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第12回 スバルの覚悟

 三人は焚き火を囲い肉を焼き、スバルが常備していた鍋を焚き火の上へと吊るし肉汁を作っていた。

 調味料や肉汁に入れた野菜も全てスバルが持ってきた物だ。暮らしている寮の部屋に残っていた野菜を全て持ってきていた。置いておいても腐れてしまうだけだから、と。

 そのおかげで、今の所食べる物に困る事は無かった。

 肉の焼ける匂いによだれを垂らすフォンに、スバルは鼻歌混じりに肉の焼け具合を確認する。


「うん。そろそろ大丈夫だよ」

「よっしゃっ! いっただっきまーす!」

「肉汁はもういいのか?」

「えっ? ああ。うん。大丈夫だよ」


 肉にがっつくフォンの横で空の鉄製のカップを持ったリオンに、笑顔でスバルは答える。その返答にリオンは小さく「そうか……」と呟くと、カップへと肉汁を注ぎ、両手でカップを握り静かに汁を啜る。


「ふぅ……」

「ど、どうかな? 美味しい?」


 肉汁を啜り小さく息を吐いたリオンへと、間髪入れずに不安そうに問いかけるスバルに、リオンは小さく頷く。


「ああ。美味い」

「んぐんぐ……美味いぞ! 肉も!」

「よかった……戦いじゃ、何の役にも立てなかったから、料理位はって思ってさぁ」


 安心した様に胸を撫で下ろすスバルに、リオンは不思議そうな表情を向け、怪訝そうにその姿を見据える。


「なぁ、スバル」

「何? おかわり?」

「いや、そうじゃなくて……」


 カップを地面へと置いたリオンの目が真っ直ぐにスバルへと向けられる。その視線に僅かに表情を引きつらせるスバルは、リオンと目を合わせようとしなかった。一応、本人にも自覚があるんだと気付いたリオンは、ジト目を向け静かに問う。


「お前……さっきは何で戦わなかったんだ?」

「えっ? いや、そ、それは……」


 俯き手を弄るスバルの姿に、リオンが問い詰める様に鋭い眼差しをジッと向ける。だが、それをフォンが笑顔で制止した。


「やめろよ。訓練と実践は違うんだ。しょうがないだろ?」

「それはそうだが、お前も、コイツの実力は知ってるだろ?」

「んぐんぐ……そりゃ……んぐんぐ……知って、んぐんぐ」

「もういい。食ってからで」


 肉を銜え返答するフォンに、リオンは呆れて大きくため息を吐いた。そのリオンの言葉に「そうか」と肉を銜えたまま返事をしたフォンは、そのまま肉にがっつき続け、スバルはリオンを見据え困った様に笑った。


「ふぅーっ……食った食った!」


 お腹を擦り夜空を見上げるフォンに、リオンは静かに息を吐いた。


「それで、さっきの話の続きだが……」

「えーぇ……あぁ……スバルの実力がどうこうって奴か」

「ああ」

「大丈夫だと思うぞ? やる時はやる奴だって知ってるだろ?」


 能天気な答えに、リオンは両肩を落とし大きくため息を吐く。

 何となく予想はしていた為、リオンは眉間にシワを寄せフォンを軽く睨む。


「あのな……」

「それよりさぁ、俺的には、お前の威嚇がどうなってるのか知りたい所なんだけどなぁ?」

「威嚇? 何の話だ?」


 唐突に話を替えるフォンに首を傾げる。一体、何の話をしているんだと。

 首を傾げるリオンに対し、フォンは怪訝そうな表情を浮かべた。


「何の話だ? じゃないだろ? あの獣達に襲われた時、普通に追っ払ってたじゃないか」

「あぁ……アレか」


 あの時の事を思い出し、複雑そうな表情を見せるリオンに、スバルも興味津々と言いたげに話に加わる。


「俺も、気になる。どうやったんだよ? 一体」

「いや、別に……特別な事は何もしてないぞ?」

「…………と、仰っていますが、どう思いますか? スバルさん」

「絶対嘘だと思いますね! フォンさん!」

「何だ、お前らのそのキャラは……」


 妙な言葉遣いをする二人に対し、呆れた様に深くため息を吐いたリオンは肩を落とし右手で額を押さえた。軽く頭痛がし、リオンは「寝る」と一言告げるとそのまま横になった。

 焚き火を挟んで対面に座るフォンとスバル。リオンが寝た事により、二人の間には沈黙が流れていた。満腹になり殆ど寝惚け眼のフォンは、コクコクと頭を上下に振る。今にも瞼が塞がってしまいそうなフォンに、スバルは焚き火に枝を入れながら苦笑する。


