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第79回 二人を信じて

「はぁ……はぁ……」


 膝の上に手を置き俯くフォンは息を切らせゆっくりと天を仰ぐ。

 遅れてその場に辿り着いたリオンは、腰に手をあてフォンの隣へと並んだ。


「フォン。大丈夫か?」

「あぁ……悪い。追いつけなかった……」


 険しい表情で謝るフォンを、リオンは責めず小さく首を振る。


「仕方ないさ。狩りの後だし」


 そう言い、リオンが肩を叩いた。

 今日、フォンは狩りで走りっぱなしだった。

 その為、馬車を追うだけの体力が無いと、リオンも分かっていた。

 呼吸を整えるフォンは、眉間にシワを寄せると、茶色の髪を右手で掻き毟り、


「しかし、どうしてこうもトラブルを起こすかな……。トラブルメーカーは本来オイラの方だろ?」


 肩を僅かに竦めたフォンがそう言うと、リオンは苦笑する。

 一応、自分がトラブルメーカーだと言う事を自覚しているのだと。

 困った表情を浮かべるリオンだったが、すぐに状況を思い出し真剣な表情で腕を組む。


「どうしたもんか……」

「とりあえず、町の人に話を聞くべきだろ?」


 フォンが珍しくまともな事を言い、リオンは聊か驚いた。

 驚くリオンに、フォンは小さく首を傾げる。


「どうした?」

「いや、お前が珍しくまともな事を言うとは思わなかったからな」

「珍しくって……それより、急ごう」

「そ、そうだな……」


 余程、メリーナの事を心配しているのか、フォンの顔にいつに無く真剣だった。



 それから、二人は町中を駆け巡り、情報を集めた。

 メリーナを見かけなかったか、メリーナが誰と一緒だったのか、あの馬車は何処へ向かったか、など。

 しかし、誰に聞いても知らない、分からないの答えしか返ってこず、フォンとリオンは道の真ん中で途方に暮れていた。

 ただ、噂ではこの辺りには人攫いが出るらしく、馬車の持ち主は恐らくその人攫いの連中かも知れないと、言う事だった。

 町の人達も詳しい事は分からず、本当に人攫いがいるのかも分からないとの事だった。

 その為、二人は立ち尽くし、暗い雰囲気でため息を吐いていた。

 そんな二人の様子に、一人の青年が声を掛ける。


「どうかしましたか?」


 オレンジブラウンの髪を揺らす若い男だった。

 その背に鱗模様の刻まれた大剣を背負ったその男は、穏やかな表情を二人へ向ける。

 その声にフォンとリオンは男の方に顔を向け、訝しげな表情を浮かべた。


「誰だ?」


 怪訝そうな声でリオンが尋ねると、その男は慌てて背筋を伸ばし、


「これは、失礼。私はカーブン。龍臨族です。この町については詳しいので、何かお困りでしたら相談に乗りますよ?」


 カーブンと言う名にフォンとリオンはすぐさま直感する。

 彼が、自分達が探している龍臨族の仲間であると。

 長くこの地を平定した偉大な方だと言う事はフォン達の時代では有名な話だった。

 驚く二人に対し、カーブンは小首を傾げる。


「ど、どうかしましたか? 何か、変なことでも、言いましたか?」

「い、いえっ! そ、それより、オイラ達に力を貸してください!」


 思わず丁寧な口調になるフォンが、カーブンの右手を握りしめた。

 その行動に、思わずカーブンは背を仰け反らせ、表情を引きつらせる。

 流石に初対面でここまでされると、引いてしまう。

 そんなカーブンに対し、リオンは深く頭を下げる。


「俺からもお願いする。力を貸してくれ」


 誠意あるリオンの頼みに、カーブンは表情を引き締め、小さく頷く。


「私でよければ」


 力強いカーブンの一言に、フォンとリオンは顔を見合わせ、事の次第を全て話した。

 仲間であるメリーナが人攫いに連れて行かれた事、その人攫いの集団を探している事など、今、持っている情報を全て。

 その説明を腕を組み聞いていたカーブンは非常に険しい表情を浮かべ、一つ息を吐いた。


「恐らく、旅人を狙う人攫い集団でしょう。故に、この辺りに住む者達に聞き込みをしても情報は得られなかったと思います」

