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第25回 クレア奪還作戦

 静けさ漂う村はずれ。そこに、それは存在していた。

 人気の無い古びた屋敷。人が本当に住んでいるのかと思わせる程鉄柵にはつるが巻き付き、屋敷のいたる場所にクモの巣が張り巡らされていた。

 ここが、指定された場所で、この屋敷の門の前にフォンとリオンとスバルの三人が居た。書き残されていた手紙に書かれていたのだ。来るのはガキ共三人だけだと。その為、アリアとジェノスはここにはいない。アリアは不満げだったが、ジェノスは「コレも経験だ」と、三人を見送った。

 自分達で考え、自分達の力だけでクレアを救出して来いとの事だ。

 不貞腐れた様子の表情で腕を組むリオンは、小さくため息を吐くと横目でフォンとスバルへと視線を向けた。


「これからどうする気だ? 作戦も考えずにここまで来たが……」

「いや、そりゃ、中央突破でしょ?」


 当然と拳を握り締め力強く言い放つフォンに、リオンは冷めた視線を向け肩を落とす。


「お前に聞いた俺がバカだった……」

「うぉい! それって、俺がバカみたいな言い方じゃないか!」

「いや、実際バカでしょ……。中央突破とか……死にに行く様なモノだし、こっちは人質捕られてるの忘れないでよ」


 呆れた様に右手を額に当て首を振るスバルの言葉にフォンは目を細める。スバルにまでこんな風に言われるとは思っていなかったのだ。

 落ち込むフォンを無視し、リオンとスバルは策を練っていた。リオンが考えた策は単純なモノだった。自分が囮になり、その間にフォンとスバルで屋敷に侵入しクレアを救出する。単純だが問題も多い策だった為、スバルは反対していた。

 問題の一つとして敵の数だ。どれ位の人数が居るのかと言う事を事前に調査していない為、囮としてリオンが敵を引き付けても屋敷に人が大勢残っていたら意味が無いのだ。それに、クレアの居場所も分かっていない為、効率が悪いと言う点も問題だった。

 スバルの指摘に対し終始不満げな表情を浮かべるリオンは、眉間にシワを寄せる。


「じゃあ、他に何かいい策でもあるのか?」


 不機嫌そうな声でスバルに対し睨みを聞かせるリオンに、スバルは腕を組み唸り声を上げる。それから数十秒後、何か思いついた様にポンと手を叩くと、笑みを浮かべる。その顔にリオンはジト目を向け、「何か思いついたのか?」と静かに尋ねた。


「ここは、フォンの言った通り、中央突破で行こう!」

「…………そうか。それじゃあ、先陣を切って来い」

「うわわわっ! ちょ、ちょっと待って、は、話を聞いてくれよ!」


 冷めた目を向けスバルの背中を押すリオンに、スバルは慌てて声をあげる。


「もちろん、中央突破って言ってもこの時間帯じゃないよ。昼間っからバカみたく突っ込むわけ無いでしょ!」

「ば、バカ! また、バカって言った!」


 バカと言うフレーズに過敏に反応を示すフォンにリオンとスバルはジト目を向け、小さくため息を吐いて話を戻す。


「とにかく、今はここから様子を探ろう」

「夜襲ってわけか? でも、相手も夜襲は警戒するだろ? どうするんだ?」

「そこは、フォンに頑張ってもらおうかな」

「えっ? お、俺?」


 急に自分の名前が出てきて驚くフォンに、スバルはニヤニヤとした笑みを浮かべる。

 深夜――。

 屋敷に一人忍び込む影。茶色のロングコートをなびかせ、門を乗り越えたその人物は、静かな足取りで屋敷へと侵入する。

 スバルの考えた策。それは、夜襲。その先陣を切るのはフォン。まず、三人の中で一番素早いフォンが侵入し、機動力を活かしかく乱する。その後に混乱した屋敷内にリオンとスバルが侵入しクレアを探し出し救出すると、言う算段だった。

 とりあえず、屋敷の敷地内へと侵入したフォンは、僅かに明かりの漏れる窓から室内を覗く。複数の人影が僅かに窺えるが、それだけではどれ位の人が居るのかは分からなかった。

