ。噂で聞いた話だと、各地で人狩りが行われているらしい」

「噂か……」


 険しい表情を浮かべるリオンは、俯き右手の親指を眉間に当てる。

 ここは噂などと言う曖昧な情報ではなく、確実な情報が欲しい所だった。

 そんな不確定な情報を口にするレックに、カインは冷ややかな眼差しを向け大きな吐息と共に頭を左右に振る。


「全く……役に立たない奴だ……」

「うるせぇーよ! てか、お前、さっきから何なんだよ! 俺の事、どんだけ見下してんだよ!」

「まぁまぁ。それより、他に何か無いのか?」


 二人の間に入ったフォンは微笑しそう尋ねる。

 フォンの人懐っこい笑みに、レックは唇を尖らせ腕を組む。

 考える。他に何かおかしな事がなかったか、異変はなかっただろうかと。

 瞼を閉じ、深い深い瞑想に入るレックは、記憶を辿る。つい最近の事から随分と昔の事まで。

 長考するレックを尻目に、リオンは静かに話を進める。


「まず、船を手に入れたとして、どの海路でフォーストに行くかだが……」

「そのまま、港に行けばいいだろ?」

「今のフォーストに普通に港から上陸するのは危険だろな。普通に考えて」


 地図上のフォースト大陸を二度、三度と右手の人差し指で叩いたリオンは、チラリとフォンの顔を見た。

 リオンの眼差しにフォンは一瞬不満そうな表情を浮かべる。フォンだって港から上陸するのは危険だと言う事は重々承知だが、他に方法が思いつかない。

 そもそも、何処から上陸しようとも、危険な事に変りはないのだ。

 眉間にシワを寄せ、腕を組むフォンは、右手で額へと当てると、リオンを見据える。


「じゃあ、どうするんだ? 港がダメなら、どっかの海岸に停泊するしかないぞ?」

「そもそも、あんなボロ船で本当にフォーストにわたるつもりなのか?」


 唐突にレックがそう口にする。顔の横で右手の人差し指を立てて。

 その問いに対し、リオンは鋭い眼差しをレックへと向けると、不機嫌そうに尋ねる。


「何か、問題でもあるのか? ボロくても船は船だろ?」

「分かってねぇーな! お前」


 レックがそう発言したその瞬間に、リオンが背筋を伸ばし威圧的な態度でレックへと歩む。


「わわっ! お、落ち着け! リオン!」


 そんな二人の間へとフォンは割って入り、リオンを宥める。

 一方、レックはたじろぎ、表情を強張らせていた。


「脅かしてどうすんだよ! それに、レックの方が向こうの事は詳しいんだ。もう少しちゃんと話を聞くべきだろ?」

「……そうだな。確かに、そうだ」

「だろ?」

「じゃあ、話せ」


 フォンとリオンの横をすり抜けたカインがレックへとそう詰め寄っていた。

 その行動に、フォンは慌てる。


「わわっ! カイン! リオンのマネはしなくていいから! もう少し穏便に話は進めよう!」

「そうか……」


 如何にもリオンと言う雰囲気を漂わせ、カインはそう呟いた。

 最近はどうにもリオンの悪い部分を真似たがる傾向にあり、フォンは深々と息を吐いた。

 元々、記憶がなかった所為だろう。何でも自分のモノにしようと、色々と吸収していた。

 だからだろう。リオンの交渉の仕方が正しいと思い、それを真似ているのだ。

 右手で額を押さえるフォンは、大きく息を吐き、肩を落とす。それから、レックの方へと顔を向け、尋ねる。


「それで、どういうことなんだ?」

「うぐぅ……お前、よくあんなのと一緒に居られるな……」


 涙目でそう訴えるレックに、フォンは苦笑する。自分でも思う。このメンバーは凄い問題児だらけだと。

 もちろん、自分を含めてだ。

 その為、何も言えず、ただただ苦笑するのみ。

 そんなフォンに、レックは静かに語る。


「正直言って、あの辺りの海流は荒い。あんなボロ船で行こうものなら、木っ端微塵、海の藻屑だ」

「だってさ」


 フォンがそう言ってリオンへと目を向けた。

 すると、リオンは腕を生み呟く。


「そうか……なら、別の方法を考えるか……」


 小さく俯くリオンは唸り声を上げ、その隣りでカインも同じように腕を組み唸り声を上げる。

 二人の様子に傍から見ていたメリーナはクスクスと笑っていた。


「しかし、そうなってくると、船の補強に金がかかるぞ?」

「そうだよな……結局、そこになるんだよ……」


 フォンはそう言い、右手で頭を掻き毟る。

 茶色の髪が激しくゆれ、フォンの指の合間を抜ける。

 カインはその様子を見て、真似るように右手で自らの頭を掻く。


「どうしたもんかー」


 そう呟きながら。

 自分のマネをするカインに、フォンは目を細める。

 傍から見ると、自分はあんな風に映っているのか、そう思え、その手を止めた。


「ま、まぁ……何だ。とりあえず、補強の為に金を稼ぐべきだろうな」

「金を稼ぐと言ってもな……」


 フォンの言葉に、リオンは困った様に目を細める。

 お金を稼ぐにしても、現状稼ぐ方法がなかった。

 また、同じ問題にぶつかり頭を抱えるフォンとリオンだが、その中でカインだけが真っ直ぐにレックを見据えていた。

 カインの眼差しにレックは首を傾げる。


「な、何だよ? そんなに見ても何にもねぇーぞ?」

「なぁ、提案なんだが……」


 唐突にカインがそう口にする。

 その声に唸り声を上げていたフォンとリオンはカインに目を向け、レックは嫌な予感がし表情を強張らせる。

 そんなレックを真っ直ぐに見据えるカインは、ゆっくりと右手を上げると、その人差し指をレックへと向け呟く。


「アイツ、水中で呼吸出切るんだろ? なら、アイツに働かせたらどうだ?」


 カインの発言に、フォンとリオンは驚く。

 何でもっと早く気付かなかったんだ、と。

 この港町には、森などが近くにない為、フォン達は獣の討伐は諦めていたが、海の猛獣を討伐する依頼は沢山あるのだ。

 そんな三人の眼差しを受け、表情を引きつらせるレックは、激しく首を左右に振る。


「こ、断る! ぜ、絶対、嫌だからな!」

「お前に拒否権があると思ってるのか?」

「ふ、ふざけんな! 何で俺がそんな事しなきゃいけねぇーんだ!」


 リオンの言葉に、レックはそう怒鳴り声を上げる。

 だが、ここでリオンは切り札を出す。


「お前、俺らの金で飯を食ったんだよな」

「ぐっ! あ、あれは……」

「あのお金があれば、もっといい船が買えたはずなんだよな」

「だ、だから……」

「恩を仇で返すって言うのは、この事を言うんだろうな」


 リオンのその言葉に、ベッドに腰掛けていたメリーナは不安げな眼差しをレックへと向ける。

 流石のレックも、女の子にそんな風に見つめられては断るに断れない。

 もちろん、メリーナはそんなつもりでとった行動ではないのだが、フォン達にとってはなんともありがたい行動だった。


「うぐっ……わ、分かった! 分かったよ! やりゃぁ、いんだろ!」

「そうか。快く引き受けてくれて、感謝する」


 レックに対し、リオンはそう告げると、何度も頷き、「これで、船の問題は解決だ」と、安堵したようすで呟いた。

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