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第21回 黒幕

 深夜。宿をとったフォン達一行はその部屋で各々体を休めていた。

 フォンとリオンの二人が相部屋で、スバルとポールの二人が相部屋と言う配置になっていた。スバルがもっとポールから教わる事が沢山あるからと、ポールとの相部屋を志願したのだ。

 フォンとリオンの部屋は静けさが漂っていた。リオンはいつもの調子で自らの剣の手入れを行い、フォンはベッドに横になり天井を見上げていた。

 夜風で窓ガラスが軋む。今日は妙に風が強く、窓から見える木々も激しく枝を揺らしていた。何か不穏な空気を感じつつ、リオンは時折窓の外へと視線を向ける。昼間見かけた旅人達を思い出す。明らかに殺気立って入る様に見えた。その為、今日はいつもにもまして警戒を強めていた。

 落ち着かないリオンに対し、フォンは欠伸をまじえ口を開く。


「どうかしたのか? さっきから、落ち着かない様だけど?」

「んっ? ああ……。昼間見た旅人達が気になってな」

「ふーん。でも、どの町にもいるだろ? 旅人なんて?」

「かもな。一応、警戒しておく必要があると思っただけだ」


 視線を合わせずそう答えたリオンに、「そっか」と静かに答えたフォンは頭の後ろで手を組み天井を見上げる。欠伸をし、虚ろになる眼差し。ボーッとしていると徐々に瞼は重くなり、やがて眠りに就いた。静かな部屋の中に聞こえるフォンの寝息に、リオンは剣を鞘へと納めゆっくりと立ち上がる。足音を立てず窓の近くまで歩みを進め、壁に身を隠し窓から外を窺う。月明かりに照らされ数人の影が外を往来するのが見え、リオンは眉をひそめる。

 すぐに剣を手に取ったリオンは、部屋の入り口へと素早く移動すると、ドアに耳をあて外の様子を窺う。僅かに聞こえる複数の足音にリオンはすぐにドアから離れ、静かに剣を抜く。そして、ベッドで寝息を立てるフォンに布団をかぶせその姿を隠すと、剣を構える。

 暫く沈黙が周囲を包んだ。僅かな殺気がドアの向こうから漂う。昼間見た武装した旅人達だとリオンは判断した。殺気を漂わせている事から、明らかにこちらへ対する敵意を感じ取りリオンはいつも以上に鋭い眼差しをドアへと向ける。

 直後、ドアが静かに開かれ、数人の武装した男が部屋へと侵入する。それと同時に、リオンは駆け出し侵入してきた男達へと剣を振り抜いた。


「くっ!」


 先頭に居た男が剣を抜き、リオンの放った一撃を防ぐ。金属音が響き火花が散る。交わった刃が軋み震える。


「何者だ」

「チッ!」


 男が舌打ちすると、リオンの体を強引に突き放す。弾かれたリオンは体勢を整え剣を構えなおした。


「退け!」

「撤収!」


 先頭に居た男の声にその後ろに居た男が振り返り叫ぶと、部屋に侵入してきた者達は一気に外へと飛び出す。そして、部屋に残されたのはリオンと先頭に居た男の二人。ジリジリと後ろに下がる男に対し、リオンは鋭い眼差しを向け問う。


「お前らは何だ」

「貴様に答える義理は無い」

「そうか……。なら、殺されても文句は無いな」

「――ッ!」


 男はそこで初めて実感する。リオンの放つ圧倒的な威圧感と、男をはるかに凌駕する殺気に。その鋭い眼差しに呑まれ、呼吸が大きく乱れたその男に、リオンは一気に間合いを詰める。完全にその動き出しに反応出来ず、男のノド元へと刃が宛がわれる。

 一瞬の事に息を呑み、動きを止めた男に再度リオンは尋ねる。


「答えろ。お前らは何者だ」

「や、雇われたんだ……ある男に……」

「ある男? 一体、だ――」


 リオンはそこで言葉を呑むと右方向へと飛び退く。遅れて轟々しい破裂音が響き渡り、男の体が弓なりになりながら部屋の中へと倒れ込む。背中から迸る鮮血。そして、前方の壁に減り込む一発の弾丸。表情をしかめるリオンはすぐに体勢を立て直すと、床にひれ伏す男に目を落とす。

