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第2章

一話ずつバラ読みにした方が良いですかね…?

流石に読みにくいですか?

[一話 エリカノーラ・グラーヴァ〜雪は木の葉を包み隠す〜]


 「立派なお家ね。」そう私が言うと、スティアは「ありがとうございます。」と言って小さくお辞儀をした。

あまり動じない人のようだ。

「まだ昼前ですが、どうします?早めに食べてしまいますか?」

「んー、そうだなぁ。たくさん動いたからお腹すいたな。みんなはどう?」とジュナ。

「美味しい果物が食べたい!」とガネッタ。

「私も賛成で。」と言うと、スティアはじゃあそれでと、いつの間にか後ろにいたメイドに向かって頷いた。

「こちらに来て下さい。」と言ってスティアは屋敷の中に入っていったので私達もついていった。


 メイド達に荷物を手渡すと食卓に案内された。

食卓には大きなテーブルと椅子がずらりと並んでいた。どれも高級感漂うデザインだった。ジュナは「もう座って良いかな?」と私に訊いてから一番端の椅子に座った。うーん、訊く意味あったのかなぁ。

私は彼女の隣に座り、向かい側の席にラックとガネッタが座った。スティアは厨房の方にいるメイドに何か二言程話すと厨房の方から美味しそうな料理が次々と運ばれてきたのだった。

「エンゼラーヌと生ハムです。」

「美味しそう!エンゼ…、なんて?」ジュナは料理の知識はあまり無いようだ。

エプロンに花柄の刺繍が入ったメイドは、クスクスと笑ってから、説明してくれた。

「エンゼラーヌは北西の港で取れる魚の一種で、程よく脂が乗った高級魚です。生ハムは家畜化されたモンソヤポンのお肉を使っています。意外と相性が良くてが良くて美味しいですよ。さ、召し上がれ。」ジュナはそれを食べたことが無いようで、目を輝かせていた。

それぞれ一口サイズになっているのでナイフを使って食べる必要も無さそうだ。

メイドの言った通り、エンゼラーヌと生ハムの相性は抜群で、つい夢中になってしまった。

「ジガタガのスープです。焼き立てパンもどうぞ。」

「幻獣のスープまで出てくるとは…。」

ラックが驚いたように言う。

ジガタガってなんだろう。美味しいのかな?と私はパンをスープに浸して口に入れた。すると、ジュナが横から手を伸ばして私のパンを奪い取った。一口食べて、表情を輝かせる。

私は特に気にしていないけど、おかわり頼めば?…と言おうと思ったが彼女は既に自分の皿に僕のパンを載せていた。

その後もポワソン、アントレと次々に料理が出てきた。

全て平らげるとメイド達が皿を下げて、代わりに飲み物を持ってきた。

「ティルモルのミルクティーです。」

一口飲むと柑橘系の爽やかな甘さが口の中に広がる。

美味しい物をたくさん口にして、みんな幸せそうな顔をしている。

「これで昼食かぁ、夕食はもっと凄いのか…!?」とガネッタ。

「あまり期待し過ぎないで下さいね。みんな緊張しちゃいます。」

メイドがガネッタにそう言った。

「本来ならデセールとサラダとソルベもあるわね。」私がそう言うと何故か沈黙が広がった。


 「んー、なんか寒くない?もう冬なのね。」とフローライが久しぶりに口を開いた。

「そうですね。そろそろ薪を貰ってこないと。この地域は寒さが厳しいので、今日中にここを発つか、冬が終わるまで街から出ないことをお勧めします。」とメイド。

「冬の間、マニスアーラの門は開きません。完全な要塞都市になります。今日は貴方達が来るので、特別に開けたのです。」とスティアが付け足した。

「別にそこまでしなくたって良いじゃないの。」と私が言うと、スティアは激しく首を横に振った。

「何言ってるんですかっ…!冬ナメてると死にますよ…!?」

「そ、そんなに…!?」とガネッタ。

「冬は北東からの冷たい風が吹き荒れ、吹雪もひどいのです…!」

「門まで閉めなくても…。」とジュナが言いかけたが、今度はメイドに遮られた。

「街の中も寒いですが、外は比べものにならないくらい寒いのです…!その寒さをしのごうとマニスアーラに人がどんどん入ってくるんです…!」

「それの何が悪いの?」とフローライ。

「昔、こんなことがありました…。次々に人を受け入れる内に、魔王に心酔する魔族まで受け入れてしまって、マニスアーラが崩壊しかけたんです…!人口も半分以下になって…復興に半世紀掛かったって…。」

「そうか…分かった、もういいぞ。そんなに怖い顔しなくていいから、ね?」とラックが両手を前に出して二人を遠ざけるような動きをしている。

「もし何かあったら遅いですからね!」メイドがムッとした顔をして仁王立ちしていた。

「分かったから!ありがとうね?そのくらい寒いところなんだね?ここら辺は……。」ガネッタが無理やり会話を終わらせた。


 「これからは、一人ずつ専属メイドが付きます。困ったことがあったら、専属メイドに。」とスティア。

「本当に良くしてくれるわね。」と私が言うと、「異郷の地ですからね。中々リラックス出来ないと思いまして。」とスティア。

「アロマキャンドルでも焚きましょうか?甘い香りのものですが。」と花柄のメイド。

「い、いえ。遠慮しておきます。」とガネッタ。

「あら、そうですか。」

「花柄のメイドさんはメイド長なんですか?」と私が訊いてみた。

「そうですね。自然とそうなったというか…、まあ色々あったんです。」

…少しの沈黙。

メイド長は手を叩いた。すると、5人のメイドが廊下の角から現れた。

「さあ、皆さんを部屋に案内してください。」とメイド長が言った。

「かしこまりました。」まるで機械のように5人のメイド達は口を揃えて言った。


 部屋は走り回れるくらいの広さで、姫にしては少し狭い程度だった。

「ふぅん。まあまあかしら。」

私はベランダに出て、マニスアーラの街を眺める。路面には薄く雪が積もっていて少し肌寒く、綿雪は未だ降り続けていた。

落ちたばかりの枯れ葉がカラカラと木枯らしに吹かれて転がっていく。

…もの悲しい風景だ。広場の真ん中にある大樹には1枚も葉がついていない。「ふぅ…。落ち着くわ。」

「わー!雪だ!」とジュナの声が聞こえた。隣の部屋のベランダに彼女の姿が見えた。

「もう、子供じゃないんだから……。」とラックがベランダに出てきて呆れるように言ったが、顔はにやけていた。

「貴方達の出身は雪が降らない地域だったわね。」

「そうだな。降ったとしても、次の日には溶けてる。」とラック。

「でもさ、一回だけ雪がたっくさん積もったときがあったよね。」

「ん…、そうだったか?」

「ほら、おひさまが青くなってた日だよ。」

ラックは少し考え込むと、あっと言ってジュナの方に視線を向けた。

「ジュナが初めて雪を見たときだよ。そうだ…そうだった。なんか良い気分になってさ、みんなで雪だるま作ったよな。」

「そうそう、あのときはほんと楽しかったなぁ〜!何年前の話だっけ?」

「確か…10年前かな。」とラック。

「10年!そんなに昔の話かぁ。今年は雪でいっぱい遊べそうだね。」

誰も喋らなくなると、ほぼ完全な静寂が訪れる。

「…静かだね。」とジュナ。

「静か過ぎないか?この街。人の気配がまるで無い。」とラック。

「そうね…。さっきまではあんなにいたのに。」

また風が吹く。

「うぅ、寒っ。」と言って風に吹かれたジュナは自分の部屋に入っていった。

「なんか、嫌な予感がするわ。」と私が言うと「ああ…確かにな……。」とラックも頷いた。

「よしっ、この話は後でしよう。僕達の目的は勇者の説得だ。」

ラックはそう言ってベランダから立ち去った。


 準備が出来、しばらく部屋で寛いでいると、ドアの外から足音が聞こえてきた。

ガチャッとドアが開き、「もう行けるか?」とガネッタが言った。

「ノックも無しに異性の部屋の扉を開けるのは失礼よ。次から気を付けなさい。準備は出来ているわ。」

そう私が言い、ガネッタを押しのけて部屋から出て振り向くと、彼は少し顔を赤らめた。

「早速、勇者を説得に行くの?」と正面にいるラックに訊くと「ああ、そうだ。」と言い、玄関に向かって歩き出した。

スティアはメイド長と話していたが、私達が近づくとこちらに気が付いたようだ。メイド長は一礼するとどこかに歩いて行った。

「お出かけですか?」とスティア。

「うん、昨日話してた勇者ってどこにいるんですか?」とジュナが訊く。

「あー、口で説明するより案内した方が良さそうですね。付いてきて下さい。」とスティアが言うと、彼は階段の手すりに掛けてあった上着をさっと着て、玄関を出た。私達も彼に続いてここを後にした。


