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第73回 風牙族次期族長ウィルス

 夜になり、三人は焚き火を囲っていた。

 時見族のクリスの言いつけを守り、ここに留まっていた。

 非常食はある程度買い溜めていた為、今の所食べるモノに困る事はなかった。

 焚き火に木をくべるリオンは、深く息を吐き出し肩の力を抜く。

 黒い瞳が真っ直ぐに焚き火を見据え、やがて静かに瞼を閉じる。

 女の子座りで焚き火を見据えるメリーナは、ウツラウツラと頭を垂れる。


「大丈夫か? 眠いなら寝て来いよ」

「ふぁ、ふぁいしょぶれふ……」


 明らかに呂律の回っていないメリーナに、リオンは呆れた眼差しを向ける。


「ふぁぁぁぁっ……眠いなぁ……」


 そんな中で大きな欠伸をしたフォンは、涙を流し右手で目を擦った。

 今、どれ位の時間なのかは定かではないが、月の位置から夜も深まっていると分かった。

 後ろに手を着き背を仰け反らせるフォンは、大きな欠伸をして空を見上げる。


「あーぁ……ダメだ! 眠い!」

「お前も少し仮眠でもとってろよ。もう少ししたら火の番代わって貰うから」

「あぁー……ん。分かった」


 そのまま仰向けに倒れたフォンはそのまま寝息をたてる。

 一瞬で眠りに就いたフォンにジト目を向けるリオンは、ふっと息を吐くと、焚き木をくべる。

 静けさ漂う中で、焚き火が燃える音だけが聞こえていた。

 その音に耳を傾けるリオンは、ふと気配を感じ、脇に置いた剣を握る。

 殺気ではないが、明らかに誰かがコチラを窺っている、そんな視線を感じた。


(誰だ? 予言で言っていた風牙族か?)


 眉間にシワを寄せ、警戒するリオンは、ゆっくりと立ち上がる。

 焚き火に照らされ、影が大きく伸びた。

 揺らめく炎を背に、森を見回す。気配は上手く隠してあり、何処にいるのか全く分からなかった。

 切れ長の眼差しをゆっくりと動かした。しかし、その目に映るのは揺れる木の葉だけだった。

 静かに吹き抜ける風が、リオンの黒髪を揺らす。


(何処だ……何処にいる?)


