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届け!ブルーモスクへ  作者: 柴咲遥
5/15

薫子

危ういところをピザの配達に来ていた安藤薫子に助けられた久美子は彼女のバイクの後ろに乗って石神井公園のマンションまで送り届けてもらう。


「名前は?」

「え?…」

「あなたの…なまえ」

「あっゴメンナサイ、麻生…麻生久美子って言います」

「じゃ久美子でいっか!私の事は薫子でいいから」

「かおるこ?」

「そっ」

「じゃ後ろ乗って、しっかり捕まって!」

「ぁはっはい…でも 私バイクの後ろなんて初めてで…」

「ふ~んそうなんだ、ところでどこ?家は?」

「あっスミマセン練馬区の…石神井公園なんですけど」

「石神井ね!オッケーじゃ行くよ~摑まって」

バイクは大きなエンジン音を立てて勢いよく走りだした。

「キャ」私は薫子の背中をを強く抱きしめた。

風を切る音、私はぎゅっと目を瞑って薫子の背中に身を任せた。

環七通りに入ったバイクは石神井公園に向かってさらにスピードを上げる。

どのくらい走ったんだろう、辺りを見回すと見慣れた西武線石神井公園駅の交差点だと気づいて少しホッとした。

「この先まっすぐ?」

ヘルメット越しに薫子が訊いてきて、私は首をたてに振った。

石神井警察署を過ぎて大きな森が見えてきた。

「二つ目の信号を左に!」

私は出来るだけ大声で薫子に伝えると、またバイクはスピード上げた。

バイクはスピードを落として横道の路地に入って桜の樹木に囲まれた私のマンション「アビタシオン石神井公園」に近づいて行った。

「ここを右に…」

「ここ右ね」

桜の葉が生い茂る大きな桜の木の下でバイクは止まった。

「大丈夫だった?」

真っ赤なフルフェイスのヘルメットを取って少し顔が紅潮してるように見えた薫子が優しく言った。

「はい…ありがとうこんなところまで」

私はヘルメットを渡して泣きそうになるのを必死の堪えてお礼を言った。

「怖くなかったの?」

「はい…全然」

「うそぉ」

薫子はそう言って笑った。

「久美子っていくつ?」

「えっ歳ですか?」

「他に何かある?」

「・・・27ですけど何か?」

「ん?27歳?」

「薫子さん・・・は?」

「23・・・」

「え~年下じゃないですか!それも4歳も!」

「なに~文句あんの」

「いえ・・・でも…4つも年下ってじゃあ薫子でいいですよね」

「最初から薫子で良いって言ってんじゃん」

薫子はそう言ってまた笑った。

(笑うと右の頬に大きなえくぼ…なんか昔誰か?)

「じゃあ私のことは…」

「久美子でいいよね」

「一応・・・年上ですよね私の方が、でもいいです久美子で」

私はそう言って悪戯っぽく笑った。

「じゃあね久美子」

そう言ってバイクのエンジンをかけた。

「気をつけて、ホントこんなところまでありがとう」

「ううん、いいの久しぶりにばーちゃんの家に寄ってくから今入院してるけど・・・」

「じゃまたね」

(私が守ってあげなきゃ!)

「え?守る?」

そう言うと同時に薫子は私をぎゅっと抱きしめた。

「え?え?」

薫子と一瞬目が合った時また聞こえた…薫子の心の声が

一瞬の出来事で私は今まで味わったことのない不思議な気持ちに包まれていた。

「でも前にもあった様な‥」

私はバイクのテールランプが見えなくなるまで見送って大きなため息をついた。

「薫子…か」

電話番号もメールアドレスも交換していないのにまたいつかどこかで会えそうな気がした。

時計を見ると夜11時を過ぎていた、部屋の窓を全開にすると風にのってどこからかボサノバ♪が流れてきた。

お風呂にお湯を張ってる間ベランダでそのボサノバに身をゆだね、忘れられない一日を思い出していた。

(久美子大丈夫?ちゃんと家帰れたの?)

奏子からメールが来ていた。

(うん、大丈夫ちゃんと家着いてるよ)

私は何事もなかった様に奏子にメールを返した。

「よし!お風呂入ってさっぱりしよっ」

いつもの様に独り言を言いながら洗濯機に今日着た地味な服を投げ入れる。

湯船に浸かりながら今日のことを思い出したらボロボロ涙が溢れ出してきた。





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