 さっきより強まった雪の中を、5分ばかり歩くとスティアが急に止まって「ここです。この家。」と言った。

寒い地域では一般的なレンガ造りの普通な家の前で止まったので、みんな呆気に取られていた。

「ここに…勇者が?」とフローライが言うと、「勇者という立派な肩書きはあれど、出身は普通の家庭ですよ。マニスアーラの伝統です。良家からは決して勇者は選出しない。」

とスティアが言った。

みんな納得したようなしていないような顔をしている。

…勇者がそこらへんの豪邸に住んでいては、威厳もなにもない。だが、論点はそこでは無い気はするが。

家の扉をコンコンとノックしてから、スティアが中に入るように促してきたので私達は恐る恐る中に入った。

すると、部屋の奥に明るい茶色の髪に整った顔立ちをした男性がいた。彼が勇者なのだろう。

彼は私達を見て驚いた顔をしていたが、すぐに真顔になった。

スティアはそんな彼にわざとらしく溜め息をついた後、一礼して外に出ていった。


 スティアが出ていってから、ソファーの後ろに隠れていた少女が顔を出し、ゆっくりと勇者の近くに座った。

この少女は魔法使いなのだろうか。近くから強い魔力を感じる。だが、少女からはほとんど魔力を感じない。恐らく僧侶かなにかが近くにいるのだろう。

「では、自己紹介を。」とラックが言うと、勇者は戸惑いながら口を開いた。「勇者の……ユーグ・ルザです。」

「魔法使いの…カルカ・ベルズです。」と少女が続けて言った。

「僧侶と戦士は?」とラックが訊くと、二人は視線を落とした。

「やられました…。二人とも…。」とカルカ。

「そ、そうですか……。不躾なことを。訊いてしまい申し訳ございません。」とラックが気まずそうに言った。

「悔しいです……!勇者として……何も出来なかったなんて……!」とユーグは奥歯を噛み締めた。

そんな彼を宥めるようにカルカが肩をさすっていた。

「もう、わたし達は戦えません。」とカルカが涙を堪えて言った。

やる気を失った勇者一行といったもののこれじゃどうにもならなそうだ。

私は窓に目を向けた。彼らは、あの葉を落とした木のように戦意を無くしていた。果たして彼らの凍りついた心に春は訪れるのだろうか。

「あー、えー……。」とガネッタが何か話そうとしていたが、言葉に詰まっていた。

カルカは顔を涙で濡らしながら勇者に向かって「どうしてなのっ…!!」と叫んだ。

勇者はしばらく固まっていたが、ハッと我に返り、「すみません……。情けないところを見せてしまって……。」と言って、暖かそうな彼の服の袖で落ちた涙を拭った。

カルカはまた口を開いた。

「ごめんなさい…、取り乱しちゃって……。」

「……何故、貴方達は魔王を倒せたのですか。」ユーグは低い声で私達に問いかけた。

「それは…。」ラックも返答に困っていた。

英雄の子孫だから、とは絶対に言えない。それは私達のプライドだった。

勇者と私達は、しばらく沈黙した。

静寂の中、ガネッタが口を開く。

彼女は無言でユーグを見ていたが、話し始めると同時に顔が紅潮していった。そして、声を荒らげて言った。

「死んだ仲間がどうこうとか言ってんじゃねえよ!!」

ガネッタは床から立ち上がり、勇者を睨みつけて続けた。

「こっちはなあ!おめぇより遥か昔に生まれて!!戦い続けて!!何回も何回も仲間の死を見届けてるんだよ!」

ガネッタはそこまで言うと、フローライに宥められて、少し落ち着きを取り戻した。

「そうは言っても…わたし、ただの人間だよ…。」カルカがまた下を向いた。300年生きたガネッタの言葉の重みに耐えきれなかったのだろう。

ユーグも下を向いていた。彼も何か言いたげだったが、やはり言葉が見つからないようだった。

「一つ訊いていい?」とフローライが話を切り出した。

「…はい。」とユーグ。

「この強い魔力は一体どこからのものなの?」

「…え?」カルカはきょとんとしている。

「まさか、気づいていなかったの?」と私が訊くと「全然。」とカルカに返された。

「貴方、それでも魔法使い?」とフローライに追い打ちをかけられたカルカは完全に萎縮しきっていた。

「一度外に出た方が良さそうね。」と私が言うとみんな頷いた。


 外に出ると、この短時間の間に強い吹雪になっていた。

「何なんだよこの吹雪っ…!!」とラック。

「寒いわね……。」とフローライ。

「1分もここに居られないよー。」とジュナ。

みんな口々に愚痴を言っていたが、一人、声を発さない者がいた。

「どうしたの?ガネッタ?」と私が訊くと「おかしい…。」とだけ言った。

「寒いから中に戻りましょう。」とカルカに言われ、みんな玄関に向かったときだった。

一瞬だけ、吹雪が止んだのだ。そして、只者ではない気配を上空に感じた。

「━━来るっ…!」私は咄嗟に広範囲バリアを張った。その瞬間、吹雪の中から白雪とは対照的な漆黒のドラゴンが飛び出し、私達の方に向かって飛んできた。

「な、なんだあれは……。」とユーグ。カルカに至っては腰が抜け、その場から動けないようだ。

ドラゴンは私達の少し手前に着地すると翼を畳み込み、咆哮した。


[二話 ガネッタ・ローザント〜闘志を燃やせ、火を灯せ〜]


 「おい…、ドラゴンの背に誰か乗っているぞ…!」とラックが叫ぶ。依然、吹雪が吹き続けて誰の姿も、ドラゴンの姿すらも見えない。

「見えるかよ!…みんな、武器はあるかー!」俺は背中に大剣を背負ったままだったが、みんながそうとは限らない。

ジュナは武器を拳銃からライフルにしたと聞いた。流石に持ってきていないはずだ。ラックはどうにかなるだろう。いつも懐にナイフを忍ばせている。エリカノーラと姉は大丈夫そうだ。何も無いところから杖を出現させるところを何度も見た。

…そうなると、姉に指示が通るかというのが一番の問題のようだ。ただでさえこの風の音で聞こえにくくなっている状況で、的確な指示が聞こえるかは怪しい。

「私は念の為の拳銃は持ってるよー!」とジュナが言った。

考え込んでいる暇はないようだ。ドラゴンが再び咆哮した。

「…っ、こっちか!」俺は背中から大剣を手に取り、しっかり構えてからいるはずのドラゴンに飛びかかった。「ガネッタ!吹雪を止められるかもしれない!」とエリーが叫ぶ。

俺の攻撃がドラゴンの翼に命中する。が、翼は予想外に硬く、効果はあったようだが、攻撃が弾かれた。俺はどうにか斬りかかった翼に掴まった。

「物理特化バリア!展開!」

エリーがそう叫んだ瞬間に、秘色の閃光が視界の右から放たれた。

それとほぼ同時に、ドラゴンが暴れ出した。俺を振り落とそうとしているようだ。

「ぐっ…!!まずいっ、落ちる…!」建物の3階程の高さからは流石に落ちたくない。それに、大剣だって壊れる恐れがある。

「ボディ・コントロール。効くまで振り落とされないでよね。」と姉が言う。この魔法のおかげで、ドラゴンの動きが次第に落ち着いてきた。

そして、エリーのバリアによって吹雪も大分収まってきた。視界が良くなり、ドラゴンの背に乗っている者が分かった。

魔王軍の魔族だ。服に魔王軍の紋章の刺繍があった。

「どうしてここが分かった?」そう問いかけると、

「しらみ潰しにお前らを捜し続けてやっと見つけたんだ!生け捕りにしてやる!」と魔族が言った。

「これはこれは、随分物騒なこと言ってますねぇ。」俺がそう煽ると魔族がこちらに攻撃を仕掛けてきた。細い剣による攻撃を避けることは簡単だ。魔族はただ闇雲に攻撃を繰り返していた。

「魔王軍もこんなものか。ジュナ、トドメを!俺は落ちる!」そう叫んで俺は翼から手を離して、大剣を一度鞘にしまった。


 指示がしっかり通ったようで、下でしっかりラックが俺の体を受け止めてくれた。

「サンキュ。」と俺が短く礼を言うと、「当然だろ。」とラックが言った。

「さて、攻撃が通りそうなところといえば…どこだ?」みんなに訊いたが誰も答えない。が、カルカはぶつぶつと何か言っていた。近付いてよく聞いてみると何やらドラゴンに関することを延々と言っていた。