「大丈夫? もう寝ても平気だよ?」

「いや……いや……ぜん……ぜん……」


 そこでフォンの言葉が途切れ、俯いたまま動かなくなった。静かに聞こえる寝息に、スバルは微笑む。

 静けさ漂う中で一人焚き火を見据えるスバル。実践になって知る。命の尊さを。だから、あの時獣達を前にして戦う事が出来なかった。猪の時は食べる為と言う名目があったから抵抗は無かったが、あの獣達は違う。襲ってきたから倒す。仕方ない事なのかもしれないが、スバルにはどうしてもそれが出来なかった。

 悲しげな瞳で焚き火を見据えるスバルは、大きく吐息を漏らし自らの右手を見据える。まだ感触が残っていた。あの猪を槍で刺した時の感触が。

 開いていた手を握り締め、瞼を硬く瞑ったスバルに不意に声が掛けられる。


「大丈夫か?」

「えっ? ふぉ、フォン……寝てたんじゃ……」


 俯いて寝息を立てていたはずのフォンの顔が自分の方に向けられている事に驚くスバルに、フォンは大きく欠伸をし右手で目を擦った。


「んっ……少しだけ……」


 まだ少し寝惚けている感じのフォンに、スバルは微笑む。


「無理しないで寝たらどう?」

「お前こそ、無理するなよ」

「無理なんて……」


 焚き火に目を落とし小声で呟いたスバルに、フォンは申し訳なさそうな表情を向ける。


「ごめんな。スバル」

「えっ? な、何で謝るのさ?」


 突然の事に驚いたスバルが上半身を仰け反らせ、首からぶら下げていたゴーグルが胸元で大きく揺れる。目を細め、眉間にシワを寄せるフォンは、小さくため息を吐くと、真っ直ぐにスバルの目を見つめた。


「俺のワガママに付き合って、無理に町を出る事になって……本当なら、もっとアカデミアで学ぶ事があったと思うはずなのに……本当、ごめんな」


 フォンの言葉に、スバルの灰色の瞳が潤む。いつもは能天気なフォンがこんなに自分の事を想ってていたなんて知らなかった。だから、思わず泣きそうになったが、それを堪えスバルは笑う。


「な、何言ってるんだよ。俺は俺の意思で、一緒について来たんだ。だから、気にするなよ」

「そっか……。でもさぁ、もし、戦うのが怖いって言うなら、無理して戦う事無いぞ。俺やリオンがちゃんと守ってやる。けど……俺にはスバル。お前の力も必要だから……。いざって時は、助けてくれよな」


 眠そうな目でニシシと笑ったフォンに、スバルも「分かってるよ」と言って静かに笑う。

 確かに戦うのは怖い。誰かの命を奪う事はもっと怖い。そう思っていたスバルだが、もっと怖い事を思い出す。ここに居る自分の友を失う事を。だから、決意する。二度とフォンやリオンの足を引っ張らない様にと。

 拳を握り奥歯を噛み締めるスバルは、フォンとリオンの姿を目に焼きつける。彼らを失う怖さを自らの心へと刻んだ。

 スバルの真剣な眼差しに、フォンは静かに笑みを浮かべるとその瞼を閉じた。一気に眠気が襲ってきたのだ。そのまま顔を伏せ、フォンは静かに寝息を立てていた。

 一方で、数分前から目を覚ましていたリオンは、寝返りをうち二人へと背を向けると、静かに笑みを浮かべ、「全く……」と誰にも聞こえない声で呟きもう一度眠りに就いた。

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