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第27回 フォンvs巨漢の男

 屋敷の中央エントランスにてアックスを振り回す巨漢と戦うフォン。

 激しく打ち下ろされるアックスに苦戦を強いられていた。次々に打ち下ろされるアックスによって床はすでにボロボロになっており、足元には砕石が散らばっている。足場がかなり悪くなり、素早い動きで戦うフォンにとっては不利な状態になっていた。

 僅かに呼吸を乱すフォンは、眉間にシワを寄せ苦しそうな表情を大男へと向ける。隆々とした二の腕を振り上げる男にフォンは僅かに膝を曲げると力を込める。長い髪を振り乱し男の腕が大きなモーションで振り下ろされ、フォンはそれと同時に床を蹴り右方向へと飛ぶ。

 遅れて男のアックスが床へと突き刺さり、砕石が飛び散る。その瞬間、男の体が僅かによろめく。足場が悪くなった為、男の踏み込む力に床が耐え切れなく崩れたのだ。

 男がよろめく姿を視界の端に捉えたフォンはすぐに体を反転させ、男の方へと突っ込む。腰の位置に剣を構え、最短距離で男の下へと迫るフォンだったが、その時拳程の大きさの砕石を踏み込んだ右足で踏みつけ大きくバランスを崩した。派手に前方へと転げ、そのまま男の足元を通り過ぎ向こう側の壁へと激突した。


「あいたたっ……」


 座り込み頭を擦るフォンは、ゆっくりと立ち上がる。だが、その時右の足首に痛みが走り表情を歪めた。バランスを崩した時に足を捻っていたのだ。ズキズキと痛むその足へと目を向けたフォンは痛みに奥歯を噛み締める。

 最悪だった。利き足を痛め踏み込む事が出来ない。故に素早く動きまわる事も、力強く剣を振り抜く事も出来ない。そして、相手の一撃を受ける事も出来ないと言う最悪の状態。長期戦に持ち込まれれば間違いなく自分が不利だと判断したフォンは、小さく舌打ちをすると走り出す。巨漢の男に向かって。

 判断したのだ。足の痛みが酷くなる前に決着を着けなければならないと。

 床に突き刺さったアックスを静かに持ち上げる巨漢の男の顔がゆっくりとフォンへと向く。長い髪の合間から覗くその眼光にフォンは思わず前傾姿勢から一気に体を後方へと仰け反らせ、急ブレーキを掛けると一気に床を蹴りその場を飛び退く。その際、右足が痛み僅かに表情を歪めるが、その視線の先で鋭利な刃が横一線に通り過ぎた。

 鋭い風がフォンの体を襲い、茶色の髪とロングコートが激しく揺れる。僅かに前髪を掠めたのか、茶色の毛が舞う。激しく着地し足を踏ん張るフォンの表情は激痛に歪み、右膝が床へと落ちた。


「ぐっ……っぅ……」


 声を漏らすフォンの右足が震える。明らかに痛みが増していた。今の動きで悪化してしまい、その痛みは想像を絶するモノだった。剣を床へと突き立て、右手で右の足首に触れる。


「っぅ!」


 触れただけで痛みが走り、フォンの表情は歪む。派手に腫れていた。相当酷い状態なのだと、医学の無いフォンでも分かる。

 俯き呼吸を乱すフォンに対し、巨漢の男は不適な笑みを浮かべ肩を大きく揺らす。


「ぐへへへ……。どうやら、さっき転んだ時に何処か痛めたか?」


 低く不気味な声で告げる巨漢の男にフォンは驚愕し顔を上げる。視線が巨漢の男と交錯し、フォンは静かに口を開く。


「お前……喋れたのか!」


 フォンの声が壁に反響しこだまする。二人の間に流れる妙な空気。そして、僅かな沈黙の後、巨漢の男が叫ぶ。


「当たり前だろ!」

「あ、当たり前って……じゃあ、あの呻き声はなんだったんだよ!」

「ふ、雰囲気作りだ! あの場合、あの方が雰囲気出るだろ!」

「いやいやいや。雰囲気作りとかいいから!」


 痛みすら忘れフォンも巨漢の男へと叫ぶ。それ程驚いたのだ。呆然とするフォンに呆れた様子の巨漢の男。二人の間に流れる妙な空気の中で、フォンは静かに右膝を震わせながら立ち上がる。痛みに奥歯を噛み締め堪えながら。

