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第118回 円卓会議

 穏やかな陽気漂う中、ニルフラント王都の城内。

 その一室で円卓を囲い会議が行われていた。

 中央に座するのは時見族のクリス。彼女から右回りにリオン、龍臨族カーブン、水呼族レック、地護族グラッパ、風牙族ウィルス、空席を挟み烈鬼族レイド、風鳥族エルバ、天賦族ブライド、空席となっていた。

 空色の髪を結い、珍しく整った衣服に身を包んだクリスは円卓に両肘を突き、顔の前で両手を組んだ。着慣れていない為、落ち着かないのか眉間にシワを寄せ、ソワソワとしていた。

 その隣に座するリオンもまた眉間にシワを寄せ、左手で額を押さえる。そして、その視線をグラッパの方へと向けた。

 カーブン、レックの向こうにいるグラッパの態度は悪く、円卓の上に組んだ足を置き、椅子の後ろ足へと体重を掛けていた。

 本来なら注意をする所だが、注意をした所で聞く相手ではない事は分かっていた為、リオンは深い溜め息を吐く。


「これからの事についてなんだが……」


 口火を切るのはブライド。顔の横まで右手を上げ、その顔をクリスへと向ける。

 ブライドと視線を合わせるようにゆっくりと顔を動かすクリスは、「ふむっ」と小さく鼻から息を吐いた。


「ちょっと待てよ」


 ブライドが発言しようと立ち上がろうとした時、グラッパが声を上げた。

 相変わらず態度は悪く腕を組み、上から目線でブライドを睨みつける。そんな様子に不快そうに目を細めるブライドは、右手で包帯の巻かれた頭を掻いた。

 そんなブライドを鼻で笑うグラッパは顎を上げ、微笑する。


「あんた……確か、天賦族だろ? 俺様の記憶が確かなら、あんたの父親のはずだ。シュナイデルって言ういかれた野郎は」


 グラッパの言葉に一瞬、ほんの一瞬だけ表情をしかめたブライドは、小さく息を吐き首を縦に振った。


「そうだね。それが、どうかしたのかい?」


 優しく諭すような口調で尋ねるブライドに、グラッパは頭を振り呆れたように笑う。


「お前、バカなのか? テメェの親父がすべての元凶じゃねぇか! それなのに、なんて息子のテメェがのうのうとこの会議に参加してんだ!」


 声を荒らげ激昂するグラッパ。その意見に賛成の者も少なからずおり、場は静まり返る。

 困ったように目元を緩めるブライドはクリスの方へと顔を向けた。その為、クリスは小さく息を吐くと静かに口を開く。


「彼は協力者です。先の襲撃の際も、彼が尽力を尽くしてくれました」

「はっ! 尽力? おいおいおい。だから、信用するって言うのか? 違うだろ。考えろよ。コイツにはあのいかれたヤツの血が混じってるんだぞ!」


 円卓へと踵を叩きつけ怒鳴るグラッパに、クリスは冷ややかな眼差しを向ける。


「確かに、私達の敵は彼の父であるシュナイデルです。ですが、彼は彼。シュナイデルはシュナイデルです。性格が違えば、考え方も違う。シュナイデルが元凶であって、彼はそうではないのです」

「それはそうかもしれないけど……スパイと言う可能性は?」


 クリスの言葉に、やや不安げにウィルスが口を挟む。グラッパとは対照的にオドオドした態度のウィルス。流石に場違いだと自分自身思っていた。

 ウィルスの発言にグラッパは更に言葉を重ねる。


「ありえねぇ話じゃねぇよな。尽力を尽くして、信用させて裏切る可能性もあるわけだ」

「その可能性なら、あなたにもありえない話ではないのでは?」


 突如、会話に入ってきたのは、レイドだった。涼やかな顔で灰色の髪の合間から冷ややかな眼差しをグラッパへと向け、小さく首を振った。

 ギリッと奥歯を噛むグラッパは鼻筋にシワを寄せると両足で円卓を蹴り立ち上がる。


「どう言う意味だ! えぇっ!」


 ドスの利いた声を張るグラッパに、レイドは静かに鼻から息を吐き、肩を竦める。


「所詮は盗人の盗賊集団のリーダーでしょ? 信頼出来ないって話ですよ」

「んだと! テメェは人殺しだろ!」


 グラッパがそう言うとレイドは剣の柄を握り締め、


「何だったら、ここであなたを斬って見せましょうか?」


と、笑みを向け、


「やってみろよ!」


と、グラッパも二本の剣の柄を握り締めた。

 呆れた様子のクリスは深々と息を吐き、横にいるリオンへと目を向ける。


「やめろよ! こんな所でまで!」


 リオンが言葉を発しようとした刹那、ウィルスが声を荒らげ、二人の間へと入った。丁度、席も二人の間と言う事もあり、二人を制止するもの当然の流れだったが、その行動にグラッパもレイドも些か驚いた様子だった。

