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第65回 自己紹介?

「それで……何処に向かってるんだ?」


 フォンが恐る恐るメリーナへと尋ねた。すると、メリーナは至極嬉しそうな満面の笑みを浮かべ、答える。


「私達の隠れ家です!」


 その言葉にフォンとリオンは顔を見合わせ首を傾げた。

 現在、フォンとリオンはメリーナが乗っていた馬車に乗り、荒れ道を進んでいた。二頭の馬によって引かれる馬車は木製のタイヤをガタガタと回転させる。

 乗り心地はあまり良いとは言えない。最も文明が発達したこの時代で、何故この様な乗り心地の悪い馬車があるのか、フォンは疑問を抱く。そもそも、何で貴族であろうメリーナが付き人もつけずにいる事も不思議だった。

 第一、何故盗賊なんかに襲われていたのか、それが一番の疑問だった。

 複雑そうな表情のフォンは、腕を組み考えていた。だが、すぐにその顔色は悪くなり、やがて床に平伏し動かなくなった。乗り物酔いだった。

 無様なフォンの姿に、リオンは呆れた表情でため息を吐き、小さく頭を振る。

 メリーナがそれに気付いたのはそれから小一時間程過ぎた頃だった。


「乗り物に弱いなら弱いと、最初に言ってくだされば……」


 道端へと停車した馬車の横で、メリーナが困り顔でそう告げた。木陰で木の幹に持たれ空を見上げるフォンは、あぁーっと、弱々しい声を上げる。情けないフォンの姿にただただ苦笑するメリーナを見据え、リオンは静かに尋ねる。


「それより、本当にどこに向かっているんだ? ここはアルバー大陸だろ? 癒天族がウロウロしてていい場所じゃないだろ?」


 リオンの言葉にメリーナは目を丸くする。そして、小さく首を傾げた。不安そうでとても残念そうな表情を向けるメリーナに、リオンは訝しげな表情を浮かべる。

 両手を胸の前に組むメリーナは、目を潤ませ静かに呟く。


「あ、あの……大丈夫ですか? 何処か、頭を打っちゃいましたか? それとも、記憶を売っちゃいましたか?」

「はぁ? 何の話だ?」


 意味不明な発言をするメリーナに、リオンが僅かに怒りを滲ました声を発する。しかし、メリーナの不安げな表情は変らず、僅かに瞳が揺らぐ。

 妙な間が空き、メリーナは困った様な声で告げる。


「す、すみません……幾ら私でも、記憶障害までは治療できません……」

「誰が記憶障害だ! 言っとくが、俺は正常だ」

「えーっ? でも、いきなりアルバー大陸とかわけの分からない事言われても……」


 嘘偽りの無いその無垢な瞳が真っ直ぐにリオンを見据える。その眼差しに、リオンは自分の記憶を辿り歴史を思い出す。だが、何もおかしな事は無い。すでにこの時代にも大陸と言う名前が存在していたはず――。そう考えるリオンに対し、メリーナは右手の人差し指を顎先へと当て、右斜め上へと視線を向ける。


「この大陸に名前なんてありませんよ?」


 困惑気味に呟くメリーナに、リオンは訝しげな表情を浮かべた。リオンが知る限り、国の名前は大陸の名前から付けられたモノだと学んでいた。しかし、メリーナのその眼差しには嘘など吐いている様子も無く、リオンは目を細め息を吐いた。

 こう言う事は良くある事だと、思いだしたのだ。歴史の流れなど、著者による主観で大きく事なる。それに、長い年月がたち、その歴史も少しずつ変化していったのだ。そう考えると、今の状況も納得できた。

 なんらかの理由で歴史が変えられているのだと。

 黒髪を右手でかき乱すリオンは、フッと息を吐くと肩の力を抜いた。

 突然のリオンの奇怪な行動に目を丸くするメリーナは、やがて、その眼差しを不安で潤ませる。


「やっぱり……頭を――」

「違う! 俺は正常だ!」


 メリーナと話していると、リオンはどうも調子が狂った。何処かフォンと似ている――いや、クレアの方に似ているそんな感じがした。

 いつに無く声を荒げたリオンに、酔いから醒めたフォンが目を丸くし、やがてジト目を向ける。その眼差しにリオンは気付き、フォンを睨む。


「な、何だ! その目は?」

「いや……お前さぁ……もう少し女の子には優しくするべきじゃないか?」


 呆れた様にフォンがそう言うと、リオンは仏頂面で顔を背けた。


「関係無いだろ!」

「はぁ……これだから、モテる男は……」


 肩を竦めるフォンは頭を左右に振った。そのフォンの態度にリオンは無性に腹が立った。

 妙に険悪なムードが漂う中で、メリーナだけがオロオロとしていた。金色の髪を揺らし右往左往するメリーナは、どうすればいいのか分からずただ「あわあわ」と口ずさんでいた。