「…つまり…弱点、火……。それと、首元…。」

「カルカ、いけるか?」俺は小声で訊いた。

「はい……。」カルカは自信が無さそうだったが頷いた。

ジュナが銃に弾を込め、またドラゴンの上から攻撃しようとしている魔族に向かっていった。

「あったれーっ!」

ジュナが撃った弾は見事命中し、魔族はバランスを崩した。その隙に俺は背中の大剣を取り出し、思い切り首元を斬りつけた。そのとき、大剣からは魔法の火が出た。

「ガウッ……!」ドラゴンがよろめいた。

「今の…!?…ナイス、カルカ!」と俺が言うと彼女は嬉しそうに頷いてくれた。

「もうちょっとそれ、よろしくな!」と言って、もう一度斬りかかる。すると、ドラゴンは飛び立とうとした。

「逃がすかっ!」俺は負けじと大剣を突き刺す。だがドラゴンは止まらない。

「あー!くそっ!!」と俺が叫ぶと姉が幻獣を操る魔法をもう一度かけた。「ライ姉、ありがと。」

明らかにドラゴンの飛行速度が遅くなった。

「うりゃあぁぁっ!!」ありったけの力で、ドラゴンの首を斬り落とした。胴体の方から血が噴き出した。

「魔族もやる。」ラックがナイフを投げてトドメをさした。

「勝ったの……?」とカルカが言った。俺は血を拭ってから、頷いて見せた。


 みんなが俺に向かって走ってきた。ハイタッチをしたり、ジャンプをしたりして喜んでいた。が、ユーグだけはその場にへたり込んだまま、こちらを見つめていた。

「ユーグ、大丈夫か?怪我したか?」と俺が訊くが、微動だにしない。

「…何も出来なかった。」とユーグはぽつりと言う。ユーグの視線の先にはみんなと一緒に喜んでいるカルカいた。

「カルカ…なんで、さっきまでは戦えないって…。俺と同じだって…。」

「何も出来ないまま、俺は終わるのか……?」ユーグは声を荒らげた。彼の目からは大粒の涙が溢れ出ていた。

「ほらよ、ハンカチ。」と俺は自分のハンカチをユーグに差し出した。彼は素直にそれを受け取った。

「ごめんなさっ、ゆうしゃっ、なのにっ…。」

「気にすんな。影で攻撃当ててたって言えばバレん。じゃ、早めに泣き止めよ。目、赤くなったら雪に顔うずめとけ。」

そう言い残し、俺はみんなの元に戻った。

「なんで俺って、色んな人泣かせちゃうかな。」

━━━「ガネッタは優しいなぁ。そんなに優しかったら泣けてくるよ。」━━━

いや、思い出しちゃいけない。俺が泣けてくる。会えるまでは心の奥にしまっておかないと。


 「で、このドラゴンと魔族…どうする?」とフローライは腕を組んでみんなの動向を伺っている。

「保存は出来そうだな。」とラック。

「食べてどうするの!?」とジュナ。

「意外とうまいぞ。ほら、後ろ足のところが絶妙な…。」

「うぇー、考えたくない。」

「素材としては良さそうね。鱗の艶もいいし、血も澄んでいる。」とエリー。

「こういうものも魔法に使えるんですね…。この街からあまり出たことがないので、勉強になります!」とカルカ。もうすっかりみんなに馴染んできた。

「はあ、流石に疲れたわ。バリア解除する。」と言って、物理特化バリアを解除した。ストンと一度雪が落ちてきたが、それ以上雪は降らなかった。

「もう雪止んでたのね。魔力の無駄遣いしたかも。」

エリカノーラのバリアの効果は絶大で、俺らの周りだけ丸く雪が積もっていなかった。それを見たカルカは

「エリカノーラさん、貴方は凄い魔法使いなのですね…!尊敬します…!」と言った。


 俺たちはドラゴンと魔族の死体を解体してさっきの建物に運び始めた。すると、家の中から戦闘の様子を見ていたであろう住人達が俺らに駆け寄ってきて、称賛の声をかけてきた。正直言って邪魔だったが、突き飛ばすのも可哀想なので、適当にあしらったが。

「ど、どうしたんですかこれ!?」と二階からスティアが転げ落ちるように階段を降りてきた。

「スティア、勝手に持ってきちゃってごめんなさい。」とカルカが謝る。

「ドラゴンはともかく……魔族ですか?」

「はい…上空からドラゴンに乗った魔族が飛んできて、そのまま…。」

「戦闘…と?」「はい!」ジュナは軽やかに返事をした。

「ちょっとまだ、状況が把握しきれないところがあるのですが…。ここに放置されると死臭が漂う館になってしまいます…。」

とスティアは困り果てた様子だ。

「エリーはこれ素材に使えるって言ってたよ。あ、ここで売り捌けばお金にもなるかも!」とジュナが提案した。

「放置よりかはいいでしょうね。」とスティアは賛成してくれた。

「だとしても、肉はすぐに腐るでしょう。今の内に調理しましょう。」

「え、まさか…!?」とジュナ。

「今日のメインディッシュはこれで決まりですね。」

「食べれる味にしてくださいね…!?」俺は念の為釘を刺しておいた。


 「こちらドラゴンのステーキです。味は大丈夫だと思います。」メイド長はクスリと笑い、料理をテーブルに置いた。俺は早速ステーキを切り分けて口に運んだ。肉は柔らかく、とても美味しかった。

「うん、美味いな。焼き加減も丁度いい。ジュナも食べるか?」そう訊くと彼女は少し考えた後に答えた。

「……んー、じゃあちょっとだけ…。…んまい…!」

メイド長は安堵の表情を浮かべた。

「実はさっきのスープも、ドラゴンの骨から出汁をとっています。」

「あら、そうなの。…ここのシェフって誰なのかしら?」エリーはステーキを切る手を止めて、メイド長に問いかけた。

「ご主人様です。」「え?」全員が聞き返した。

「ですから、ご主人様です。スティア様。」

「ええ…!?」やはり全員驚く。

「ご主人は錬金術師なので。失敗しても他の素材に変換出来るので便利なのですよ。」

「へえ…。錬金術はもう終わりだと思っていたが、そんな使い方があったとは…。」

「ご主人様の前でそれ言ったらぶっ飛ばされると思いますのでお気を付けて〜…。」メイド長は苦笑いで言った。


[三話 フローライ・ローザント〜これからもこの土を踏んで往く〜]


 食事が終わり、スティアがキッチンから出てきた。

「なんだか流れで食べちゃいました…!?」カルカは焦ったように口をパクパク、足をジタバタさせていた。

「いえいえ、今日くらい良いですよ。…そういえばユーグは?」

「あれ…、どこ行っちゃったんだろう…。」とカルカは不安そうに言った。

「ドラゴンのステーキ。帰りに持っていってくださいね。一人分残っていますから。…話、変わりますが。カルカ、戦えたか?」とスティア。

「はい…!ほんの少しですが。」

「ブランクがあったことも考えると、上出来だったと思うわよ。」とエリーが付け足した。

「安心しました。では、ユーグは?」

「…どうだろ。全然見てない。」とジュナ。カルカは不安そうな表情を浮かべた。

「そうですか。追放ですね。」スティアはサラッととんでもないことを言った。

「そんな…!」カルカが焦りだす。

「最後の追放者になりそうですね。」スティアは平然としていた。

「あなたも、ユーグと幼馴染でしょ!?」

「え、どういうこと…?」ジュナはメイド長に小さな声で訊いた。

「マニスアーラの決まりですよ。使えない勇者や魔法使いなどは追放です。」メイド長はこの雰囲気にそぐわず、にこやかに答えた。

「良いよな?追放ってことで。」彼は淡々とした口調でそう言った。

「決まりだなんて…!」カルカの声は震えていた。

「自分だって、もううんざりですよ…!…この家に生まれなければ、魔王なんてとっとと倒してきたってのに。」

彼はそう言いながら、階段を上っていった。


 「ユーグが……追放されちゃう…。」カルカは目に涙を溜めて呟いた。

「説得…なるほど。こうなるのをできる限り防ぐ為に、俺らを呼んだんじゃ?」

「どういうことです…?」カルカの目から涙が零れ落ちた。

「俺の推測だが…。スティアは街の決まりを知った上で、二人を追放したくないから俺らを呼んで、戦えることを証明して、追放しなくていいようにしようって考えたんじゃ?」

「スティアがそんな風に考えるとはとても…。もしそうだったならいいな…。」

「…従うしかないんじゃないか。」とラック。

「そうね。」とエリー。

カルカは諦めたように頷いたままメイド長からドラゴンのステーキを貰って帰って行った。


 翌日、ユーグは門の前で俺たちに最後の別れを告げた。

「情けないです。こんな別れだなんて。」とユーグは言った。

「どうにか生き延びて、としか言えない。」とカルカ。

「これ…。勇者の剣です。スティアのところに返す決まりなので。」

後ろからスティアがやって来た。

「ありがとう。…これ、自分からだ。」

「これは…?新しい剣か?」

「丸腰じゃ倒せる敵も倒せないだろ。」

「倒せないから追放されるんじゃ?」

「一応持ってけ。ステーキもな。」

「ありがとう、また来春。」

門が片側だけ開き、ユーグが去った。

抱きかかえていたユラがするりと手の間を抜けて門の外へ駆けていった。

「え…?ええ、え!?」ジュナは大声で驚いていた。

それを横目にユラはユーグの隣に辿り着いた。ユーグは困惑していた。

「ユラ!?」エリカノーラも落ち着きをなくしているようだった。

「冬眠じゃないの?途中までユーグの助けになるでしょう。春になったら戻って来るでしょうね。」と言っておいた。

「冬眠にしても、遅い気がするけど。土の中って寒くないのかなぁ。」とジュナが言った。

「意外と暖かいわよ。」と私が言うと、「冬眠したことあるのか!?」とラックが言った。


 「…幾ら街の決まりだとしても…追放は酷くないですか?」とカルカが声を絞り出すように言った。

「マニスアーラはそういう街なの。もう何百年も前から変わらないのよ。」とメイド長は言った。

「そうですか……。」カルカは下を向いてしまったが、直ぐに顔を上げた。

「でも、私はマニスアーラで生まれ、マニスアーラで育ちました。そしてこれからもこの街の為に生きるつもりです!そして、その為にも…私は改革をします!」と決意したように強く言った。

