表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/146

第33回 目的地 王都ウォークス

 数日が過ぎ――。

 フォン達は王都ウォークスへと到着していた。

 三十数年前の戦場となった場所であり、その傷跡が未だに残っている。その町の中心に佇むのは、この王都を立ち上げた初代時見の女王クリスの巨像。十数メートルの高さもあるその像はこの国の平和の象徴でもある。あの三十数年前の戦いでも破壊されず残った像でもあり、それはこの国の宝となっている。今では飛行艇と言う高度な交通手段がある為、観光で訪れる人も多く人で賑わっていた。

 そんな王都ウォークスを馬車で移動するフォン達。すでにフォンの右足首の腫れも引き、リオンの傷も大分癒えていた。だが、クレアの疲労だけは未だ抜けず、荷台で寝息を立てていた。

 荷台から身を乗り出し興味津々に町並みを見据えるフォンは、やや興奮気味に鼻息を荒げ、荷台で静かに剣の手入れをするリオンへと声を上げる。


「リオン! リオン! 見てみろよ! なぁなぁ!」


 子供の様に目をキラキラ輝かせるフォンに、リオンは小さく吐息を漏らしジト目を向ける。


「お前なぁ……。遊びに来たんじゃないんだぞ?」

「分かってるけどさぁ……」


 リオンの言葉にあからさまに凹むフォンを、馬車の手綱を握るスバルが笑いながら励ます。


「気持ちは分かるよ。俺も初めてだからわくわくしてるし」

「だよな! だよな!」

「お前らなぁ……」


 呆れた様子で目を細めるリオンは、深くため息を吐き肩を落とした。こんな状況でも能天気な二人に呆れていたのだ。未だジェノスは戻ってきていないと言うのに、何でこんな能天気で居られるんだろうかと、不思議に思いつつリオンはもう一度ため息を吐く。

 数日前別れたジェノスは結局、追いついてこなかった。それが、リオンには気がかりだった。アリアは何も言わない。だから、余計に気になってしまっていた。

 暫く進んでいた馬車がゆっくりと動きを止め、手綱を握るスバルは荷台へ顔を覗かせる。


「フォン。リオン。目的の場所についたみたいだよ?」

「目的の場所?」


 フォンが首を傾げリオンの方に顔を向けると、リオンも怪訝そうな表情で首を傾げる。目的はこの王都ウォークスに来る事で、すでに達成しているはずでは、と思う二人に対し、荷台の向こうからアリアの声が響く。


「早く下りて来い」


 アリアの声にフォンとリオンは顔を見合わせ荷台から降りた。

 そこは、国王の居るニルフラント城の正門。高くそびえるその門を見上げるフォンは、感嘆の声をあげ唖然としていた。その高さは五メートル程だろうか、美しい装飾の施されたその重々しい扉は、とても目に焼きつく様な印象的なモノだった。

 三人して正門を見上げたまま口を開けボンヤリしていると、馬から下りたアリアが呆れた表情で告げる。


「おい。行くぞ!」

「えっ? ちょ、ちょっと! い、行くって!」


 慌てるスバルの声。遅れて、フォンとリオンもアリアへと目を向ける。


「何の説明も何し、こんな所に連れて来て、どう言うつもりだ?」

「ここで、やる事がある」

「ここでって、ここってニルフラント城ですよ? 一体、何の……」


 不安げな表情のスバルに対し、アリアは複雑そうな表情を浮かべ、腰に右手を当て小さく吐息を漏らす。


「私は行きたくないんだがな……。ジェノスの奴が、この国を出る前に寄って欲しいと言っててな」

「ジェノスが? でも、そのジェノスがいないんだけど、大丈夫なのか?」


 フォンがそう問い掛けると、アリアの表情が曇る。それは当然だった。ジェノスは元々この城に仕えていた為、出入が出来るだろうがアリアは違う。その為、城内に入れてもらえるか分からないのだ。そもそも、ジェノスがどうしてここに来たがっていたのかも良く分からず、アリアとしても来る必要があるのか疑問の残る所だった。

