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「バイトだから何?僕は今の自分に完全に満足してるんだけど。
どこか他に正式に社員なれるとこ探せとかいわれても、興味ないし。」
「でも…給与とか違うでしょ、社会的な保証とかもあるし」と小さな声が聞こえる。山内さんと呼ばれていた女性の声だ。
「お前、バイト、毎月いくら貰えてるん?」と岡田のテーブルのぽっちゃりした男性が聞いた。
うわっ、ストレートにそういうこと聞くんだ!
「僕はね、銀行に振り込まれるのは、毎月12万くらいあるよ。」
天寺は、何の問題も無さそうにいった。
「それ生活できてるん?」ぽっちゃりした男性が会話を続けている。
「もちろんできてるよ。つか、僕はこれで充分過ぎると思ってるし、本当に完全に満足してるんだよ。」
…いや、ダメだろ。
おそらくだが母親と同居で、生活費を出してもらってるのではないか。
その状態で、母親がいなくなれば…
俺はふと自分のいるテーブル、香川とその友人達を見た。
みんな黙っていたから、天寺の話を聞いているはずなんだ。
俺に対し、あんなに熱心に婚活しろとか言ってた連中だ。
天寺に対しても、就活したほうがいい!正社員はいいぞ!などと、説得し始めるんだろうな?
だが彼らは、先程とはうって変わって奇妙までに押し黙っていた。
今まで懐かしそうに喋っていた同級生らの顔は、別人のように表情が消えていた。
会議やら通勤列車やらでよく見かける無表情なサラリーマンの顔つきになっていた。
天寺には何も言わないのか。いや、言えないのか…
あまりにも微妙な問題すぎるのか。
「だから!そういうんじゃなくて、僕、デュエルの相手を探しているんですよ~」天寺はそう言い放つと、突然ランダムなテーブルに向かって行った。
明るい照明の下を通る時、彼の足元に黒い影ができた。通り過ぎるにつれ、影は他の照明の影響もあり、薄く伸びたりしながら消えた。
俺は見るともなしにその影を見ていた。
天寺、個別に話をして対戦相手を探すのだろう。
一区切りした雰囲気になったので、俺も、ちよっと失礼!と隣のテーブルの岡田へ挨拶に行くことができた。