「改革って?何をどうするの?」とメイド長。

「そうですね、まずはこの古い決まりを無くします!」その瞳にはしっかりとした決意が見えた気がした。


 それから一ヶ月。ときおりドラゴンに乗った魔族がマニスアーラに降り立つことが多くなってきた。魔族達に街の場所がバレ始めていることは明白だった。倒したドラゴンで街の魔法の為の資源は潤ったこともまた明白であった。

カルカはスティアに協力を仰ぎ、少しづつ古い決まりを無くす為の準備を進めていた。スティアも最初は協力を渋っていたが、カルカの熱意に負け、全面的に協力していた。


 カルカはしばしば私とエリカノーラの部屋に魔法を教わりに来た。カルカは飲み込みが早く、更に魔法に対する向上心も人一倍強かった。

この日は私もエリーの部屋に来ていた。

「エリカノーラさん、私の魔法の属性は何です?」と目を輝かせて言った。

「うーん、土ね。」

「そうですか、なんだか…あんまり嬉しく無いです。」

「そうかしら?」

「はい、火とか水とかなら良かったのにーって。」

「かっこ悪いって思ってるでしょ。」と私が言うと、カルカは頬を赤らめた。

「やっぱり…分かります?」

「分かるわよ。いつの時代でも、土属性魔法使いの永遠の悩みはそれなのよ。」

「強いことには強いわよ。圧倒的な物理攻撃が出来る。魔法特化バリアを張っている相手に甚大なダメージを与えられる唯一の属性ね。」

「そう言われると、なんだか嬉しいです!」カルカはやる気を取り戻したように言った。


 数分程、魔導書の内容をカルカに教えた。

「わぁ…!分かり易いです!」

「私で良ければ幾らでも教えるわ!滞在期間中はね?」とエリーは微笑みながら言った。

カルカは目をキラキラと輝かせた。「はい!」と言ってエリーに飛びついた。彼女は優しくカルカを撫でていた。私はその光景を見て、母親という言葉が頭に浮かんだ。それを掻き消すように窓の外を見た。雪は未だ降り続け、道路の脇にはかかれた雪が堆く積まれていた。

「何事も、熱意を持って出来ると良いわね。でも、全部使い果たしちゃ駄目よ。」

「分かりました。あー、雪が解けたら土属性魔法の特訓をしたいですね。」

「その頃には、私達いないだろうけど。新しい師匠、見つけた方がいいんじゃない?」

とエリーは言った。

「それもそうですね。でも、まだまだお二人から教わりたいです!」

「そう言ってくれて嬉しいわ。」と私は言った。

「では、今日はこのくらいにしておきますね。」

「私もそろそろ戻るわ。」と言って私も立ち上がった。

「ありがとうございました、エリカノーラさん。」

「お疲れ様、エリー。」と私は言った。エリーは無言で手を振ると、白と黒の魔導書を手に取り、読書に没頭していた。


 別れ際、カルカは私にも礼を言った。「フローライさんもありがとうございました。春が来て、旅をし終わったら、またフローライさんに教わりたいです。」

「そうね…。その頃には、もう貴方とは会話出来ないかも。」

「え……。」カルカは酷く悲しそうな顔をした。

「私、…耳が聞こえなくなってきているの。」

「そんな…。」「悲しむことはないわ。耳が聞こえない人は、耳が聞こえないなりの生き方があるって思ってるから。可哀想って思わないでね。なんか…こう、なんて言ったらいいのでしょうね。」

「…そう、ですか…。」

カルカは寂しそうに俯いた。

「声が聞こえなくなる前に、沢山“ありがとう”って言わないと!」

彼女は笑顔で言った。私は手を振って、その場を去った。


 あれからまた一ヶ月が経った。雪は溶け始め、道路の脇に積まれた雪も、少しずつ消えていく。私はそんな風景を眺めながら、また街を歩いていた。

「あ、ドラゴン。」

ドラゴンは一ヶ月前よりも明らかに多く街を訪れるようになった。最早驚きも感じない。手早く倒し…いや、勿体ない気がしてきた。上の魔族だけ倒して、ドラゴンは従えることにした。

「そろそろ春が来るからね。移動手段は欲しかったところ。」

ドラゴンを従えて早速乗ってみた。

「うわぁ!?何してるんですか、フローライさん!?」

「新しい移動手段よー!」

「え!?街の中でドラゴンに乗るんですか!?」

カルカは興奮して目を輝かせている。少し下降してカルカに近づく。

「ちょっとくらい良いじゃない。」と私は言った。

「あと何日で門は開くのだっけ?」

「あと3日……だったと思います!」とカルカは答えた。

「ユラは戻って来るのかしら。まあ、ユラならあまり心配はないわ。大体ここは生息地域だからね、イグナイトフォックスは。」と私は答えた。

「じゃあ、ユーグは……?」カルカは心配そうに言った。

「何処かで生きてるでしょ。」建物からか出てきたジュナが言った。

「おわ、ジュナさん!かわいいコーデですね。」

「ありがとね!マニスアーラって服の生産が盛んなんだね、知らなかったよ。」ジュナは感激したように言った。

「次の目的地は…エイヴェルド島だったかな?そこって暑いところ?」

「そうですね。北側ですが、暖流に囲まれているので暑いと思います。」

「へえ、地理詳しいのね。」とエリー。

「土属性らしいので…使えるかなーと思って一応勉強しました。」カルカは恥ずかしそうに答えた。

「すごいじゃん!」とジュナ。

「将来的には魔法を使って街を整備し直そうかなと。」

「それは良いわね。」サラッと会話に入ってきたエリーはカルカを褒めた。

「暑いところかぁ、夏服置いてる?」

「どうでしょうね…。エイヴェルド島に行く人は多いですからあるかもしれないです!」

「カルカ、コーディネートしてよ!」

「わたしがですか!?」

「それ、いいわね。頼んだわよ。」エリーも便乗した。

「じゃ、私も。」「え?えぇっ!?」

「おにーちゃんとガネッタも連れてこないと!」

「ま、待ってぇ…!」

カルカは慌てながら、走り去るジュナについて行った。


 ショッピングを終えて、計画を立てるためにラックの部屋に集まった。

「結構お洒落な服買えたな。動きやすいし、素材もいい。」ラックは満足げだ。「カルカ、ありがとな。」ガネッタも嬉しそうだ。

「いえ、わたしも楽しかったですから!」とカルカは笑顔で言った。

「では、わたしはこれで。」

「じゃーね!」

カルカはぺこりと礼をして、去っていった。

ラックはパンと手を叩くと「じゃ、これからの計画を立てるか。」と言った。

「行き先はエイヴェルド島で決定だよね。あ、そういやエリーが宝石が有名だって前に言ってたよな?」

「そう!上質な宝石が多く見つかるところで、島全体が鉱山のようなものね。」

「エイヴェルド島と言えばペディスティルだよな。俺の父が世話になったっていう奴が居たんだって?」とガネッタ。

「そうそう。ナハルシアではアイリスの方が浸透してるけどね。」

「ちょ、待って待って!全然分かんない!イチから説明してよ。」

とジュナ。

「はいはい、ペディスティルっていう人がいたのよ。昔ね。」とエリーが説明し始めた。

「ペディスティルとアイリスは同一人物ね。名前が違うだけ。」

「ふうん……。で、そのペディスティルって人とガネッタのお父さんは何の関係があるの?」

「300年前に剣士トーマと幻獣使いシャロンがエイヴェルド島に来たとき、ペディスティルが島内を案内したのよ。」

「成る程ねー。あ、ナハルシアって何?聞いたことはあるけど…。」

「エリーの国だぞ。それすら知らなかったとは…。社会科の成績は酷かったから、今更何言っても仕方ないか。」

呆れたようにラックが言った。ジュナは口を尖らせて「だって〜。」と言いたげな表情をしていた。


 「エイヴェルド島って危険なんじゃ?」と私が言うと、「昔はお世辞にも治安が良いとは言えなかったわね。」とエリーが喋り始めた。

「島の鉱山の入口は封鎖されて、内部では人身売買が横行。幻獣使いシャロンも被害に遭ったそうよ。今は改善されたけどね。」

「なら安心だね!」

「ただ…。未だに昔と同じように封鎖されている区域があるみたいね。なるべくそこには行きたくないけども…。仕方なく行くときもあるかもね。」

「そうか…。ちなみに聞くけど、マニスアーラとエイヴェルド島って何の関係があるんだ?」

「その疑問、お答え致します。」ノックも無しにメイド長が部屋に入ってきた。

「貴方、ノックせずに…。」エリーが戸惑っていたが、その言葉さえ遮ってメイド長は話し始めた。

「エイヴェルド島はマニスアーラと同じ境遇の人々が住んでいた島なのです。魔王に追いやられ、遥か北西の島まで逃げてきたのです。」

「そうなんですね。」ラックが苦笑いで相槌を打つ。

「ええ。そんな経緯があったからこそ、マニスアーラとエイヴェルド島は友好関係を築くことが出来たのです!」自信満々に言うと「私はこれで。」と、そそくさと部屋を出ていった。「一体何だったのかしら……。」