 腰に手を当てたまま小さく吐息を漏らすアリアは、不安げに城門へと視線を向ける。兵士が二人、城門の横に立っており、その兵士が怪訝そうな眼差しをフォン達に向けていた。


「どうするんだよ?」

「仕方ないだろ。行くぞ」

「えっ? マジで行くんですか?」


 フォンの慌てた声にアリアが答えると、スバルが慌てて声を上げる。あんな鋭く威圧的な眼差しを向ける門番が居る所に行こうというのだ、驚くのも無理は無かった。

 オロオロとするスバルに対し、フォンとリオンがその脇を掴み静かに告げる。


「諦めろ」

「そうそう。行くぞ」

「ちょ、ちょっと待てよ! お前ら平気なのか!」


 フォンとリオンの顔を交互に見ながら叫ぶスバルに、二人は顔を見合わせ苦笑する。


「平気なわけ無いだろ?」

「そうそう。ここは諦めて開き直るしか無いって」


 頷くフォンに、スバルは「開き直るって……」と涙声で呟いた。

 その後、スバルを引き摺りながらアリアの後に続き城門の前へと移動する。門番二人があからさまな怪しい者を見る様な眼差しに、アリアは穏やかに笑い歩み寄った。すると、二人の門番はその手に持った槍を交差させ、アリアの前に突き出す。


「動くな」

「ここを何処だか分かっているのか」


 右の三十代程の男が怒鳴り、左の若い男が静かに忠告する。動きを止めたアリアは静かに鼻から息を吐くと、眉間にシワを寄せ不満そうな眼差しを向けると、門番二人の表情が険しくなった。


「何だ、その目は!」


 二人の門番が槍を構え、腰を落とすと同時にフォン、リオン、スバルの三人が慌ててアリアの体を引き摺る様に後ろに引く。


「な、何喧嘩売ってんスか!」

「揉め事なんて、止めてくださいよ!」

「全く……何考えてるんだ!」


 馬車まで引き摺り戻し、フォン達三人は捲くし立てる様に次々とアリアへ不満の声をぶつける。そんな三人に憮然とした表情を向けるアリアは、腕を組み馬車に背中を預けそっぽを向いていた。

 子供の様な態度のアリアを無視し、三人は門番を見据えながら話し合う。


「どうする?」

「このまま、行かないって事は?」

「いや、でも、ジェノスさんはここに用があったわけだし……」

「いっそ、ジェノスの名前だしたらどうだ?」


 ボソリと呟くフォンの言葉に、リオンとスバルは顔を見合わせる。


「そうか……。普通に、ジェノスの名前を出せばいけるかもな」

「そもそも、アリアさんが不満げな顔を門番の人に向けたのが原因だしね」

「そうそう。ジェノスが用があったって言うなら、きっと取り次ぎだって出来るだろ?」

「じゃあ、それで行くか」


 リオンが静かにそう言い面倒臭そうに歩み出すと、フォンとスバルもそれに続き歩き出す。

 本日二度目となる門番の前へと歩み出ると、門番の二人は先程と同じく槍を交錯させ前へと出した。三人して足を止めると、リオンが真剣な表情で門番二人を見据え、落ち着いた口調で告げる。


「ジェノスに頼まれてここに来た」

「ジェノス?」

「先輩、ジェノスって言えば……」

「ああ。だとすると……」


 ジェノスの名を出したとたんに門番二人の表情が強張り、三人を見る目が明らかに変わった。強い警戒心と共に怪しむ目が向けられる。本当にジェノスの知り合いだろうかと。明らかなる疑いの眼差しを向ける門番二人に、フォンとスバルはリオンの後ろでニコニコと笑みを浮かべていた。

 暫し、ヒソヒソと話す門番二人はやがてその手の槍を構えると、叫ぶ。


「ジェノスの仲間だ! 捕らえろ!」

「えっ?」

「はぁ?」

「な、何でそうなるんだよ!」


 その光景にフォンとリオンが呆れた声を上げる中で、スバルが一人叫ぶ。門番の声に門がゆっくりと開かれ、その奥から複数の兵士が武装し三人を取り囲む様に現れ、フォンとリオンは訝しげな表情を浮かべ、スバルはうろたえていた。

 その騒ぎに気付いたアリアはすぐに馬車へと乗り込むとその手綱を握る。


「クッ! ジェノスの奴……」


 静かに呟き馬車を走らせる。去り行く馬車に若い門番が気付き叫ぶ。


「あの馬車を止めろ! アレも仲間だ!」

「よし、お前らはあの馬車を追え!」


 門番の声に兵士の一人が叫ぶと、五人の兵士が馬車を追って走り出す。その騒ぎに観光していた人達は足を止め辺りには人だかりが出来ていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