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第13回 目的地

 朝になり、フォンは眠気眼を擦り起床した。

 すでに、スバルは朝食の準備を始め、リオンは毎朝恒例の素振りで汗を流していた。ボンヤリと座り込み、大きな欠伸をしたフォンに、朝食を作っていたスバルが気付く。


「おはよう。フォン。もうすぐ出来るけど……」

「……うん。その前に、俺も軽く体動かしてくる……」


 頭を大きく左右に振りながら、フォンは脇に置いてあった剣を手に取り立ち上がる。その姿に微笑するスバルは、鍋を焚き火に掛けお湯を沸かす。

 まだ寝惚け眼のフォンは、大欠伸をもう一度すると、リオンと対峙する形で剣を抜く。


「おい、フォン。ちゃんと準備運動しろよ」

「……うん。分かった……」


 フラフラと歩くフォンは剣を鞘にしまい、体を解す様に準備運動を開始する。まだ半分寝た状態のフォンの姿に、リオンは呆れた様に鼻から息を吐くと、素振りを再開する。

 それから程なくして、準備運動を終えたフォンがもう一度リオンと対峙する。丁度、リオンも素振りのノルマを終え静かに息を吐きフォンを見据える。二人の視線が交錯し、静けさが漂う。足元から吹き上がる風が、二人の髪を逆立て、やがて静かに時が動き出す。

 初めに動いたのはフォンだった。その鞘から剣を抜き、右足を一歩踏み出す。それに遅れリオンが右足をすり足で前に出す。真剣な眼差しを向ける二人。互いに何度もやり合っている為、相手の出方は分かっていた。その為、慎重に相手の動きを見定める。

 フォンは柄を握る手に力を込め、同時に踏み出した右足へと体重を乗せた。その動きにリオンの目つきが変わる。フォンが突っ込んでくるとその動きで分かったのだ。

 リオンが身構えると同時にフォンが突っ込む。が、そこでスバルの声が響く。


「朝食出来たよ!」


 突っ込んでいたフォンは思わぬ声につんのめり激しく横転し、それを迎え撃とうとしていたリオンもその動きを無理に止めようとし横転する。

 派手に転ぶ二人の姿に呆れた様にジト目を向けるスバルは、眉間にシワを寄せ、


「何してんの?」


 と、呟いた。土煙を舞い上げ、地面に倒れる二人はそんなスバルに苦笑し、静かに立ち上がる。フォンは剣を地面に突き立て衣服についた土を払い、リオンは剣を鞘に収めて静かに衣服の土を払う。


「集中してた所に水を差されちゃったな」

「そうだな……」


 能天気に笑うフォンに対し、静かな口調で返答するリオン。二人はアカデミアに在学していた時も度々こうして本気で手合わせをしていた。その戦績はリオンの方に分が有る。瞬発力・俊敏性はフォンの方がリオンよりも優れているが、それを差し引いてもリオンの技術・腕力がフォンを上回っているのだ。

 故に、最初はフォンが押していても、最後には力押しに合い負ける。このパターンが多い。

 地面に突き立てた剣を抜き、鞘に収めたフォンは少々残念そうな表情をリオンに向けた後に満面の笑みを浮かべてスバルの方へと足を進めた。


「腹減ったー! 朝食なんだー!」

「昨日の残りだよ?」

「当たり前の事聞くなよ。フォン」


 リオンは呆れた様にため息を吐き、当然だろと言いたげにジト目を向けフォンを追い抜く。そのリオンの背中を見据えるフォンは引きつった笑みを浮かべ小さく吐息を漏らすと肩を落とし静かにリオンの隣へと並んだ。

 焚き火を囲い食事をする三人。フォンは肉をかじり、リオンとスバルはカップで肉汁をすする。静かに食事を進める三人だが、不意にスバルが口を開く。


「そう言えばさ。俺らって何処に向かってんの?」


 スバルの不意の一言にフォンとリオンの動きが止まる。驚いた様な表情を向けるフォンとリオンに、スバルは「えっ? えっ?」と二人の顔を交互に見た。やがて、フォンの口から肉が落ち、リオンの手からカップが落ちる。