 そんなフォンに対し巨漢の男は不適な笑みを浮かべると、アックスを肩に担ぎ笑う。


「ぐへへへ。オモシレぇー奴だなオメェー」

「そりゃーどうも」


 僅かに苦笑いを浮かべるフォンに、巨漢の男はアックスを振り上げ叫ぶ。


「オメェーの為にこの一撃で楽にしてやるぞ」

「へぇー。じゃあ、俺もこの一撃に全てを賭ける。一発勝負だな」


 剣を腰の位置に構え右足を退く。全ての体重を踏み込む左足へと乗せ、長く息を吐く。意識を集中し、右足の痛みを緩和する。いや、正確にはその痛みを忘れようとしていた。

 深く静かに息を吐き切ったフォンは、ゆっくりと瞼を開くと鋭い眼差しで男を見据える。その眼差しに巨漢の男は僅かに臆する。妙な威圧感があり、巨漢の男はフォンの放つ空気に完全に呑み込まれた。

 時が僅かに流れ、エントランスへと風が流れる。微量の埃が舞い上がり、フォンはゆっくりと右足を前へと踏み出す。ゆっくりと、一歩、また一歩と足を進め、徐々にその足は加速し、その姿は男の視界から突如として消えた。


「なっ!」


 男が驚く刹那。背後で物音が聞こえ振り返ると、そこにフォンの姿があった。踏み込み足元から風を吹き上がらせるフォンの視線が真っ直ぐに巨漢の男の顔を見上げ、奥歯を噛み締め一気に刃が振り抜かれる、下から上へと一直線に。

 反応が遅れ、男の右腕がアックスを振り下ろす。だが、それより早くフォンの放った刃は男の体を切りつけ、鮮血と共にアックスはその手から落ちた。重々しく床へと刃を突き立て、土ぼこりを舞い上げる。その中で男の膝が震え、その体が倒れるのを持ち堪える。


「ぐふぅ…ぐふぅ……」

「悪いな。しばらく痛みが伴うだろうけど……命までは奪わねぇ」

「ぐふっ……」


 吐血し両膝が同時に床へと落ちる。それを見据え、フォンは右足を引き摺り足を進め、ゆっくりと剣を鞘へと収めた。それと同時に巨漢の男は床へと倒れ込んだ。派手に出血はしているが、それでも男の息はあった。弱々しく今にも途切れそうな息が。

 その呼吸音を聞きながら、フォンはゆっくりと二階へと続く階段を上がる。右足の痛みに表情を歪めながら、手すりに掴まりゆっくりと。


「くっ……はぁ…」


 呼吸を乱し、階段の途中で足を止めたフォンは天井を見上げると、体を反転させ階段へと腰を下ろした。


「もー無理。これ以上動けねぇー!」


 声をあげその場に倒れ込むフォンの耳に僅かに届く足音。その足音にフォンはすぐに体を起こすと、手すりに掴まりゆっくりと立ち上がる。

 二階の廊下から響く足音は明らかにコチラへと向かっていると、表情を険しくするフォンに廊下の向こうから現れた足音の主は奇怪な声を上げる。


「あ、アレ? フォン?」

「スバル!」


 驚いた様に声を上げたフォンは、安堵した様にその場にへたり込むと、肩の力を抜いた。その場に座りこむフォンの姿に、スバルは軽く首を傾げゆっくりと歩み寄る。その際、吹き抜けになったエントランスの一階に倒れる巨漢の姿を見つけ、表情を引きつらせた。


「もしかして、殺したの?」

「んなわけねぇーだろ。気を失ってるだけだ」

「ほ、本当に?」

「嘘ついてどうすんだよ! てか、肩貸してくれないか?」


 苦笑するフォンに、呆れた様にため息をついたスバルはゆっくりと階段を下りフォンの肩へと腕を回し体を持ち上げた。スバルへと体を預けるフォンは「わりぃな」と左手で頭を掻き、スバルは迷惑そうにジト目を向け「全くだよ」と唇を尖らせ呟いた。

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