「さあ……?」ガネッタは首を傾げて言った。


 3日が経ち、ようやくマニスアーラの門が開く日が来た。何処から出てきたのやら、街の人々が広場に出て、お祭り騒ぎをしているようだ。

私達は人混みの合間を縫って門の前に辿り着いた。そこではスティアとメイド達が慌ただしそうに交通整理をしていた。

十分な広さが取れ、少し静かになった頃、私達は観衆の前に誘導された。

「“300年目の勇者達”こと、ラックさん、ジュナさん、フローライさん、エリカノーラさん、ガネッタさんが門の前に来ています。」

観衆が騒がしくなった。

「まず私、マニスアーラの領主、スティアが謝辞を述べさせて頂きます。この度は魔王討伐を成し遂げて下さりありがとうございました。」と、スティアは深く頭を下げた。

群衆の中から拍手の波が沸き起こった。私は少し照れくさくなった。

「これからラックさん方はエイヴェルド島に向かいます。僕は忙しいので、チアフィとグリームが同行させて頂きます。」

いつの間にやら、チアフィとグリームが私の横にいた。

「それでは、門が開きます。」

金属製の扉は音を立ててゆっくりと開いた。

「行ってらっしゃいませ。」とチアフィは頭を下げた。

頭上で鐘が大きな音で鳴った。

群衆の中で、カルカが笑顔で手を振っているのが見えた。私は手を振り返した。向こうからユラが駆けてきた。

「行ってきまーす!」とジュナも大きく手を振った。


[四話 ジュナ・フィニー〜金色の一等星〜]


 私達はフローライが従えていたドラゴンに乗って海を横断した。「海は広いなぁ。」と兄。

「そうだねぇ。あー、私達の街にも海があったら良かったのに。」

「ことごとく無い無い尽くしだな。雪といい、海といい…。」

「スティアだったら、“溶けたら同じだ”とかって言ってきそうですね。」とチアフィ。

「いいや、“海水には塩が入っている”って言うはずさ。あいつは無駄に細かいところに気を使う。」とグリーム。

「錬金術師なんだから、そこ気にしちゃうんじゃない?」ガネッタは笑った。

「あ、見えてきたよ。」とフローライ。

「あれがエイヴェルド島……。」エリーは感激していた。

「あ、港だ。あそこに着陸しましょ!」とチアフィ。私は頷いてドラゴンを下に向かわせた。


 全員が降りてからドラゴンは使役状態を解かれ、天に羽ばたいて行った。

「さてと…。どうする?」とラック。

「せっかくですし、観光でもどうです?」とチアフィは言った。

「そうね、そうさせてもらうわ!」エリーは嬉々として答えた。

「久々に来たから観光でもしていこうかな。」ガネッタもエリカノーラに賛成のようだ。

「じゃあそうするか。危険だと判断したところは一人で勝手に行かないようにな。」とラック。


 私は海で釣りをすることにした。

港から歩いて約10分、綺麗な海が見えてきた。砂浜で釣りをする人は多いけど、岩場から釣る人は余り見ないな……なんてことを考えながら釣竿を垂らす。しばらく海を眺めていると、「え、えぇぇ!?」とガネッタの声が遠くで聞こえた。