 小さく息を吐いたフォンは意を決し、助走をつけ窓ガラスへと向かう。その刹那だった。


「誰だ!」

「えっ?」


 唐突に響く男の声に、フォンは間の抜けた声をあげ視線を動かす。丁度、屋敷の角からランプを持った一人の男がそこには居た。背中に大きな槍を背負ったその男とフォンの視線が合い、男が懐から小さな笛を取り出す。


「イッ!」

「侵入者だ!」


 表情を歪めたフォンに対し、男が叫びその小さな笛を力いっぱいに吹く。甲高い音が周囲に響き渡り、その音に反応する様に屋敷内から数人の武装した男達が飛び出す。

 窓と言う窓には明かりが灯り、その窓越しに複数の人影が現れる。屋敷の敷地の外。木の上に身を隠すリオンとスバルは、その窓から見える人影を確認していた。コレが本来の目的だった。騒ぎとなればどの部屋も明かりが灯り人影で何処に誰が居るのかと言うのも分かりやすいからだ。


「流石フォンだね」

「そうだな。アイツが侵入すると必ず見つかる。しかも、驚く程早くな」


 呆れた表情で吐息を漏らしたリオンは、呆れた様に首を左右に振る。そんなリオンに苦笑するスバルは、右手で頬を掻く。

 フォンの特性を二人はよく分かっていた。どうもフォンは注意力が散漫で、こう言う侵入・潜入などを行うと必ず一番最初に見つかる。どうせ見つかるならと、スバルはフォンに先陣を任せたのだ。案の定、侵入して五分で見つかり、屋敷内は大騒ぎとなっていた。


「ホント、フォンってすぐ見つかるね」

「ああ……子供の頃、かくれんぼをすると必ずアイツが最初に見つかるんだ」

「そ、そうなんだ……」


 感慨深そうに腕を組み語るリオンに、スバルは呆れた様に頷く。まさか、そんな時からその特性が出ているとは思ってもいなかったのだ。

 敷地内を走り回るフォンの姿とそれを追う武装した集団を確認したリオンが静かに木から飛び降りると、スバルも慌てて木から飛び降りる。


「いたっ!」


 着地に失敗し尻餅を着いたスバルが声をあげると、リオンはジト目を向け吐息を漏らす。


「俺は先に行くぞ」

「えっ? あっ、うん。ごめん。俺もすぐ行くから」

「ああ。俺は西から。お前は東からだぞ」

「うん。分かってる。じゃあ、気をつけて」

「お前もな」


 リオンが右手を出すとスバルも右手を差し出し、二人はその手を互いに叩き合う。その音が僅かに森の中へと響き渡り、リオンは静かに地を蹴り走り出す。その背中を見送り数分後、スバルは立ち上がりお尻の土を払いリオンとは反対方向へと静かな足取りで駆け出した。

 その頃、敷地内で武装集団に追われるフォンは、逃げ回りながらも当身で相手を即倒させ屋敷内への侵入に成功していた。中央口から堂々と屋敷にはいり、現在その一階広いエントランスに佇んでいた。吹き抜けになっており、左右に分かれた階段を上ったその先にいる一人の男と対峙していた。

 片手に大きなアックスを持った筋肉質の男。体格もフォンの数倍程の大きさで、見ただけでソイツが強いのだとフォンは悟った。長く無造作に伸ばされた黒髪を揺らし、その奥に殺気に満ちた眼光がフォンを見据える。


「ううぅぅっ……」

「ふーん。お前がこの場所を守ってるから、ここにはあいつ等近付かないのか」


 フォンが右手の親指で後ろを指差し、そう告げる。ここに入ると同時に、武装した集団は動きを止めニヤ付いた顔をフォンへと向けていた為、何かあると思っていた。武装した集団が決してそこに足を踏み入れようとしない事から、フォンはこの男は敵味方見境なく襲うタイプの危険な奴なのだと判断し、仕方なく剣を抜く。なるべくなら、人は斬りたくなかったが致し方ないと。

 その行動にその男は二階から飛び降りフォンの前へと降り立つ。地響きが起こり突風が埃を舞い上げる。フォンの体を僅かな風が襲い、茶色の髪とロングコートを揺らす。

 一方、西口から屋敷に侵入したリオンも、東口から侵入したスバルも各々この屋敷を守る強敵と出会っていた。

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