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届け!ブルーモスクへ  作者: 柴咲遥
8/15

鎌倉のアトリエ

ふたりのバイクは梅雨の晴れ間の国道を鎌倉に向かって走る。

雨上がりのアスファルトの匂いと夏の風が入り混じった空気が私たちふたりを包み込んでいく。

渋滞を抜けあっという間に第三京浜から横浜新道に入ってバイクはギアを上げて加速する。

私は振りほどけない様に左右の手を強く握り直した。

「あっ絵の具のニオイ?…」

バイクは朝比奈の出口の標識が見えてくるとギアチェンジしてスピードを落としていく。

「久美子?平気?」

私はヘルメットを縦に振って大丈夫って合図をした。

懐かしい鎌倉の街並み、少しすると右手に鶴岡八幡宮の真っ赤な鳥居が目に飛び込んできた。

「わぁ~久しぶりの鎌倉~」

信号を左折すると右手には緑の葉が生い茂った桜並木の段葛が出迎えてくれた。

信号待ちをしていると薫子がメット越しに大声で訊いたきた。

「久美子のおばあちゃんの家ってどのへん?」

「長谷、少し行った先の下馬の交差点を右よ!」

「オッケー下馬を右ね」

そう言ってバイクはまたゆっくりと走り出す。

鎌倉市農協連即売所、通称レンバイの横を通り過ぎて下馬の交差点を左折すると江ノ電の踏切が見えてくる。

(懐かしいな~レンバイで良くおばあちゃんと買い物したっけ)

少し上り坂を行くと由比ヶ浜大通りと今大路の交差するところに六体のお地蔵さんが見えて来たらおばあちゃんの家までもう少し。

「ここを左に…」

「あっここを右に」

細い路地を何度か曲がっると赤い屋根が見えてきた。

「あった!薫子、ここよ赤い屋根の」

バイクはゆっくりとおばあちゃんの家の前で止まった。

「ふぅ~気持ちよかったぁ」

薫子は真っ赤なヘルメットを脱いで大きく頭を振った。

「うぅ~んん~」

私もバイクから降りて大きく背伸びをする。

「疲れたっしょ」

「ぅうん未だバイクの後ろ慣れてないから」

「ちょちょっとぉ」

「ん?だって暑いんだもん!」

薫子はおもむろにジャケットのファスナーを下ろした。

「どちら様~」

「あっおばあちゃんの声」

天然木の玄関の引き戸が開いておばあちゃんの姿が見えた。

「あらぁ~久美ちゃん?久美ちゃんなの?」

「おばあちゃん~久しぶり、元気だった?」

そう言っておばあちゃんの手を握った。

(少しやせたみたい…)

「どうしたの?急に」

「ぅうん、急に会いたくなっちゃって」

「そっ嬉し、あがって」

「うん、あっ友達も一緒なんだ~薫子、安藤薫子…ちゃん、今日バイクで」

「あらっ久美ちゃんがいつもお世話になってます」

「ぁあっ初めまして、安藤薫子っていいます」

「ふふㇷ…久美ちゃんがお友達連れてくるなんて初めてじゃない?」

「そっそんなこと…ないわよ」

「さっかおちゃんも上がって、お腹すいてない?」

「かおちゃんて…」

「かおちゃんて呼ばれたの小学生以来かも…何か嬉し、おじゃまします~」

薫子は嬉しそうにブーツを脱いで家に上がって行った。

「わぁ~このお茶美味しい~」

「そぉ~」

「なんだろ?水が違うのかな?」

掘りごたつのあるリビング…昔と何も変わっていない。

「何もないけど、かおちゃんも良かったら食べてって」

「すみません~めっちゃお腹すいてます~」

そう言って薫子は掘りごたつにはいって脚を伸ばした。

「こんなものしかなくて~来るって知っていたらもっとご馳走用意しておいたのにね~」

食卓にはいつものおばあちゃんの手料理が並んだ。

スペアリブと大根の煮物、茄子の煮浸し、油揚げと人参、えのき、わかめの入ったお味噌汁とおばあちゃんのぬか漬けと白いご飯。

「え~オクラもぬか漬けに出来るんだ~」

「残りものだけど、口に合うかしら?」

「いただきます~」

「うん、めっちゃ美味しい、おいしいです!」

薫子は大根を一口食べてそう叫んだ。

「うん、おいしい…おばあちゃんの味だ」

「久美ちゃん、なに泣いてんのよ~」

「だって…だって、なんか思い出しちゃって」

おばあちゃんはそっとティッシュボックスを差し出した。

「ふぁ~美味しかった~お腹いっぱい」

「お粗末様でした」

「ひとりで住んでるんですか?」

「そうよ、隣は?」

「あっあそこは今は空き家」

「ちょっとだけ見せてもらってもいいですか?」

「どうぞどうぞ、毎日窓開けたりしてるけど少し埃っぽいかもね〜」

おばあちゃんの家は平屋の一軒家、渡り廊下で隣の古い離れとつながっていた。

「どうしたの?薫子?」

離れの一室の壁をじっと見つめていた薫子が唐突に言った。

「久美子、ここに住まない?ここに住もうよ ふたりで」






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