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第62回 見知らぬ場所で

 冷たい風が吹き抜け、フォンの茶色の髪を優しく撫でた。


「んっ……んんっ?」


 その冷たい風で目を覚ましたフォンは、体を起こしぼやける視界で辺りを見回す。一瞬、自分の目がおかしくなったのかと思い、両手で目を擦る。

 だが、フォンの目に映る光景は変わらない。ここは間違いなく森の中だった。

 緩やかに流れる風に、木々の葉は揺れ、木漏れ日が僅かに照らす。視界はすでに良好だったが、この光景にフォンは暫く口をあんぐりと開け硬直していた。

 確かに地下に居た。そして、スバルが古代兵器を動かして――。徐々に記憶が思い出されていき、フォンは思い出したように勢い良く立ち上がる。


「あぁーっ!」


 だが、その瞬間、フォンは頭を太い木の枝にぶつけた。


「ふがっ!」


 ガンッと鈍い音が響き、太い木の枝が大きく上下に揺れる。緑の葉がニ、三枚ほど宙を舞い、静かにフォンの足元へと落ちた。

 蹲り頭を両手で押さえるフォンは、涙目で辺りをもう一度確認する。やはり、これは現実で、夢ではないと、理解した。


「うぐっ……マジ、いてぇ……」


 今度は気をつけ、ゆっくりと立ち上がったフォンは、ジト目で自分の頭を叩いた木を見据える。やけに背の低い木で、大きさは二メートル程だった。


「何でこんな小さな木が……」


 ブツブツと文句を言っていると、何処からか「うぅっ……」と呻き声が聞こえた。その声にフォンは聞き覚えがあり、すぐに周囲を見回しその声の主を探す。


「リオン! 何処だ!」


 右手を口の横にあて、そう叫ぶフォンに、「ここだ……」と遠くから声が聞こえた。辺りを見回したフォンは声の方へとゆっくりと足を進める。膝ほどまで伸びた草を踏み締め、木の幹に手を着く。木の幹に触れフォンは気付く。その木をフォンは見た事がなかった。


(何だ? この木……)


 押し当てた手で幹をゆっくりと撫でる。手触りは何処にでもある木だが、葉の形状や幹の色から目にした事がない。

 訝しげな表情を浮かべるフォンに、茂みの向こうからリオンが姿を見せる。


「イッツ……フォン。大丈夫か?」


 リオンが表情を歪め、左手で腰を押さえながらフォンへと目を向ける。真剣な表情で木を見据えるフォンに、リオンは呆れた様に吐息を漏らす。

 目を細め肩を落としたリオンは、フォンへと足を進めその肩を叩く。


「おい。フォン。どうかしたのか?」


 肩を叩かれたフォンはビクッと肩を跳ね上げた。


「り、リオン! お、驚かすなよ……」


 慌てるフォンに対し、リオンは更に目を細め眉を歪める。そんなリオンへとフォンは苦笑しホッと胸を撫で下ろす。



「で、何をしてたんだ?」


 リオンは並んで歩くフォンへとそう投げ掛けた。

 二人はここが何処なのかを探る為に、森の中を散策していた。その最中に投げ掛けられたリオンの言葉に、フォンは頭の後ろで手を組み空を見上げる。


「うーん。もしかして、ここが死後のせか――ふがっ!」


 全てを言い終える前に、リオンの拳がフォンの頬を殴った。フォンはよろめき、そのまま茂みの中へと姿を消す。

 自分の拳をジッと見据えるリオンに対し、少々間を空けフォンが怒鳴った。


「い、いきなり何すんだ! 痛いだろ!」

「そうか……。痛みを感じるって事は、死後ってわけじゃなさそうだな」

「その確認の為に、ワザワザ俺を殴ったのか!」


 腕を組み鼻から息を吐くリオンに、フォンはムスッとした表情を浮かべた。


「とりあえず、俺達が生きていると言う事は確かだな」

「いや、だから、何で俺を殴って確認するんだよ」


 怒りをぶちまけるフォンを無視し、リオンは足を進める。理不尽なリオンに対し、フォンは眉間にシワを寄せ渋々とその背を追った。

 暫く二人は黙ったまま足を進め、険悪なムードが漂っていた。ゆっくりと足を進めているとやがて二人は幅の広い道へと出た。砂利道であまり人の通った形跡の無いその道で足を止めた二人は対照的な動きをしていた。