「だああああぁぁぁっ!」

「ぬぁに? ぬぁんぬぁの!」


 二人の叫び声に、スバルも驚いた様に声を上げる。三人してその場で立ち上がり、驚愕し硬直していた。フォンとリオンは気付いたのだ。旅に出たのはいいが、目的を決めていなかった事を。互いに顔を見合わせるフォンとリオンに対し、スバルは引きつった笑みを向ける。


「も、もしかしてだけど……。目的地、決まってないの?」

「…………」


 フォンが黙って頷くと、その場にリオンが崩れ落ちる。膝を落とし地面に手を着き落ち込むリオンに、スバルは驚く。完璧主義のリオンがこんな風に驚く所を見るのは初めてだったからだ。驚くスバルはフォンの方へと視線を移す。だが、フォンもフォンでありえない位落ち込んでいた。この状況に、スバルは一人表情を引きつらせる。

 それから数分後、フォンとリオンは何とか立ち直り、ようやく三人の会議が始まった。


「で、だ。これからの事だけど……」


 スバルが二人の顔色を窺いながら恐る恐る口を開く。ショックが大きかったのか、二人に元気は無かった。


「俺達の目的地は……王都でいいのかな?」

「あぁ……」

「……いいんじゃないか」


 フォンとリオンが覇気の無い声で返答すると、スバルは目を細める。


「あ、あのさ。そんな落ち込む事ないんじゃないかな? 誰にだって失敗はあるんだし」

「あぁ……」

「……いいんじゃないか」


 同じ言葉を繰り返す二人に、スバルは唖然とする。どうすりゃいいんだと、肩を落とし小さく息を吐いた。いつまで引きずっているんだと、言いたげな眼差しを向けるスバルに、二人はほぼ同時にため息を吐く。

 ここはとにかく自分が頑張らないとと、気合を入れたスバルは二度頷き力強く言い放つ。


「とにかく! 目的地は王都でいいね!」

「あぁ……」

「……いいんじゃないか」

「もういいよ……それは……。そろそろしつこいって」


 呆れた様に頭を掻くスバルに、二人はもう一度深くため息を吐いた。

 王都。この国の中心であり、国王が居る場所。そして、最も人が集まる場所である。そこに行けば、強者とも会えるし、次の大陸に行くに移動手段もある。目的とする場所にするには相応しい場所だった。ただ、三人が住んでいた町、クラストから王都までは数千キロも離れており、歩いていくにしてもいくつもの町に立ち寄らなければならないのだ。


「で、だ。王都に行くにして、第一目標として……この辺にある村に寄ろうと思うんだけど……」


 スバルは地図を広げ、現在地から地図上で一番近い村を指差し、フォンとリオンへと視線を向けた。相変わらず覇気の無いフォンとリオンの生返事が返って来る。とりあえず、二人も自分の考えに賛成しているのだと、解釈しスバルは話を進める。


「で、このペースで歩いていけば、明日、明後日中には、この村に着けると思うんだけど……」


 その言葉にフォンの動きが止まる。そして、煌く眼差しがスバルへと向けられた。


「む、村に着くのか! じゃ、じゃあ、宿で寝れるのか! 野宿しなくて済むのか!」

「えっ? いや、どうだろう? その村に宿があるかどうかによるけど……。てか、唐突に何?」


 突然、覇気が戻ったフォンの様子に動揺するスバルに、リオンが静かに答える。


「相当野宿が嫌だったんだろう?」

「うわぁっ! り、リオンも、戻ってる!」

「いや、まぁ、俺も宿で休みたいからな」


 恥ずかしそうにそう述べたリオンに、スバルはジト目を向ける。なんだかんだ言っても、リオンも野宿は嫌だったんだと。

 そんな二人に対し、フォンは荷物を持ち立ち上がる。


「さぁ! 行くぞ!」


 急に張り切りだすフォンに、リオンは鼻から息を吐き微笑すると、スバルも困ったような視線をフォンに向け笑みを浮かべた。

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