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第88回 リオンの交渉術

 フォン達は近くのレストランに来ていた。

 テーブルについた四人の前に置かれる料理が次々と減っていく。

 深い緑色の髪を振り乱しガツガツと料理を食らう水呼族の少年に、三人は呆れた目を向けていた。

 一体、どれだけ空腹だったのか分らないが、出された料理がすぐにその口に吸い込まれていき、やがて胃袋へと流れ込んでいく。

 あまりの食いっぷりに目を細めるフォンは、静かにリオンへと目を向ける。


「なぁ」


 フォンが小声でリオンに話し掛ける。

 その声に、リオンは僅かに視線を動かし、何だと言う様に顎を少しだけ動かした。

 長い付き合いだからだろう。その行動だけで意図を理解し、フォンは複雑そうに右手でコメカミを掻く。


「大丈夫か? オイラ達、船も買わなきゃいけないんだぞ?」


 不安そうなフォン。当然だ。今現在、お金に余裕があるわけじゃない。

 船を買わなければならないし、そもそも、今の所持金で船を譲ってもらえるかも分らない。

 それなのに、こんなわけの分らない奴にお金を使っていいものなのか、そうフォンは考えていた。

 だが、リオンは涼しい顔で答える。


「ああ。大丈夫だ」

「ほ、ホントか?」

「ああ。心配するな」


 リオンには秘策があるのか、自信満々にそう言い切った。妙な胸騒ぎを覚えながらフォンは「そうか……」と呟いた。

 それから、どれ位の時間が過ぎたのか、テーブルには大量の皿のみが残されていた。


「ふはーっ……食った食った……」


 ぽっこりと膨らんだお腹を擦る水呼族の少年は、椅子の背もたれに背を預け天井を見上げる。

 無言で水呼族の少年を見据えるカインは目を細め、やがてフォンとリオンの方へと顔を向けた。


「なぁ、本当にコイツに飯を奢るのか?」

「んっ? カイン。お前は何を言ってるんだ?」


 不満そうなカインの言葉にリオンが不適な笑みを浮かべ、そう切り出した。

 その言葉に水呼族の少年の表情が引きつる。何か嫌な予感がしたのか、少年は体を起こすと引きつった笑みを浮かべた。

 そして、リオンの隣りに座るフォンも引きつった笑みを浮かべる。先程の自信はここからきていたのかと、ようやく理解した。

 腕を組むリオンは、肘をテーブルへと置くと前のめりになり、少年へと顔を近づける。


「さて、お前、大分食ったみたいだな。お金も無いのに?」

「ちょ、ちょっと待て! これは、お前達の奢り――」

「俺達がいつ奢ると言ったんだ?」


 不適に笑みを浮かべそう言い放つリオンに、少年はテーブルを両手で叩き声を荒げる。


「お、お前達が飯を食わせてやるって言うから――」

「ああ。食わせてやるとは言った。現に、目の前に沢山のカラの皿が残っているじゃないか?」

「ふ、ふざけんな! こんなの詐欺じゃねぇーか!」

「おいおい。人聞きが悪いな。ちゃんと飯を食える所につれてきただろ?」


 悪い顔をするリオンに言い包められる少年を、フォンは哀れに思う。こうなってしまってはもうどうにもならない。

 きっと、リオンに言い様に扱われるのだろうと、フォンは思った。

 下唇を噛み締める水呼族の少年は、不満げに眉をひそめ握った拳を震わせる。

 睨み合うリオンと少年を見据え、カインはポンと手を叩いた。


「そうか……。確かに、奢ってやるとは言っていない。うん」

「うるせぇ! 俺は、お金なんて持ってねぇーぞ!」


 少年がそう声を上げると、カウンターから体格の良い男がのそっと姿を見せた。その瞬間に少年は両肩をビクッと跳ね上げ、顔色を変える。

 そんな少年へと悪い笑みを浮かべるリオンは、手を顔の前で組み深く息を吐いた。


「さて、どうする気だ? これだけのモノを食ったんだ。ただじゃすまないだろうな」

「うぐっ……」


 楽しそうなリオンに、フォンは苦笑する。こう言う時、フォンは思う。リオンは悪質で意地の悪い奴だと。

 そんな悪質なリオンの手口に呑まれた少年は、息を呑むと俯き肩を震わせる。


「な、何が目的だ……」


 根負けしたのか、少年はそう口にした。


(かかった!)


 リオンの目付きが変る。ここが攻め時だと直感し、口元へと薄らと笑みを浮かべ、静かに口を開く。


「俺は、別に目的なんて無いさ。ただ、交渉をしようと思ってな」

「こ、交渉だと? こんな詐欺まがいな事してよく言うな!」

「いや、いいんだぞ? 俺は、お前に交渉するチャンスを与えてやると言っているだけだ。交渉しないなら、さぁ、俺達は帰るか」


 ゆっくりとリオンは腰を上げる。その行動に、少年は慌てて声を上げる。


「ま、まま、待て! 待て待て待て! ちょっと待て!」


 少年の声に、リオンは動きを止め、腰を下ろす。

 そして、ゆっくりと息を吐き出し口を開く。


「じゃあ、交渉するのか?」

「うぐっ……は、話を聞くだけだ! 聞くだけ!」


 顔を赤くし声を荒げる少年に、リオンは背を仰け反らせ踏ん反り返る。


「さてさて、どうしたものかな?」

「うぐっ! 足元見てんじゃねぇーよ! 早く言えよ!」

「よし。フォン、カイン。帰るぞ」


 少年の言葉にリオンはまた腰を上げる。その行動にフォンは苦笑し、カインは言われたとおりに立ち上がり身支度を整える。

 その行動に大慌ての少年は、右手を伸ばし声を上げた。


「ま、待って! 待ってください!」

「んんっ? どうしたんだ? 急に」

「ホント、話し聞かせてもらってもよろしいでしょうか?」


 急に丁寧な口調でそう述べる少年に対し、腕を組むリオンは深く息を吐き出し、


「仕方ない。話を聞かせてやる。忙しいが、お前がそこまで言うなら」


と、もう悪役になりきっていた。

 流石のフォンはドン引きで、その視線は窓の方へと向けられていた。

 それからはリオンの独壇場だった。


 交渉は簡単なモノだった。

 まず、これから自分達に従う事。それと、彼が何者で、何しにここに来たのかを詳しく話す事。

 一つ目の条件を出した理由は、彼がメリーナの探す一人だと考えたからだ。

 そして、二つ目の条件の理由は、本当にそうなのか、と言うのを見極める為だ。

 それにより、水呼族の少年がレックと言う名前だと言う事がわかった。それから、彼が水呼族の長であるレバルドの息子で、父がフォースト建国集会から帰って来てから様子がおかしくなった為、それを止める為にも力を貸して欲しいと、願いに来たとの事だった。

 今、水呼族の里は大きく二分化され、他国へ侵攻しようとする国のやり方に反発する者は次々と処刑されている。

 その実権を握っているのが、父であるレバルドなのだ。

 レックは里の皆を守る為にも、一人海を渡りこの大陸まで来たと言う。

 食事代を精算した四人は砂浜に来ていた。

 波が行ったり来たりする中で、レックは悔しげに唇を噛み締める。


「俺は、あんなオヤジの姿は見た事がない。きっとあの集会の時に何かがあったんだ……」


 右拳を顔の前で握り締め、レックは瞼を閉じた。

 その行動に悔しさが滲み出ていた。

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