想いに応える日
ホワイトデーということで書いてみました。
「うーん……。」
とあるスーパーの一角。
一人の青年が陳列棚に目を泳がせながら唸っていた。
制服姿に通学カバンらしい物を持っていることから、その青年は学生であることがわかる。
この青年は今、思春期真っ盛りの高校一年生だ。
しかし時は三月。青年は留年を逃れてもうすぐ高校二年生となる。
「うーん……。」
尚も唸りながら青年が目を泳がす陳列棚には、「ホワイトデーのお返しにバッチリ!」という宣伝文句が掲げられていた。
―――事の始まりは、もうすぐ高校二年生だと意気込んでいた二月十四日だった。
「あの……。」
体育館裏に呼び出されるという手垢のつきまくったベタベタなシチュエーションで、青年はクラスメイトの女子からチョコレートを貰った。
まさかそんな日にチョコレートを貰うとは夢には思っていなかった青年は、その日は終始舞い上がった。
しかし、日が経つに連れ青年は冷静になった。
生まれてこの方、バレンタインデーのことなどさして気にかけていなかった。
よって、お返しの日であるホワイトデーなど既に忘れてしまっているほどだったのだ。
ここにきて、急に焦りが生まれた。
「お返しって……何あげたらいいんだ……?」
そうして青年は遂にホワイトデーを前日に控えた今日、店頭に来て未だ悩んでいる次第なのだ。
「……うーん……。」
青年はまたも唸り、陳列棚を睨む。
「あっ。」
すると、とあるものが目に入った。
思わず声を上げて手に取る。
青年が手に取ったのは、「ホワイトチョコレート」だった。
チョコレートのお返しというのだからこれはちょうどいいだろうと思ったのだ。
それに、「ホワイトデー」というイベントなのだから白いものは合っている気がした。
青年はさっそくレジへと向かった。
翌日。
学校が終わるとすぐに、青年はその女子を呼び出した。
「……何?」
少女は明らかにこの先起こることをわかりきった上でそんなことを訊ねた。
「これ。」
そんな白々しい声を無視し、青年は昨日買ったホワイトチョコを手渡す。
「……それで?」
少女は、手渡された物には目もくれず、そう訊いた。
「……えっと……。」
悩んで買ったにも関わらず、ホワイトチョコを無視されたことに気分が悪くなる。
「……お返しだけじゃないよね。」
「え。」
突然吐き出されたその言葉に、はっとする。
今までずっと、お返しのことばかり考えていた。
しかし、そうではない。
バレンタインデーは、お返しを期待してチョコレートを贈るイベントではない。
想いを寄せる人に、想いを込めてチョコレートを贈るイベントだ。
いわば、想いを贈るイベントである。
ホワイトデーは、そのお返し……つまり、想いに応える日なのだ。
「それは……その……。」
それに今更気づいた青年は、少女への応えを暫し戸惑った。
もしチョコを貰うようなことがあればお返しにだけ気を取られないように気をつけたいものです。
まあ……僕は貰ったことありませんけど。