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第19回 変わらないモノ

 数日が過ぎ、フォン達はようやく次の村へと到着した。

 今度の村は前回訪れた村よりも広く、人口も幾分多い村。それでも、まだ農作物で生計を建てている家が殆どで、村の半分は田畑となっていた。

 クラストを出て初めて知る。自分たちがどれだけ恵まれた生活をしていたかと言う事を。

 呆然とするフォン達三人に対し、馬車を停車させたポールは二頭の馬の頭を撫でながら静かに尋ねる。


「何を驚いているんだい?」

「い、いや、村って何処もこんな感じなのか?」


 戸惑いから僅かに口調が早口になるフォンに、ポールは軽く首を傾げる。何かを考え込むしぐさを見せるポールに、フォンの後ろでリオンとスバルが顔を見合わせた。


「どうかしましたか?」


 その沈黙を破る様にスバルが荷台から飛び降りポールへと尋ねると、リオンとフォンも遅れて荷台から降りる。そんな三人へと背を向けたままのポールはゆっくりと二歩足を進めると、空を見上げ笑う。


「近年。世界は発展した。でもね。世界が発展したからと言って、全てが変わっていくわけじゃない。

 それに、彼らが居るから、世界はより良くなっているんだよ? どうしてか分かるかい?」


 振り返り笑みを浮かべるポールにフォンとリオンは顔を見合わせ、首を傾げた。何が言いたいのかよく分からなかった。世界が発展していると言うのに、この村はどうだ。前回立ち寄った村はどうだ。全くと言う程発展している様には見えなかった。

 腕を組み考え込む二人に対し、ポールは笑みを浮かべたまま答える。


「この小さな村で育てている作物はどうなると思う?」

「そりゃ、自給自足だから、その家で食べられるんじゃないのか?」


 フォンが腕を組み軽く頭を傾け答えると、ポールはフォンの顔を指差す。


「半分正解!」

「半分って……」

「じゃあ、残り半分は?」


 リオンが眉間にシワを寄せ尋ねると、ポールは肩を揺らし静かに笑う。


「それはね……。私の様な商人が買い取り、また別の町へと売りに行く」

「それが、答えなのか?」


 ジト目を向けるリオンに、ポールは「そうだよ?」とリオンがどうしてそんな目を向けているのか不思議そうに答え、フォンは「何だよそれ!」と不満げに声をあげた。だが、スバルだけはその言葉に納得した様に頷き呟く。


「変わらないモノと世界がよくなっている……そう言う事か」

「どう言う事だよ?」


 横目でスバルを見据えるフォン。一方で、ポールはスバルが自分の伝えたい事に気付いた為、嬉しそうな笑みを浮かべ何度も頷いていた。そんなポールにリオンは小さく息を吐きジト目を向けたまま、スバルへと尋ねる。


「それで、どう言う意味だと解釈したんだ?」

「ふっふっふっ! 聞きたいかい? キミ達?」

「別にいい」

「いや、いい」


 スバルの言葉にフォンとリオンの即答した声が重なり、静けさが周囲を包んだ。そして、すぐにスバルは二人に泣き付く。


「ご、ごめんなさい! 俺が悪かったよぉー。俺の話を聞いてください!」

「最初ッからそう言えばいいんだよ」

「いや、俺は本気でもうどうでもいいと思ってる」


 フォンが優しく笑って告げた隣で、リオンが冷ややかにそう告げる。硬直するスバルとフォンはゆっくりとリオンの方へと顔を向けぎこちなく笑う。完全に怒っている様子のリオンに、フォンは大げさに笑うと、その肩を軽く叩いた。


「じょ、冗談はもういいって! なっ」

「いや、冗談とかじゃなくて、本気でどうでもいい」

「いやいや。そう言わず――」

「どうでもいい!」


 仏頂面でリオンは背を向けるとそのまま村の方へと歩いていく。その背中を見据えるフォンは、右肩をやや落とし乾いた笑いを浮かべ、スバルは本気で凹んでいた。

 ポールも村へと取引に出掛け、馬車へと残されたフォンとスバル。落ち込むスバルは膝を抱え荷馬車の後ろから空を見上げていた。そんな落ち込むスバルへと歩み寄ったフォンは、いつも通りに笑いその隣に腰を下ろす。