 すでに絶命していた。背中から心臓を一発。壁に減り込んだのはその心臓を貫いた弾丸だろう。表情をしかめるリオンは壁に背をあわせ、ドアの向こうへと言葉を投げかける。


「まさか、あんたが黒幕とはな」


 リオンの言葉に返答は無い。だが、リオンは表情を変えず壁に身を隠しままドアの方へと視線を向ける。


(まさか、あんなモノまで持ち出すとは……)


 眉間にシワを寄せるリオンに向かって銃が発砲される。すぐに身を退き、弾丸は壁を砕き窓ガラスを突き破った。この物音でもフォンが起きる様子が無い事から、リオンは睡眠薬を盛られたのだと確信した。この様子だとスバルも。その事を考えリオンは表情を歪める。

 最悪の状況だった。だが、それが逆にリオンを開き直らせる。考えても仕方が無い。もう突っ込むしかないと。壁から飛び出したリオンは一気にドアの方へと駆ける。そこに佇むのは銃口を向ける小柄で痩せ型の男。その見覚えのある男の顔にリオンは叫ぶ。


「ポール! 貴様!」


 怒声が響き、ポールの口元に不適に笑みが浮かべ、リオンの頭へとその銃口は向く。引き金に掛かった指がゆっくりと動く。その指へと意識を集中するリオン。間合いが狭まり、ポールの指が静かに引き金を引く。破裂音が甲高く響き、弾丸が銃口から放たれる。反動でポールの腕が跳ね上がり、リオンはその放たれた弾丸を瞬間的に顔を右へ捻り交わす。僅かに額を弾丸が掠め、鮮血が迸る。僅かな痛みに表情こそ歪めたが、その視線はポールから外れる事は無かった。


「くっ!」

「逃がすか!」


 逃げ出そうとするポールへ向かって刃を振り抜く。だが、その刹那鈍い金属音が響きリオンの振り抜いた刃が弾かれる。廊下へと飛び出し体勢を整えるリオンは目の前に立ちはだかる巨体の男を見上げる。その手に持つ金棒。あれでリオンの剣を弾いたのだ。

 剣を構えなおすリオンは、静かに笑みを浮かべる。


「何が目的か知らないが、元々俺らをこの村に呼び込むつもりだった様だな」

「何が目的? そんなの決まっているだろ? お前の――」


 ポールが言葉を発しようとしたその直後、リオンの瞳の色が赤く染まる。先程まで放たれていた殺気よりも、濃くおぞましい殺気が漂い、その獣の様な鋭い眼差しがジッとポールを見据えた。

 思わず息を呑む。その目は人と言うよりも魔獣に近い目。放たれる殺気は明らかに魔獣そのもの。そして、リオンの纏う風貌は魔獣人そのものだった。


「俺の何だって?」


 低く腹の底から吐き出されたリオンの声に返答は無く、その代わりに金棒を持った男が巨体を揺らしリオンへと突っ込んできた。振り上げた金棒が天井を貫き、抉りながら一直線にリオンへと振り下ろされるが、それがリオンに当たる直前。男はリオンの目を見て動きを止めた。金棒はリオンの額に当たる数センチ手前で止まり、男の体が小刻みに震える。


「どうした? 何で手を止める?」

「ひ、ひぃっ!」


 巨体の男がその体格に似つかわしくない甲高い声を上げて後ろへと下がった。だが、その瞬間破裂音が響き、巨体の男の心臓を弾丸が貫く。胸から飛び出した弾丸がリオンの額に向かって飛んでくるが、リオンはその弾丸の軌道がハッキリと見え、僅かに体を左へとずらし弾丸をかわす。

 後方で花瓶が割れる音が聞こえ、巨体の男は吐血しか細い声で何かを口にしたが、やがて膝から床に崩れ落ちる。リオンにはなんと言ったのか聞き取れなかった。それ程か細い声で言葉を発したその男の目には僅かに涙が浮かんでいた。その姿にリオンは唇を噛み締めると、更に眼差しを鋭くしポールを睨んだ。


「貴様はクズだな。スバルが貴様の言葉に胸を打たれ、貴様を信頼していたと言うのに……」

「商人ってのは、相手を信頼させ騙す技術が――」


 ポールの言葉が途切れる。そして、ポールは異変を感じる。体から噴出す鮮血に気付き、声が出ない事に気付き、最後に息が出来ない事に気付く。だが、その時にはもう体は静かに床へと崩れ落ち、視界はゆっくりと闇へと包まれた。

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