 フォンとリオンにとってこんなやり取りは日常茶飯事だった。その為、険悪な雰囲気はすぐに晴れ、木陰に座っていたフォンは立ち上がりお尻を叩く。


「さぁて、酔いも醒めたし、そろそろ行くか!」


 背筋を伸ばしそう口にしたフォンに対し、腕を組むリオンは大きく息を吐く。


「そうだな。お前の所為で大分時間も食ったし」


 憮然とした態度でリオンがそう言うと、フォンは苦笑した。

 安堵した様に息を吐いたメリーナは、またいつもと変らぬ嬉しそうな笑みを浮かべる。


「では、私達の秘密基地に案内しますね? えーっと……」


 そこで、メリーナの言葉が途切れる。そして、不意に腕を組み俯き、唸り声を上げた。

 突然のメリーナの行動にフォンとリオンは顔を見合わせ、首を捻る。


「ど、どうかしたのか?」

「あっ、はい……私、お二人のお名前をど忘れしたみたいで……」


 メリーナの言葉にリオンは訝しげな表情を浮かべ、フォンは失笑する。


(考えたら……俺ら、自己紹介してねぇーよ……)


 表情を引きつらせ、右肩をやや落とすフォンは目を細めた。

 フォンの微妙な表情に、メリーナは愛らしく首をかしげ、無垢な瞳を向ける。その瞳に、フォンは申し訳なく思い謝るより先に、リオンが当然だと言わんばかりに告げる。


「ど忘れも何も、俺達はお前に名乗って無いからな」

「はわっ!」


 メリーナは驚きの声をあげ、フォンは慌ててリオンへと怒鳴る。


「リオン! お、お前!」

「何だ? 本当の事を言っただけだろ?」

「もっと、こう、やんわりと伝えられないのかよ!」


 大きく腕を動かしそう言うフォンに対し、リオンは面倒臭そうにジト目を向ける。


「何だ? やんわりって? 大体、名乗っていないから名乗っていないと言っただけだろ?」

「だ、だから、お前はどうしてそんなに冷たいんだ? もう少し相手の事を考えてだなぁ……」


 腰に手をあて呆れた様に大きなため息を吐くフォンに、リオンはあからさまに嫌そうな表情を見せた。

 もめる二人に対し、キョトンとするメリーナは、静かにリオンの方へと顔を向け小さく首を傾げる。


「り……おん……さんで、いいんですよね?」


 メリーナが恐る恐るリオンへとそう尋ねる。その声にリオンは訝しげな表情を向けた。


「何で、俺の名前を?」


 疑問を抱くリオンに、メリーナはえへへと恥ずかしそうに笑う。


「さっき、あの方がそう呼んでましたから」

「そ、そうか……」


 右手でフォンを指すメリーナに、リオンは静かにそう告げた。

 どうにもやり難いといった感じのリオンは右手で頭を掻くと、渋い表情をフォンへと向ける。フォンも少々困り顔で、右手で頭を掻く。


「え、えっと……俺は――」


 フォンが自己紹介をしようとしたその時、リオンがその腹へと肘を当てる。その衝撃にフォンは「うっ」と声を漏らし、リオンへと視線を向ける。

 その眼差しにリオンは軽く頭を振り合図を送り、フォンは訝しげな表情を浮かべた。


「な、何だよ?」


 メリーナから距離を置いたフォンは、リオンへと静かにそう尋ねた。すると、リオンは声を潜め答えた。


「俺達は本来この世界に居てはいけない存在。本当の名前を名乗るのはマズイだろ?」

「何で? 別にマズイ事も何も――」

「バカか?」

「ば、バカって……」


 呆れた表情のリオンへと、フォンは引きつった表情を向ける。流石にバカ呼ばわりされた事にカチンと来たのか、額には青筋が浮かび上がっていた。

 そんなフォンへとリオンは深く息を吐き、横目でメリーナを見据えて告げる。


「彼女は、この時代の運命を変えたメンバーの一人だ」

「そりゃ、分かってるよ。けど、何で名前を……」

「お前なぁ……さっきも言ったが、俺達はここに存在してはいけない存在だぞ? そんな存在の俺達がメリーナと一緒に居ていいと思ってるのか?」


 その言葉にフォンは渋い表情を浮かべ、唸り声を上げる。


「まぁ、居ちゃいけないだろうな。実際問題」

「だが、すでに俺達はかかわってしまった。歴史を変えるわけにはいかんだろ?」

「え、えっと……じゃあ……どうするんだ?」


 頬をぽりぽりと掻くフォンが苦笑し尋ねる。すると、リオンは目を細め答える。


「決まってるだろ。この時代に活躍したメンバーの名前を語ればいい」

「いやいやいや。それこそまずいだろ!」


 フォンが慌てて声を荒げるが、リオンは自信ありげに笑みを浮かべる。


「バカか? お前は」

「またバカって言ったな……お前」


 フォンがジト目を向けるが、リオンは気にせず続ける。


「同じ名を語っていれば、本人が現れた時、俺達の存在なんて忘れる程の衝撃を与えるだろ?」

「衝撃? 何のだよ?」

「考えてみろ。この時代の運命を変えたメンバーは最強と言われていた人達ばかりだ。

 俺達みたいなアカデミアの生徒じゃ到底足元にも及ばないな。そんな俺達を遥かに超える強さの人達を見れば、凄い衝撃になるだろ?」


 自信満々に語るリオンに、フォンは聊か不安を覚える。妙に饒舌だったのが気になったのだ。その為、フォンは何か嫌な予感を感じていた。

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