 更に注意し辺りを見回すが、やはり気配を感じない。

 しかし、視線だけは感じる。

 静かな時だけが過ぎたが、結局リオンにはその気配の人物を見つける事が出来ず、諦めた様に座り込んだ。


「どうかしたのか? リオン」


 リオンが座ると同時に、寝ていたはずのフォンがそう口にした。狸寝入りをしていたわけではなく、フォンも、何か妙な視線を感じたのだ。

 薄らと瞼を開き、リオンを見据えるフォンは、もう一度小声で呟く。


「見つかったか?」

「いいや。どうやら、相手はこの場所を知り尽くしている人物らしい」


 小さく頭を振るリオンに、フォンは「そうか」と呟いた。

 また静かな時が流れる。焚き火も大分弱まり、黒煙が薄らと漂っていた。

 結局、アレからフォンもリオンも寝ずに火の番をしていた。ずっと感じていたのだ。妙な視線を。

 頭を垂れ器用に寝るメリーナに目を向け、リオンは静かに呟く。


「なぁ、フォン。何で、クリスは彼女に託したんだと思う?」


 リオンの問いかけにフォンはゆっくりと体を起こす。


「何だよ? 急に? そりゃ、友達だからだろ?」


 訝しげに眉をひそめ、フォンはそう答えた。

 幼さの残るフォンの声に、リオンは鼻から息を吐くと渋い表情を浮かべる。

 その表情にフォンは小首を傾げ、傍にあった小枝を焚き火に投げ入れた。


「何だ? 気になる事があるのか?」

「あぁ……。正直、彼女には荷が重いと思わないか? 幾ら親友でも――いや、親友だからこそ分かるだろ? 癒しの力しか持たない彼女に頼む事じゃないと思わないか?」


 リオンが寝ているメリーナには聞こえない様に小声でフォンへとそう告げた。

 その言葉にフォンは腕を組むと俯いた。


「うーん……」


 唸り声を上げ、眉間にシワを寄せるフォンは、小さく首を右へと傾ける。


「親友だからこそ頼める事だってあるんじゃないか?」

「そうかも知れないが、何でワザワザ親友を危ない目にあわせる様な真似を……」

「信頼出来る人が……私以外にいなかったからです」


 いつ目を覚ましたのか、メリーナがそう口にした。俯き、悲しげなその目を潤ませて。

 その言葉で、フォンもリオンも何となくこの世界の事を理解した。

 この世界でも、時見族の力は強大で、誰しもが欲しがるモノ。恐らく、メリーナの親友であるクリスは、囚われの身。そして、彼女は未来を占わされているのだと、二人は判断した。

 故に、信じられる者がメリーナしか居ないのだろう。

 複雑そうな表情のリオンは、焚き火に枯れ枝を入れ、深く息を吐き、


「そうか……」


 と、呟いた。

 静けさが漂い、メリーナは唇を噛み締め拳を震わせる。


「クリスは……いつも一人でした……。私は、ただ彼女を見ている事しか出来ませんでした……」


 突如、メリーナは語り出す。その言葉に耳を傾け、フォンは焚き火を見据え、リオンは眉間にシワを寄せ地面を見据える。


「私は何のとりえも無いただのお嬢様でした。親の顔色ばっかり窺って、周囲の評価ばかり気にして……。

 そんな時、私はクリスと出会いました。感情も無く、ただ機械の様に人の未来を見通す彼女が、最初は怖くて……」


 メリーナは胸の前で組んだ手を震わせる。その当時の事を思い出しているのか、それとも、クリスの過酷な生き様を思い出しているのかは定かでは無く、フォンもリオンもただそんなメリーナを真っ直ぐに見据える。


「最初は怖かったけど……私はそんなクリスに惹かれ、毎日会いに行き、話をしました。それから、何度も何度も話す内に、クリスは私に教えてくれました。

 自分がただの道具として囚われている事。時期に世界を襲う災いの事。そして、私に希望を託してくれたんです」


 メリーナがそう言うと、突如見知らぬ声が


「うんうん。良い話じゃないか! 俺は感動したぞ! うん」


 と、フォンの向かいから響いた。

 その声に、驚き顔を上げるフォンとリオン。遅れて、メリーナもそこに目を向ける。

 すると、焚き火の前に一人の男が座り込んでいた。

 白髪を揺らし、涙を右腕で拭う男の姿に、フォンとリオンはすぐさま立ち上がる。


「だ、誰だ!」

「何者だ!」


 二人が声をあげると、男は赤く充血した眼差しをフォンとリオンへと向け、鼻を啜った。


「えっ? お、俺? 俺は……風牙族、次期族長のウィルスだ」

「ウイルス?」

「ウィルスだ!」


 不思議そうに首を傾げたフォンへと、ウィルスと名乗った男はそう怒鳴った。


「次期族長? メリーナ。もしかして」


 ウィルスの発言にリオンはメリーナへと目を向ける。

 すると、メリーナは小さく頷きウィルスへと真剣な眼差しを向けた。

 空気の変化に気付いたのか、ウィルスはその目を細め、三人の顔を見回す。


「な、何だ? 急に静まり返って?」

「じ、実は! お、おお、お、お、おね、おね、おね……」

「お、落ち着け! メリーナ! 深呼吸! 深呼吸!」


 アワアワするメリーナに、フォンも慌ただしくそう声をあげる。

 急にざわつきはじめる二人に、ウィルスは頭にクエッションマークを点滅させ、二人の顔を交互に見た。


「な、何だよ? 一体」


 落ち着かない様子のウィルスに対し、リオンは深くため息を吐き告げる。


「俺達は時見族の予言で、仲間を集めている。ウィルス。お前が、その予言の人物かもしれないんだ」


 リオンがそう言うと、ウィルスは疑いの眼差しをリオンへと向け、


「……言っとくが、金は無いぞ? 次期族長って言っても、風牙の里は貧乏だからな」

「金? 何の話だ?」

「そうやって金を騙し取るつもりなんだろ?」


 ウィルスの言葉に、三人は目を丸くし唖然としていた。

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