「そんな、わけ…!」

とフローライの声。

「どうしたのー?」と私は言った。

「うん、間違いなさそうだな。あ、ごめん…ちょっと待って。」

とガネッタは言うと、私から顔を背けた。

さっきの声を聞きつけて、他の四人もこっちに来た。

「あー、簡潔に言うとね、その…。剣士トーマの居場所が分かったわ。」

「本当に!?」

「うん。でも、2つ問題があって……。1つ目はトーマがエイヴェルド島の最深部近くにいること。」

「もう1つは?」

「厄介そうな奴もそこにいること。」

「“厄介そう”って、どんな風に?」

「悪魔ね。それも、メルーシャとは比べ物にならない程に強い。」

その言葉を聞いた瞬間、全身から血の気が引いた感覚がした。

「そんな……。勝てるの?」と私は恐る恐る聞いた。

「ええ、勝たないといけないのよ。」とエリーは言った。

気持ちの整理がついたのか、物陰から出てきたガネッタは、

「俺、父さんに会いたい。絶対に!」と力強く言った。


 「話の腰を折るようで申し訳ないけど、どうして剣士トーマが最深部にいることが分かったの?」とエリーが訊いた。

「これのお陰さ。」ガネッタはそう答えると手をくるりと回して削除依頼リストを取り出した。

「ほら、ここに。」ガネッタが指差したところには確かに[トーマ・ローザント]と名前があった。

「“推定315歳”って…。あ、すいません勝手に見てしまって!」とチアフィ。

「チアフィには別に見られて困るものじゃないし。いいよいいよ。」ガネッタは適当に答えた。

「長らく捜してたんだろ?良かったじゃないか。」とラックは言った。

「そう、だけど…。自分の手で捜し出せた訳じゃないし…。なんか、すっきりしないし。それに、リストに載ってるってことは…。」

「削除対象になる、って訳ね…。」エリーは悩ましい顔をしていた。

「悪魔の方は?どんなの?」と私。

「えーっと…。恐らく、カペラーニャだと思う。二つ名は、金色の一等星。」

「こん、じき…?」

「きんいろって書いてこんじきと読むんだぞ。」若干呆れたように兄が説明してくれた。

「で、どういうやつなんだ?」とガネッタが訊いた。

「大半の悪魔を従える現代で最も有名な悪魔ね。数多の稲妻を操り、全てを焼き焦がすと謂れているわ。」

「なんか強そうだね……。勝てるかな……。」

「大丈夫だ。俺達ならな。」

と兄が私の頭を優しく撫でてくれた。心地良いなぁ……って、今はそうじゃない!と我に返り、私は訊いた。

「で、どうする?このまま突っ込む?」

「それしか無さそうね……。」エリーは不安そうだったが、直ぐに決心したようだった。


 島内部への入口に取り付けてあったであろう頑丈な門は無くなって、代わりに大理石で出来たエントランスホールが広がっていた。

「あ、まずは名簿に名前を記入して下さい。皆さん忘れがちなんですよね。」チアフィはにこっと笑い冊子を手渡してきた。

さっさと必要事項を済ませて本当の内部に入った。道はある程度整備され、意外にも歩きやすかった。カツカツと軽快な音を立てて歩くのは心地よかった。

「案外あっさりと入れるもんなんだね。あたし、ワクワクしてきたよ。」とグリームも何だか嬉しそうだった。

岩の天井に吊り下げられたランタンが道を照らし、夜店のような雰囲気の商店街に辿り着いた。

「ここら辺は人身売買、やってないよね…!?」ガネッタは不安そうだ。

「多分大丈夫よ。ガネッタはひょいっと連れて行かれそうだけど。」エリーはすんとした表情で先へずんずん進んで行った。

「多分って…!エリーさぁん…。」チアフィも不安そうだ。「何が何でも先に進むしかないだろ。」とラック。

「まあ、そうよね……。」とエリー。


 しばらく行くと、大きな広場に出た。目の前には彫刻が施されている柱が中心にそびえ立っていた。台座には赤、青、黄色、緑の4つの宝石がはめ込まれているようだった。

台座の側には石碑があり、『ペディスティルを称えて』と書かれていた。

「この人が…ペディスティル?」

「そうみたいね。会ったことないから確信はないけど。」エリーも分からないようだ。

「本物だな。」ガネッタは知っているみたいだ。

「ガネッタさん、この人に会ったことあるんですか?」チアフィが訊いた。

「そうだな。大体270年前に。」

「本当に凄く長生きしてるのかー。ペディスティルってもう死んじゃったの?」とグリーム。

「ナハルシアで息を引き取ったらしいわね。ナハルシアに来た途端に衰弱していってそのまま…。」

「なんかありそうだねー。ペディスティルも長生きだったんでしょ?おかしいって思わないの?」

「まあ……。ナハルシアに何か秘密があるのは確かだと思うけどね。」と私。

「ふむ……。」とエリーが何か考え込んでいた。

「もしかしたら、魔法が原因かも。」

「どういうことだ?」ラックも興味津々で聞いている。

「ペディスティルは“バベル・ノア”という果実を口にして、不老長寿になったと謂れているわ。でも、それには欠点があって、魔力への抵抗力がほとんど無くなる。」

「ナハルシアは元々、魔法が禁止されていた。そうよね?」とフローライ。

「そうなんですか!?今や魔法の国なのに…。」チアフィは驚きを隠せていない。

「そう、魔法が解禁されて国中に魔力が溢れていた。それを知らずにペディスティルは来てしまったのでしょうね…。」

「歴史の謎、1個解明しちゃってない?」とグリーム。

「そうかもね。」と嬉しそうにエリーは言った。


 「さ、進もうか。急いでるんだろ?」ラック。

「そうだな。」とガネッタも頷く。

私達は最深部へ続く階段に進み始めた…が。フローライだけは、その場から動かなかった。

「フローライ、行くわよ?」先頭のエリーが声をかけたが、フローライは聞く耳を持たない。

ガネッタは何故か落ち着きが無かった。

「いいから、早く行こ?俺は急いでいるんだ。な、ライ姉。」

「え?ああ…。」フローライは今やっと気付いたみたいだ。

「どうした?」兄が心配そうにフローライの顔を覗き込む。

「いや、なんでもない。少し、考え事をしていて…。」とフローライは答えたが、それは嘘だと分かった。

「聞こえてるか?」兄がそう言っても、フローライは首を横に振った。

「全然聞こえない。」

「聞こえない?」兄は首を傾げた。

「うん…。」とだけフローライは答えた。

「いつからだ?」フローライに訊いたが、返答がない。代わりにガネッタが答えた。

「魔女の洋館からかな。その頃は聞こえにくい程度だったんだけど…。」

「そうか…。戦闘には参加させない方がいいんじゃないか?」とラック。

「相手は稲妻を操る悪魔。稲妻は大きな音がするものよ。これ以上フローライの耳に負荷をかけない方がいいと私は思うわ。」

ガネッタは無言で頷き、フローライの左側に寄り添いながら歩いた。

「じゃあ行くか。」兄が再びそう言ったが、フローライにはその言葉は届いていないだろう。


 「この先か…。」とガネッタ。

目の前には鉄格子の扉とその奥に金属製の門があった。看板には“タチサレ”とだけ書かれていた。ここからは封鎖地域なのだろう。

「ライ姉、大丈夫?」恐らく声はほとんど聞こえていないが、意志を汲み取って「大丈夫だよ。ユラもファングもいる。」と答えた。

「ここで待ってるね。」

フローライがそう言うと、ガネッタは頷いて鉄格子の扉を開けた。

私はやっぱり気になって後ろを振り返るとフローライは両手を握り、胸あたりに上げて“頑張って”とエールを送ってくれた。


 兄とガネッタ、チアフィの3人がかりで金属製の門を開けた。

さっきとはうって変わって、舗装されていない岩がむき出しの道で薄暗くて少しほこりっぽかった。

道の脇にはロウソクが並べられているだけだった。

しばらく歩くと、広場に出た。さっきの不気味さからは考えられない程に輝かしい広場だ。

広場の周りには人身売買や怪しい魔道具を売っている出店が立ち並び、人や魔物、悪魔や堕天使がそこを賑わせていた。中央には悪魔の彫刻がされた像があった。

「うわぁ…。闇市場だ…。」

広場の外れには稲妻と悪魔を模した絵画が描かれた門があり、明らかにここだけ雰囲気が違った。

「また門…。」グリームは同じような作りに飽き飽きしていた。

「ここが本当の最深部らしいな。」と兄が答える。

「何があるか分からないけど、行くしかないか。」ガネッタはそう言うと、門を開けて中に入って行ったので、私もそれについて行った。


 内部は広く、神殿のように白い柱が立ち並んでいた。奥には玉座に座る悪魔が一体佇んでいた。

「我に何か用か?」

「一応訊くが…、お前の名前はカペラーニャか?」と兄。

「『口を慎め』。我の質問から答えよ。」

「…!?」様子がおかしい。どうやら兄は言葉を発せなくなったようだ。

「…っはぁ。用がなきゃ、こんな地下深くまで来ないだろ…。」

「ふーん、それもそうね。」

「こちらも質問に答えないとな。我の名はカペラーニャ。二つ名は、金色の一等星。」

「私も質問していいかしら。」とエリーが言った。

「構わん。」

「あなたはオーサー?胸元に黄色の宝石をつけているけど。」

「そうだ、正式なオーサーではないけど。疑うならば…エリカノーラ、『近う寄れ』。」

エリカノーラは驚きつつもカペラーニャの元に駆け寄った。

「見える?瞳孔の下。」

「瞳孔を囲むような線…。間違い無いわね。」

エリーは私達の元に戻ってきた。

「質問タイムはこれで終わり。貴方達の目的は剣士トーマに会うこと。今の内に大人しく諦めなさい。」

「それは無理な相談だ。」

ガネッタがそう言うと、カペラーニャはおもむろに立ち上がって目を見開いた。

「本当に?」

「俺は諦めない。」

「そう。アルターの力は使わないであげる。」

カペラーニャはそう言うと、右手を挙げて何か唱えると、ガネッタと私の足元から金色の鎖が現れて、私達の両手両足、そして胴に巻き付いた。

「っ!」私は何も出来なくて、ただもがくことしか出来なかった。

「これは……!?」スティアとグリームは驚いて固まってしまっている。

「動かぬ方が賢明だと思うな。」とカペラーニャは言うが、その通りだった。何せこの鎖はかなり頑丈でビクともしなかったのだ。

「オーサーの力は使わないんじゃなかったの?」と私は訊いた。

「これはオーサーの力じゃあない。この子のお陰さ。ほら、上…見な。」

玉座の上辺りには鳥かごのようなものがあり、その中には人間の魔法使いだろうか。杖を持った何者かが立ったままうなだれていた。

「かつての魔王の后、ナターシャ・アルデバランの戦法だ。」

…誰?エリーをちらっと見ると仕方なさそうに説明してくれた。

「私達が倒した魔王ソファラの母に当たるオーサーね。…確かに、この戦い方をしていたらしいわ。鳥かごの中にいる魔法使いの魔法を使っているだけ、という訳ね。」

「そう。本来ならオーサーの力を使って操るのだが、我は稲妻を操れるから…これ以上は言わないでおく。種明かしは最後に、な?」

もう一度右手を挙げると、もう一つ鳥かごが出現した。

「出そうと思ったら無限に出せる。我の魔法だけじゃ手段が限られるから。」

ギロリと私の目を見て「小難しい話ばかりでつまらないでしょう?安心なさい、ジュナ。これからは息もつけない戦い方が始まるのだから。」と言った。

カペラーニャは深い呼吸をしてからこう言い放った。

「英雄の子孫達よ、300年目の勇者達よ!お前達は雷光の速さについてこれようか!!」


[五話 ラック・フィニー〜水と時は流れるもの〜]


 カペラーニャが開幕早々に魔法攻撃を仕掛けてきたが、エリーがバリアで防ぎ、事なきを得た。が、鎖で拘束されている妹とガネッタはそうでは無いみたいだ。感電しているようで、ガネッタが呻き声を出している。

チアフィがガネッタから大剣を借り、鎖を手早く砕くと鎖はボロボロと崩れていった。

カペラーニャ、攻撃の手を緩めるつもりはないらしい。先程よりも大きな稲妻を俺達に落としてきた。

エリーはバリアで防ごうとしたが、駄目みたいだ。

「すり抜ける…!?」

「バリアを貫通してくるのか!?」

しかし、カペラーニャは容赦なく雷を放ってきた。避けきれないと思ったその時、雷が後ろに引き付けられて直撃を免れた。

「防ぐのは無理なら引き付ければ良い。」後ろを見ると、グリームが金属製の杖を浮かせて微弱な電気を流していた。

「成る程、避雷針か…!」と俺は呟いた。

「我の弱点をもう見つけたのか。面白い。お前、勇者の子孫でもないのに。」

「っは!皮肉かよ。まあいい、かかってこいよ!金色の一等星よぉ!」

グリームは杖を追加で出現させてカペラーニャを煽るようなことを言った。

「いいわ、そうしてあげる!こんなもんじゃないわ!」

カペラーニャがそう言うと、地面が黄色く光り出した。

「足元に気を付けなさい!」とカペラーニャが言うと地鳴りと共に地面から巨大な稲妻の柱が現れた。

「くっ!」俺は寸前のところで避けたが、完全には避けきれずに服が少し焦げてしまった。みんなもなんとか避けたようだが、エリーだけは感電してしまって身動きが取れなかったから急いで部屋の端に寄せた。