「旅人を狙う人攫い集団……」

「えぇ。申し訳ありません。本来なら、国として対応するべきなのでしょうが、建国したばかりの為、兵達も手が回らないのでしょう……」


 深く頭を下げ謝罪するカーブンにフォンは慌てて両腕を振った。


「いやいやいや! そんな頭を下げなくてもいいですよ! なっ、なっ!」


 同意を求める様に隣りのリオンへと顔を向けるフォンだが、リオンは厳しい表情だった。


「責任を感じているなら、手伝ってもらう!」

「お、おいっ!」


 リオンの突然の言葉に、フォンは思わずそう声を上げ、肩を掴んだ。

 流石にこれは失礼だと、フォンは思ったのだ。

 しかし、リオンには別の思惑があった。

 その為の布石がこの言葉だったのだ。

 そうとは知らず、リオンの両肩を掴んだフォンはその頭を前後へと揺さぶった。


「お前! 何て言葉遣いするんだ! 失礼すぎるだろ!」

「だーっ! うるさい!」


 後ろに揺さぶられた反動を活かし、そのままリオンはフォンの頭へと頭突きを見舞った。

 額を押さえよろめくフォンは、その場で蹲る。

 そんな二人のやり取りに、カーブンは怪訝そうに眉間にシワを寄せた。



 人攫い集団の拠点である森の奥の洞窟。

 その奥にある牢屋にメリーナは囚われていた。

 他にも何人もの女子供が囚われ、皆身を震わせていた。

 そんな中で、一人強い眼差しを放つメリーナは、その腕に一人の少年を抱えていた。


「だ、大丈夫です! きっと、フォンさん達が助けに来てくれますから!」


 金色の髪をうなだらせる小柄な少年。

 虚ろな眼差しに、ボロボロの薄汚い格好をしたその少年は、ゆっくりと顔を上げる。

 右手は僅かに黒ずみ、結構伸びた爪には焦げ痕が僅かに残されていた。

 メリーナがこの人攫い集団に連れて来られたのは、彼を助けようとした為だった。

 元々、フォンとリオンの言いつけを守り、一人宿に篭っていた。

 しかし、窓からこの少年が馬車に引き摺り込まれて行くのを目撃し、いてもたってもいられず、部屋を飛び出していたのだ。

 結果、力の弱いメリーナではどうする事も出来ずこの様な状態になってしまったが、彼女は信じていた。

 フォンとリオンがきっと助けに来てくれると。

 ボンヤリとする少年は、自分を抱き締め、励ますメリーナに、ゆっくりと顔を上げる。

 淡い蒼の瞳が揺らぎ、やがて、彼の金色の美しい髪が根元から徐々に赤みを帯び始めた。

 突然の変化に驚くメリーナはその手を離し、瞳孔を広げる。


「あ、あなたは……」


 驚きの声を上げるメリーナに対し、少年はゆっくりと立ち上がると、虚ろな目で目の前の鉄格子を見据える。


「僕は……」


 少年がそう呟くと、爪先から一滴の血が零れ落ち、突如発火する。

 その光景にメリーナは理解する。

 この少年が、炎血族である事を。

 少年は表情一つ変えず、その両手を真っ赤な炎で包み込み、鉄格子に向かって歩き出す。

 異変に気付いたのか、人攫い集団の下っ端が牢屋へと姿を見せた。


「き、貴様! 何をしてる!」

「炎血族か! コイツは希少種だ! 無傷で捕らえろ!」


 若い男がそう声を上げる。

 だが、次の瞬間、少年はその手を一振りする。

 炎の中から飛び出す少年鮮血が鉄格子とその向こうに居る男達へと付着する。

 ほんの僅かな血だったが、次の瞬間血は発火し、男達は炎に包まれ、鉄格子はその高熱にドロドロに溶けた。


「うわああああっ!」

「熱い! 熱い!」


 男達の呻き声、悲鳴がこだまする横を、その少年はすり抜ける。

 まるで彼らには興味がないと言わんばかりにフラフラと少年は去っていった。

 メリーナはその背中を暫く見ていたが、すぐにその背中を追う。


「ま、待ってください!」


と、声を荒げて。

 思い出したのだ。

 時見族のクリスが言っていた予言を。


“彼は突然現れる。得体の知れない不気味な存在”


と、言う予言を。

 そして、その予言の主が彼であるとメリーナは確信していた。

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