 静寂が漂う中、吐き出されたクリスの吐息。そして、静かな声がハッキリと宣言する。


「この中に裏切り者などいない。まだ出会って日も浅い。疑いたくなる気持ちも分からなくはない。だが、今は一刻を争う事態だ。私の未来視を信じてほしい」

「そうは言っても、テメェが一番疑わしいだろ」


 クリスへと、乱暴な口調でそう言うグラッパに、流石にカーブンが苛立った様子で椅子から立ち上がり声を上げる。


「少々、言葉が過ぎるんじゃないか。グラッパ」


 威風堂々と言う風貌でそう言い放つカーブンはオレンジブラウンの髪を揺らし、グラッパを睨んだ。

 流石は龍臨族と言うべきなのか、威圧的なその眼にグラッパも押し黙る。

 それにより生まれた沈黙。それが、重苦しい空気を作り出した。


「とりあえず、落ち着こう。感情的に論争をした所で時間のムダじゃないか?」


 静寂を切り裂くようにエルバが切り出す。だが、落ち着いたエルバの言葉に、レックが噛み付く。


「ちょっと待てよ。時間のムダって何だよ。そもそも、この会議は全員参加じゃないのか? 空席があるっておかしいだろ」


 深緑色の髪を揺らし、不満そうに眉間にシワを寄せるレック。この円卓を囲う席に空席がある事はこの場にいる誰もが疑問を抱いていた。

 かく言うリオンも、それを疑問視していた。と、言うよりも不安を募らせていた。

 ここに来て、まだフォンに会っていない為、何かあったんじゃないか、と思っていたのだ。


「確かに……フォンとカインの二人はどうしたんだ?」


 不安を拭う為、流れに任せリオンは尋ねる。

 その質問にクリスは一呼吸空け、


「フォンは先日の襲撃で結構な怪我してな。今はそのリハビリ中だ」


と、静かに告げる。その言葉に安堵したように息を吐くリオンの表情が少しだけ緩む。

 しかし、すぐに真剣な表情を作り、話を戻す。


「……そうか。なら、仕方ない。今は、方針を決めるのが先決だろ」

「そりゃ、そうだけど、仕方ないって事ないだろ? フォンやカインが参加しなくていいなら、俺だってこんなもん参加したくねぇよ」


 不満たらたらにそう言うレックに、クリスはゆっくりと瞼を閉じる。


「別に、強制はしない。参加したくない者は参加しなくてもいい」

「そう言うなら、俺は――」


 椅子から立ち上がろうと円卓に手をついたレックに、クリスは静かに瞼を開き告げる。


「ただ、決まった事に文句を言う権利はないと思え」

「ッ! ちょ、ちょっと待てよ! それじゃあ、どんなにクソな作戦でも決まったらそれに従えって言うのかよ!」

「そうだ」


 レックの問いにクリスは即答した。有無を言わさないクリスの言葉に、グラッパは表情をしかめる。


「おいおい。冗談だろ」

「冗談だと思うか?」


 真剣な表情をグラッパへと向ける。あまりにも冷ややかな眼差しにグラッパは気圧される。


「さぁ、会議に参加したくない者は出ていってくれて構わない」


 そう促すクリスだが、席を立っていた者は皆静かに腰をおろした。

 不満げではあるが、異論はなかった。また、室内に静かな空気が流れる。


「少々、話は逸れましたが、本題に戻します」


 そんな空気の中、場を仕切るのはブライド。

 不愉快そうに眉間にシワを寄せるグラッパは、腕を組み俯いていた。文句は言わないが、会議には参加しない。そう言う態度の現れだった。

 その意図を理解し、ブライドは困ったように息を吐き、話を続ける。


「僕らはこれから、フォーストへと向かう。移動手段は飛行艇。当然、人数には制限が掛けられる為、今回の作戦は少数精鋭で向かう事になる」

「そのメンバーがここにいる者達と言う事になるが、異論はないな?」


 ブライドの説明に、そう付け加えたリオンは皆の顔をグルリを見回す。異論は――あるだろう。だが、それを言った所で話は先程の論争に戻ってしまう事は誰もが理解していた。

 だから、誰も異論は唱えない。

 皆の顔を順に見回し、ブライドは言葉を続ける。


「敵はシュナイデルに加えて、風鳥族の長だったバーストと、水呼族の長だったレバルドの二人」

「あと、銀狼。と呼ばれる全ての種族の力を掛け合わせた化物がいる。これは、私の未来視で視た確定事項だ」


 ブライドの説明にクリスが付け加え、険しい表情を浮かべる。

 その名に聞き覚えのあるリオンもまた、眉間にシワを寄せ、心当たりのあるブライドも唇を噛み僅かに俯く。

 三人の変化にその場にいる誰もが気づく。だが、言葉は噤んだ。

 それだけの相手なのだと分かっているのだ。直接対峙した事のないグラッパ、レイド、ウィルスもそれを肌に感じていた。故に余計な事などは聞かず沈黙を守る。

 重苦しいそんな空気を裂くように、軽快なで荒々しい足音が扉の向こうから響き、


「どー言う事だーっ!」


と、言う声と共に、乱暴に扉が開かれる。

 静かな部屋になだれ込んできたのはフォンと――


「ちょ、ちょっとフォンさん! ダメですよ!」


と、慌てた様子のメリーナ。そして――


「僕も仲間外れは嫌だよ!」


と、無邪気な声を上げるカイン。

 三人の登場により、緊迫していた空気は崩れ、僅かに空気は和んだ。

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