「そろそろ飽きてきたでしょ?変わり種の攻撃もしてあげる!」

僕達に鎖を巻き付け、更に部屋の中央を渦を巻くように長い鎖を張り巡らせた。

「電磁石…!」スティアは鎖を引きちぎろうと引っ張るが、やはりビクともしない。

長い鎖に電流が流れると、体に巻き付く鎖はそれの端に引き寄せられた。

咄嗟に短剣を柱にに巻き付けてなんとか堪えた。

「電磁石……、成る程ね。魔法というより科学じゃない。」とエリーが呟いた。

「そうね。魔法だって、科学の内よ。超自然的なエネルギーを実用化出来る程まで集めたものが魔力なのだから。」

「勉強はちゃんとやっとくものだね…。」ジュナはそう呟くと、カペラーニャの攻撃を避けながら鎖を砕いた。


 「我はまだまだ本気じゃないわ。…水責めといこうかしら。」

「水責め?」スティアが不安そうな声で訊くと、カペラーニャは右手を挙げた。

頭上から水が押し寄せて来た。

「おいおいおいっ…!?」

「電気分解よ!」エリーがありったけの声を出して伝えてくれた。

「…あ、もしかして、爆発する…!?」

「御名答。水素と酸素に電気分解にして、爆発させるわ。」

「電撃の真髄を思い知れ!」

カペラーニャがそう言うと、上から勢いよく大量の水が降り注ぎ、そして爆発した。

耳を塞いでいても、肌に空気が揺れる感覚まで伝わってきた。

その轟音と共に爆風が襲ってきたが、エリーがバリアで防いでくれたお陰でなんとか耐え凌ぐことが出来た。「おお、さすがだな。エリー。」

「そりゃどうも。」

カペラーニャは流石に魔力が足りなくなってきたようだ。肩で息をしている。

「まさか、我の攻撃をここまで防ぐなんてな……。」カペラーニャはそう呟いている。


 「我はまだいける!」と言うや否や、見たことのない魔法陣を自身の背後に出現させ、

「従え!悪魔達よ!一等星には抗えん!!」

と叫ぶと、背後の魔法陣から稲妻を纏った悪魔が五体出現して、あっという間にカペラーニャを囲んだ。

エリーがまたバリアを張ったが、それは悪魔達によってあっさり壊されてしまった。「我の悪魔達はそこらの下級悪魔とは訳が違うぞ。」とカペラーニャが不敵な笑みを浮かべて言った。

「我と同等レベル、もしくはそれ以上の悪魔を模したもの。お前らに倒せるかな。」

「あっはっはっ!余裕だね?弱点は把握してる。」ガネッタはそう言うと、悪魔に向かって走り出した。

エリーはガネッタを援護するべく、ガネッタの周りにバリアを張った。

グリームとスティアはガネッタの援護に向かった。

スティアは魔法の弓で悪魔を射ているが、あまり効いていないようだ。

グリームは先程と同様に金属製の杖を使って稲妻を引き付けていた。

大口を叩いたガネッタは、宣言通りそれぞれの悪魔の弱点を知っているようで、すぐに五体全てを倒し切った。


 「はぁ…はぁ…。もう無理…。」

カペラーニャはその場に膝から崩れ落ちた。

「本当はもっと戦えるけど…。魔力切れを起こしそうだからっ…。」

「賢明な判断ね。」

とエリーはカペラーニャに歩み寄ると、カペラーニャの角に触れた。

「私達の勝ちね。」

「悪魔のルールも知ってるのね…。」

カペラーニャは呼吸が荒いままだ。かなり魔力を消費したんだろう。

「辛いなら寄りかかって良いわよ。」

とエリーが言うと、カペラーニャはエリーに寄りかかるようにして気を失った。

「勝ったな。」

「ええ、なんとかね。」

スティアとグリームはハイタッチをしている。

「それにしても…。なんでカペラーニャは頑なに、剣士トーマに会わせたく無かったのかな?」とジュナ。

「…そうだな。俺達が会ったとしてもカペラーニャは困ることは無い筈だ…。」

「あのカペラーニャが魔力切れになる程必死で戦うなんて余程の事よ。」エリーは首を傾げていた。

「あぁもうっ!グダグダ喋ってないで、会ってみたら良いじゃないの!」グリームがキレた。

「ま、まぁ、良いじゃん。ね?」チアフィがすぐさまグリームを宥める。

「俺もライ姉も、早く父さんに会いたい。」

「それじゃあ、行きましょ?」とエリーが言って、玉座の裏にあるレバーを引き隠し扉を開けた。

「なんで仕組み知ってるの?」と妹。

「英才教育よ。」エリーは得意げに言った。

「おお…、ダンジョンみたいだ…。こういうの、ワクワクします!」チアフィは目をキラキラさせている。

「トラップとか無いよな?早く行こう。」ガネッタはそう言うと、さっさと通路を進んだ。

「待って待って!私もー!」妹はガネッタを追いかけて行った。

「僕達も行くか。」と僕が言うと、残った四人は頷いてついて来た。

通路は少し歩くと細い螺旋階段になっていて、それを下って行くと白い扉があった。

「はあっ…。やっとか。やっと、200年振りに会える…。」ガネッタは嬉しそうでもあるが、緊張もしているようだ。


 ガネッタは恐る恐る扉を開ける。

その先は全体が噴水の様な造りの部屋だった。その中心には一際大きい鳥籠があり、その中には恐らく剣士トーマであろう人が倒れていた。

「父さんっ!」

ガネッタはそう言うと、靴を脱いで、鳥籠に向かって走り出した。水が溜めてあるが浅いようだ。ガネッタは脇目も振らずに鳥籠へと走る。

「ちょ、ちょっと……!」とジュナは心配なようだ。

鳥籠の中に辿り着いたガネッタは鳥籠に触れた瞬間、涙を流した。そして震える声で話しかけた。

「……父さん……、父さん……、聞こえる?僕だよ……ガネッタだよ……。」

剣士トーマはゆっくりと全身を起こし、鳥籠越しにガネッタの手を握った。

「ガネッタ…なのか?」

「そうだよ……。ずっと会いたかったんだ……。」ガネッタは泣きながら言った。

トーマは急いで鳥籠の扉を開けて、ガネッタを抱き締めた。

「どうしてここまで…!もう一生会えないはずだと伝えただろう…!」トーマの顔は嬉しそうでもあり、悲しそうでもあり、苦しそうでもあった。

トーマはガネッタと抱き合うのをやめると「フローライは?」と訊いた。

「ああ…封鎖地域の前で待ってる。」

「なら良かった。」少し安心した表情になり、こわばっていた体から力が抜けたようだ。ようやく周りを見て、僕達がいることに気付いたようだ。

「あ…この人達はガネッタの仲間か?」

「それ以上の関係だよ。」トーマはその言葉の意味をすぐに理解したようだ。ガネッタは軽くトーマの背中を叩き、僕達のいる場所に歩くように促した。

トーマは僕の顔をまじまじと見る。

「ロイドに似てるな。名前は?」

「ラックです。魔法剣士をやっています。」トーマが視線を妹に向けた。

「あ、ジュナです。狩人になるのかなぁ…。」

「エリカノーラですわ。回復系魔法使いです。」

いつものメンバーの名前を聞くと、トーマは懐かしそうに笑った。

「300年も経っても、顔ぶれはあまり変わらないな。」

「父さんが旅立ってから、200年も経ったよ……。」

ガネッタは先程よりも涙を流して俯いてしまった。

僕はガネッタを背中を撫でた。しかし、ガネッタは僕にすり寄り嗚咽して喋らなくなってしまった。みんなに泣き顔を見せたくないのだろう。

「はは…。ちょ、ガネッタ…。」

ガネッタは泣き止まない。

「うーん…。そうか…200年か……。」

トーマは感慨深そうにあごに片手を添えていた。300年以上生きているというのに、顔にも、その手にもしわ一つ付いていなかった。冒険に出た15歳前後の姿のままだ。

…トーマもバベル・ノアを口にしたのか?その疑問が頭をよぎったが、とてもそのことを言い出せる雰囲気では無かったので言うのはやめた。

「何はともあれ、良かったわね。」とエリカノーラ。

「本当に良かったね!」ジュナがにっこり笑って頷く。

「とりあえず、こんな地下深くじゃなくて太陽の下に出ましょう。気分が晴れないわ。」

「エリーってさ、日光浴好きだよな。王族だから日焼けとか気にするかと思ってたけど。」と僕。

「そうね。…私の体、植物みたいに光合成でもしてるのかしら。」

「はは……。」と僕は苦笑した。

「それはそうと……、これをどうしようかしら。」エリーがお姫様抱っこをしているカペラーニャに視線を向けた。

「んー、なんか言いたげだったし。連れてこ!」

「そうね。あー、疲れたし…グリームとチアフィ?手伝ってくれる?」

二人は明らかに嫌そうな顔をした。

「…やっぱり嫌、よね。でも意外と軽いわよ?ほら、ちょっと持ってみて?」

顔をしかめつつも、チアフィが手を差し出してきた。そっとカペラーニャを乗せた。

「か、軽っ。」

「ね?軽いでしょう?」

チアフィは驚いた顔でカペラーニャをまじまじと見ている。

「カペラーニャって、悪魔なんですよね?」

スティアが恐る恐る訊いたので、僕は頷いた。

「ああ、そうだ。」

「悪魔って、もっとこう…恐ろしい生き物かと思ってました。」とスティア。

「かわいい…。」とチアフィが呟いたのが微かに聞こえた。

意識がないはずのカペラーニャの口角が緩んだ。もしかして、褒められて喜んでるのか?