 不安げに辺りを見回すフォンに対し、リオンはただ一点を見据え立ち尽くしていた。


「ここ、何処だよ……」


 辺りを見回すフォンがそう呟くと、リオンは小さく息を吐く。


「さぁな。ただ、俺達がいた場所ではないのは確かだな」


 腕を組み地面を見据えたまま、リオンは呟く。草、木、それに土の匂いも、何もかもが変化していた。

 訝しげな表情で空を見上げるリオンは、その耳に馬車を引く馬の駆ける音を聞き取った。それに遅れ、フォンもその音に気付き顔を上げる。

 二人のいる道は一本道。そして、音がするのは右方向からだった。体をそちらへと向けたフォンは、腰の剣へと手を伸ばし気付く。リオンの剣が砕けて使い物にならない事に。だから、フォンは深く息を吐き、その腰の剣をリオンへと差し出す。


「何のマネだ?」


 フォンの行動に訝しげに表情を歪めたリオンがそう尋ねる。すると、フォンは左手で頬を掻き目をそむけ答える。


「俺は素手でも戦えるけど、お前は剣の方がいいだろ?」

「……気を使ってるのか?」

「別にそんなんじゃない。ただ、お互い全力で戦える方がいいだろ?」


 フォンがそう言い笑みを浮かべると、リオンは鼻から息を吐きその剣を受け取った。


「分かった。なら、ありがたく使わせてもらう」


 小さく会釈し、リオンはその剣を腰へと差した。音が徐々に近付き、後塵を巻き上げる馬車がその視界に入った。

 妙に角ばった鉄製の荷台に、フォンとリオンは訝しげな表情を浮かべる。そして、後塵の向こうに見えた妙な影に顔をこわばらせた。


「な、何だアレ……」

「板が空を飛んでる……てか、人が乗ってんぞ!」


 驚き声を上げたフォンが、後塵の向こうに見えた空を滑空する板に乗った人を指差しリオンへと顔を向ける。


「言わなくても見えてる。それより、気をつけろ。何か様子が変だ!」


 リオンの言う通り、その様子は明らかにおかしかった。馬車の周囲を囲うあの妙な板に乗る集団が、馬車を襲っている様に見えた。

 だが、もしかすると、暴走する馬車を止めようと必死なのかもしれないと、言う考えもあり二人は更に様子を窺う。

 段々近付く馬車に、フォンは困り顔で呟く。


「どうする?」

「とりあえず……止めるか?」

「じゃあ……そうするか?」


 そう言うとフォンとリオンは各々道の端へと移動する。そして、その馬車を引く馬が二人の目の前を通過しようとした刹那、その馬へと飛び乗る。すると、不思議に板に乗る男が怒声を轟かせる。


「テメェーら! コイツは俺らの獲物だぞ!」

「勝手に手ぇ、出してんじゃねぇ!」


 馬の手綱を握ったフォンとリオンはジト目でそんな男の姿を見た後、顔を見合わせる。


「どうやら、馬車を止めようと頑張っているわけではないらしいな」


 リオンがそう呟くとフォンが苦笑する。


「いやいや。別の意味で止めようとしてるから」

「何ゴチャゴチャ言ってんだ! この!」


 フォンの左側を板に乗り滑空する男が、その腕に持った剣を振り抜く。だが、フォンはその剣を身を伏せかわすと、馬の背に仁王立ちし、男の顔を殴打した。鈍い打撃音が響き男の体がその妙な板から投げ出される。

 それと同時にフォンの目が輝く。だが、その瞬間にリオンがジト目を向けた。何をしようとしているのかおおよその見当がつき、その結果も予測がつく。


「やめとけ。怪我するぞ?」

「いいや。俺の好奇心は止められない!」


 と、フォンは謎の板へと飛び乗った。そして、見事に転落した。馬に跨るリオンは右手で頭を押さえ深く息を吐き、頭を左右に振った。こうなる事を分かっていた為、呆れてモノも言えなかった。

 激しく土煙を巻き上げ転げるフォンは、ペッペッと口に入った土を吐く。そして、遠ざかっていく馬車を見据える。


「くっそーっ!」


 悔しそうに地面を叩いたフォンは、地面に転がる板へと目を向けた。フォンが乗った衝撃で、この板も一緒に落ちたのだ。

 擦り剥いた肘から血を流すフォンは、ゆっくりと立ち上がりその板を掴む。


「やっぱ、これっきゃないよな」


 無邪気な子供の様に目を輝かせるフォンは、その板へと両足を乗せバランスを取った。すると、その板はゆっくりと空中へと浮かんだ。

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