「それで、さっきの話の続きなんだけど、ポールの言いたかった事って何なんだ?」

「えっ? あぁ……それは……」


 スバルは荷台から足を下ろしぶらぶらと揺らしながら静かに答えた。


「技術は急激に変化し、人々の暮らしは豊かになった様に見えるけど、結局この村や前の村の人達がこうして田畑を耕し作物を育ててくれているから、今の世界は豊かなんだ。

 きっと、ポールさんはそう言いたかったんだと思う」


 嬉しそうな笑みを浮かべるスバルの横でフォンは小さく頷く。これで何となくポールが伝えたいと事が分かった。技術が発展しても変わらず作物を作っている人が居るから世界はより良くなっている。その言葉にフォンは腕を組み関心した様に深く頷く。


「そうかぁー……。何か、あの人の言葉は難しくて深いな」

「そうだね。彼らは技術が発展しても変わらずこうして幸せに暮らしているんだよ。って、そんな風にも伝えてる様に聞こえなかった?」

「うーん……微妙」


 腕を組みうなり声を上げた後にそう返答したフォンに「そっか」と、スバルは一人寂しそうに笑みを浮かべた。

 スバルがどうしてそう思ったのか、フォンには分からなかったが、この村の人達を見ていると何となく分かる気がする。皆、何不自由なく幸せそうだった。

 のどかな村の風景にフォンも笑みを浮かべる。静かに流れる暖かな風が流れ、木々の葉を揺らす。足元には僅かに土ぼこりが舞い上がり、消えてゆく。畑の作物が揺れざわめく音にフォンは耳を済ませる。

 のんびりとする二人に対し、リオンは村を散策していた。数人の旅人が訪れているのか、村人とは明らかに服装が違う者が何人か存在していた。その内の数人が武装をしている事から、彼らは護衛なのだろうとリオンは判断する。あまり見ていても怪しまれるとリオンは彼らを凝視はせずゆっくりと村の中を歩き続ける。

 小さな店が一軒村の中心にあり、そこから西と東に一軒ずつ宿がある事を確認したリオンは、周囲を警戒しながら荷馬車の方へと戻ってきた。のん気に荷台の後ろで空を見上げる二人の姿を発見したリオンは小さくため息を漏らし、呆れた様な眼差しを向ける。


「おい。お前ら。何してるんだ?」

「いやー。今日も空が綺麗だぁー」

「そうだねぇー。平和だよぉー」


 のん気に答えたフォンとスバルに、リオンは目を細め空を見上げる。いつもと何も変わらないいたって普通の青い空に、リオンは眉間にシワを寄せた後にフォンとスバルに視線を戻す。


「バカやってないで、もう少し緊張感を持て」

「緊張感って……大げさだな。リオンは」


 あはは、と笑うフォンに対し、リオンは鋭い眼差しを向けると、周囲を見回して二人の方へと近付く。その行動にフォンとリオンも荷台から身を乗り出しリオンへと身を寄せる。


「実は、村を回ってきたんだが……」

「へぇーっ。散歩か?」

「散策だ。黙ってろお前は」


 ドスの利いた声でリオンがそう告げると、フォンは笑顔のまま硬直し「はい」と片言で返答するとボーッと空を見据える。哀れむ様にそんなフォンを横目で見たスバルは引きつった笑みを浮かべリオンへと視線を向けた。二人の視線が合うとリオンは言葉を続ける。


「ここには数人の旅人がいる」

「別に不思議な事じゃ――」

「ああ。でも、何でこんな場所に何人も旅人が居るんだ?

 しかも、護衛つきでだ。それに……やけに殺気立っている様に見えたんだが……」


 怪訝そうな表情を浮かべるリオンが、腕を組みその光景を思い出し、その時聞こえた旅人達の話し声を思い出す。


「確か、“この辺りで旅人が消える事件が――”どうとか言ってたな」

「旅人が消える事件?」

「ああ。詳しくは知らないが、そう言う事件があるらしい」

「旅人が……消える……」


 スバルは腕を組み考え込む。以前、アカデミアの資料でそんな事件の記載を見た気がしたが、どうしても思い出せなかった。

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