ゆっくりとまぶたを開くと彼女はチアフィの腕の上で伸びをする。

「んーっ……。」

スティアがすくみ上る。

カペラーニャは眠そうな目でチアフィの腕から飛び降りた。

そして、エリーに近づいて来たので僕は構えを取ったが、どうやら敵意は無いようだ。

「どうしてトドメを刺さなかった?」

「消す必要は無いと判断したからよ。」

「消す…ね?貴方達、ソファラに命令されてここに来たの?」

「は…?ソファラに何の関係があるんだ?」とトーマ。

「ソファラはアルター。それは知ってるな?」「ああ。」

「トーマ達はオーサーを倒した。その後、ソファラはオーサーの力を使い、魔王として世界を司り続けた。…だが。」

「今までは大勢オーサーがいたから成り立っていた、生と死のバランスが崩れた。」

「え?ちょっと待って、その話聞いてないかも。」とジュナ。

「…そうか、意外だな。てっきり知っているものだと思ったが。…話を戻す。崩れたバランスを戻すため、ソファラは貴方達に暗殺の協力を仰いだ。」

「そういうことだったのか…。」と僕。

「ソファラ、いちいち代が変わるごとに説明をするのが面倒になったのかも。」とジュナ。

「そう考えるのが妥当ね。」とエリー。

「一つ助言をしよう。もっとオーサーのことが知りたくなったのなら、エアーズ・タワーの最上階に行くといい。」

「ふーん?そこに行けば、何か分かるのね?」とエリー。

「それからもう一つ。地表ばかり手がかりを探さないことね。海の底から天の果てまで行かないと。…人の命は短いのでしょ?世界は意外と狭いから、5年もあれば出来るはず。」

にっ、と歯を見せると用心深そうに

「もちろん、生きていることが条件だけど。」と言った。

「貴重な情報、感謝するわ。」エリーは微笑んで礼を言った。

カペラーニャはトーマに近づいた。

「これからどうするつもり?自分で鳥籠から出たんでしょう?存在意義、見つけられたってことなんだな?」

「ああ。もうここには戻らないよ。長い間、ありがとう。」

「どういたしまして。…さあ、行きなさい。」

カペラーニャは扉がある方向を指し示した。トーマは深く頷くと、扉へ進み始めた。カペラーニャが手を叩くと、鳥籠は崩れ、溜めてあった水

が轟々と音を立てて流れ始めた。


 カペラーニャの部屋から出ると、トーマは僕達のいる後ろを振り返った。

「せっかくなら、闇市場に寄って行かないか?」

「え、寄るんですか…?」

「ここにはなんでも揃ってる。…フローライには耳当てを買わないとな。」

「なんでそれを…。」ガネッタはまだ目元が赤い。

「兆候はあった。五感が少しずつ薄くなる呪いのようなものが掛けてあった。…恐らくソファラが掛けたのだろう。フローライは強すぎたから、バランス調整のようなものだろう。」

「え、じゃあ…オーサーの力があれば治るってことか?」

「多分な。」「カペラーニャの力じゃ駄目なのか?」

「ソファラはカペラーニャより強い。」

「でも、カペラーニャより簡単に倒せたよね?」とジュナ。

「倒せっ…え?うん?はぁ?」トーマは困惑した顔をしていた。

「ああ…もしかして、知らなかった?俺達、ソファラを倒したんだ。」

「えぇ…!?ガネッタ達がかぁ…!?時代は変わるものだなぁ…。」


[第二章~終~]


そのころ魔王城は…

「見失った…だと!?」

「はい…。居た筈の街も、地図にない街で…。」

「何してんだよっ!!」

「すみません…。港から出た船も、馬車も確認をしたのですが分からずじまいでして…。」

「もういい!消えろっ!」

使えない部下はそそくさと帰っていった。

「…あ、ごめんな。」

物陰に隠れた少女は怯えたように体を縮めて床に座っていた。

「レガシィ、大きな声嫌いだったよな。」

少女は無言で何度か頷いた。

「ママもいなくなっちゃったのに、パパもずっと怒りっぱなしなんて…なんだか情けないな。」

「いいですよ。気にしません。もう大分慣れたので。」

すくっと立ち上がると、レガシィは無機質な声でそう言った。

「部屋に戻ったらどうだ?」

「いいです。レガシィは貴方と一緒にいることに喜びを感じています。」

「よしよし、一人称も変えられたな。…一緒にいるなら、少し昔話をしようか。」

「どれ程昔の話ですか?」

「ざっと…500年前の話かな。」


 私はその時はまだ天使だった。亡くなった人々の魂を天空の島に運ぶ役割をしているだけの、ただの下級天使であった。

その頃はまだ中央都市のワディオッタ王国が出来た頃。それなのに、ワディオッタはすぐに隣国に戦争を仕掛けた。

…戦争は長らく続いた。戦いに駆り出された兵士。罪のない一般国民。

その半数以上が亡くなった。

兵士の魂は、人を殺した分だけ上に運ぶ。

国民の魂は、人を殺さなかった分だけ上に運ぶ。

そんな掟が伝えられた。


 ある時、家族を守る為に剣を取った少女がいた。…少女というか幼女だった。何せ、まだ7歳程の子どもだったから。

私の姿を見た瞬間、彼女は私に斬りかかった。恐らく、死にたく無かったのだろう。天使が見えたら、誰だって自分は死ぬんだと考えるのが人間だ。

私は油断していた。天使とはいえ実体はある。

右翼を切られた。しかも、根本から。

初めて見る自身の鮮血にたじろぐ。

彼女は情けない私の姿を見て、剣を手放した。包帯を持ってくると、私の体に巻き付けた。

鈍い痛みがしばらく続いた。切断された右翼は、彼女が毛布の上に乗せておいていた。彼女なりの配慮なのだろう。医者を呼ぶにも戦争中でほとんどいないだろうし、そもそも天使を翼をつける手術など聞いたこともない。

痛がる私を、彼女はどうにか楽にしてあげようと頭を撫でてくれた。

「ことば、話せる?」

「ああ、勿論さ。」

「てんしさん、ごめんね。ミダ、わるいこだね。」

「ミダって言うんだね。大丈夫、大人だってそうするよ。」

「ありがとう、てんしさん。てんしの名前は?」

「無い、ね。」

「そっかぁ…。うーん、もう夕方だね。」

「早いな、宵の入りか…。」「ヨイ?なにそれ?」

「夜のことだよ。」

「じゃあヨイでいいや!あ、でも…てんしさんが来たってことは。ミダってもうすぐ死んじゃうかもだよね?」

「そうかもな。」

「ミダのこと、てんしさんにわすれてほしくない。だから、ミダからミをとって…ミヨイ!」

「ミヨイ…、いい名前じゃないか。」

「ありがとう、てんしのミヨイさん!」

後になって思ったことだが、ミヨイというのは、“未”だ“宵”ではないとも捉えられる、と。

私は彼女にこの右翼はもういらないと伝えると、毛布にくるんだ状態で翼を近くの教会に持っていった。

「あれを持っていってどうするんだ?」

「ミヨイさんはもういらないけど、ほかのてんしさんとかがほしいかなって思ったの。」

彼女は教会の祭壇に翼を優しく乗せた。

「なにかのやくに立つよ。たぶん。」

教会の扉が開き、隣国の兵士が3人入ってきた。彼女は剣を構え、兵士に斬りかかった。が、彼女は7歳の少女だった。彼女の脇腹に剣が突き刺さった。

「うぐっ……!!」

3人の兵士を倒したと同時に彼女も倒れた。

「てんしさん、けがは?」

「大丈夫だ、それよりミダだろ。」

「そっかぁ……よかった……。」

そう言うと彼女はゆっくり目を閉じようとしていた。私は彼女の手にそっと触れた。彼女は微笑んで私の手を強く握った。

「てんしさんは、いい人だよ……ミヨイさん。」

「ミダもいい子だ。」

「わたしを、くもの上に連れてって…。」

「ああ、勿論さ。」

「しんじゃうの…こわい。夜よりこわい…。」

「そうかい…。じゃあ、なるべく怖くないように、夜になる前に連れていくよ。」

ミダは微かに頷いた後、呼吸が止まった。

ふわふわと彼女の魂が出てきた。早く、行かなければ。


 国民の魂は、人を殺さなかった分だけ上に運ぶ。そんな掟、守る訳無いだろ。ミダは罪無き幼女だ。掟を破ってでも、一番上に連れて行く。

右翼は無くとも、彼女が巻いてくれた包帯が魔力を帯びて飛ぶ手助けをしてくれた。

上級天使に見つかっても、私は飛ぶのをやめなかった。ミダの魂を運び終わり、天空の島に降り立つと、上級天使に突き落とされた。

「お前は最早、天使ではない!これは正当な罰だ!」

体から力が抜けていく感覚がする。私は堕天使になったのだ。


 「と…まあ、こんな感じかな。」

「貴方は何故過ちを犯したのですか?」レガシィは小首を傾げていた。

「いつか分かるさ、私みたいに。」

レガシィには感情が希薄なようだ。だが…きっと、いつかは分かる筈だ。

「この続きはまた今度。」

「楽しみにしていますね。」

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