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届け!ブルーモスクへ  作者: 柴咲遥
7/15

あの日 あの時

「久美子、ちょっと待っててバイク停めてくるから」

「うん、じゃあ正面玄関で待ってるね」

「オッケー」

そう言って薫子はバイクを引いて駐車場の方に歩いて行った。

「練馬総合病院か…あの時は確かあの辺に救急車が着いたのよね」

「お待たせ、じゃ行こっか」

「うん…」

「ばあちゃん、心臓の調子が悪いみたいで循環器内科にいるんだ~」

「…心臓 循環器?」

「春に救急車で運ばれてね…処置が遅れたらホントやばかったみたい」

「そぉなの?春に…救急車で…」

「循環器内科は~5階」

そう言って薫子はエレベーターのボタンを押した。

(あっ キレイなピンキーリング)

薫子の左手の小指にはイエローゴールドの指輪が輝いていた。

「へへぇ~キレイでしょ~これ私が作ったんだ~久美子にもそのうち作ってあげるね」

ふたりはエレベーターを待って5階に上がる。

病院独特な匂いが私の五感を緊張させる。

「すみません~安藤サキの着替え持ってきました~」

ナースステーションの若い看護師に声をかける。

「あっ安藤さんご苦労様です~サキさん今検査中で戻ってきたら連れて行くので、談話エリアで少し待っていてください」

「はいわかりました」

私たちは病棟エレベーターホール前の談話エリアの椅子に座って待つことにした。

「久美子ありがとね、ついてきてくれて」

「ぅうん、それにしてすごい偶然ね」

「ホント、私も病院来るの4回目だしそこのコンビニ寄らなかったら久美子と会うこともなかったもんね」

そう言って薫子は微笑んだ。

「あのね、薫子あの時 薫子…」

「安藤さん~サキさんお孫さん談話の場所で待ってますよ!」

さっきの若い看護師がそう声をかけたのが聞こえた。

廊下をゆっくり歩くおばあさんが近づいてくるのが見えた。

「ばあちゃん、着替え持ってきたから~」

「・・・ん?え?あっあの時の…」

「久美子どうしたの?大丈夫?」

「薫子来てくれたの?いつもありがとね~」

とても優しそうなおばあさんの声。

「間違いない、あの時のおばあさん…だ」

「あらっその方…あっあっあの時の電車で…」

「良かったぁ 良かったですお元気になられて本当に良かった」

「え?何?なに知り合い?なの?なんで?」

薫子は大きな目をいっそう真ん丸にして私たちを見てそう言った。

「え?電車で助けてくれた女の人って?久美子?久美子だったの?」

「あの時はお礼も言えなくて、救急隊員にもあの後訊いたのよ、でも名前もわからなくて…」

薫子のおばあさんは涙を拭きながらそう言った。

(ありがとう、本当にありがとうやっと会えた)

「え?はっはい」

おばあさんと目が合ってそう聞こえた。

「私なんて…そんな」

「久美子…だったんだね、あの時の…」

そう言って薫子は私を抱きしめた。

「泣いてるの?薫子?」

「だって、だってねずっとお礼言いたくて…ありがと久美子、やっと言えた」

「薫子…」

私も涙が溢れて神様がくれた奇跡に感謝した。

「検査終わったら退院だから久美子さん一度家に遊びに来てちょうだい…遊びになんてそんな年頃じゃないか」

そう言ってサキさんは微笑んだ。

「はい、是非お茶でもご馳走に、私 石神井公園なんで」

「あら、そうなのじゃあ近いわね」

「っじゃ、ばあちゃんまた」

「うん、私はもう大丈夫だから薫子は勉強がんばって!」

「勉強?」

「ぅうんわかってる」

そう言って薫子は立ち上がった。

「失礼します~」

「久美子さん、ホントありがとね~またね」

「はい」

私は鎌倉にいるおばあちゃんに無性に逢いたくなっていた。

外に出ると雨はすっかり上がって夏の日差しが降り注いでいた。

「ひゃ~あっつぅ」

そう言って薫子は太陽に向かって手のひらをかざした。

「久美子?これからどうすんの?送ってくよ」

「ぅうん、鎌倉行こうと思って、私のおばあちゃんの家」

「鎌倉か~私も小学2年まで鎌倉の小学校だったんだ~」

「え?そうなの?」

「言ってなかった?」

「聞いてないわよ~」

そう言ってふたりで笑った。

「小学校は?」

「ん~鎌倉市立第一小学校」

「え~え~私も第一小」

「うっそぉ~」

「同じ小学校に通っていたの?」

「え~信じられない偶然じゃん」

薫子の目はますますまん丸くなっていった。

「私は転校生だったんだぁ…」

「そうなんだ…」

薫子はそれ以上訊こうとはしなかった。

「そうそう、サキさん勉強もって」

「あ~私、美大の4年生だから…」

「美大?4年生?」

「なに?」

「ぅううん」

「美大生には見えない?」

そう言ってまた悪戯っぽく笑って私の顔を覗き込んだ。

「じゃ行こっか」

「どこへ?」

「鎌倉に決まってんじゃん」

「え?ホントに行くの?」

「こんなにいい天気だし、こんな奇跡みたいな偶然、行くっきゃないでしょ!」

薫子はそう言って私にヘルメットを投げ渡したて真っ赤なフルフェイスのヘルメットを被った。

病院の駐車場にバイクのエンジン音が鳴り響く。

「久美子!つかまって!行くよ!」

「うん!」

私は薫子の腰に手を回し身を任せる。

ふたりのバイクは勢いよく交差点を左折して虹に向かって走り出した。






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