北のお屋敷に連れて行かれましたわ
「結局、本当にあの子が幽霊だったのかは分からないまま私は侍女を辞めたのだけれど。噂がたってしまったものだからなかなか新しい侍女が決まらないって聞いたわ」
「そ、それは幽霊ですわ!だって目が無かったのですよね?そして消えていますし!」
ユリアン様が半分叫びながら言いましたわ。
「うーん。今、冷静になって考えると幽霊にしては人間ぽかったような気もするのよ。幽霊ってもっと、こう、この世の者ではない雰囲気とか体が透けて見えるとかがあるのではないかしら?」
「その幽霊にはそれが無かったのですか?」
私はぬるくなったホットミルクを飲みながら訊きましたわ。
「そうなのよ。どちらかと言えば人間の悲壮感?助けて感?な感じがしたような気もするけれど私も驚いていたし今となってはよく分からないわ」
ふむ、ふむ、やはり、ですわ。
「えっと、マーレ様の故郷は東にあったエス?グ?」
お父様に聞いていましたが頭がまだ6歳児なので忘れてしまいました!
「エスグライド帝国だよ」
ダリル様が助けて下さいました。
「その隣国はサフィランカ帝国?」
「そうだよ」
ダリル様に正解を頂きました!この知識は前の人生の時の王妃教育で教えて頂いたものですわ。
「アイラ嬢は物知りだね?もうその歳で我が国周辺の帝国名を知っているんだ!素晴らしい」
ダリル様に褒められましたが8歳の貴方様が完璧に知っているのも素晴らしいと思いますわ。ダリル様は将来お父様の後を継いで宰相様になられるのでしょうね。陰ながら応援しますわ!
「あ、いえ、そんな......。地図を見るのが好きなのですわ。それで少しだけ記憶にあるだけです」
えへへと私は照れ笑いです。
ダリル様は凄い、凄いと頭を撫でてくれましたわ!幸せ!この何とも言えない幸せ感は何なのですの?人生においてお初ですわ!
「さぁ、そろそろ子供は寝る時間だよ?」
と、ジョージ様がお部屋に入って来ましたわ。あら、残念です。まだ訊きたい事がありましたが仕方ありません。良い子にしてねとお母様から言われていますもの。
その夜はユリアン様と一緒にフワフワのベッドで眠り楽しいお泊まりが終わりました。
ユリアン様一家とお別れが辛いですわ。たった一泊だけのお泊まり会でしたのに。
「また遊びにおいで」
ジョージ様が優しく言って下さいました。
「そうよ?いつでも大歓迎だわ」
アン様、ありがとうございます!
「今度は我が家の敷地内にある湖にピクニックしようね!待ってるよ!」
ダリル様がそう言って私の手の甲にキスをしてくださいました。キスですわ!紳士ですわ!
どーしましょう!前の人生ではこの様な事をされたことが無いので戸惑います!
「はい......。よろしくお願いします」
ん?何かプロポーズの返事みたいになっちゃってません?私だけぇ?私だけそう感じてますのぉぉぉ!?
「おい。チビ少し頭冷やせ。まだ恋なんぞ早いんだよ!まずは大人の体になりやがれ。そしたら俺がいつでも可愛がってやるから」
アクアが私を馬車まで引きずりながら暴言を吐いてきますわ。私はその様な事は望んでおりません。淡い恋心を何だと思っているのでしょうか?
今週も王城に行く日になりました。
私とユリアン様は週に3回ぐらい登城しています。曜日は決まっていないのですわ。日曜日にまとめてその週の予定が送られてきますのよ。
王城に着いていつものお部屋に行くとエレーネ様がとても不機嫌です。
「お泊まりの事がバレてしまったようです」
ユリアン様が小さな声で教えてくれました。
まぁ!何処から漏れるのかしら?
まだ先生が来ていないのをいい事にエレーネ様が私の手をグイグイ引っ張ります。
「アイラ、お泊まりしたんだって?何で私は呼ばれてないんだ?」
それって普通はユリアン様に訊ねる事なのでは?私が窓口ですか?
「えっと、まず流石にエレーネ様をお屋敷にお呼びしてお泊まりして頂くのは畏れ多いかと。それに今回は女の子だけのお泊まりでしたの。ごめんなさいです」
何故に私が謝っているのでしょう?
「ふん。相手がエリアス兄上ならそうだが私ならいいだろう?側室の子供なんだし普通の貴族として接しろ」
ぶーぶー文句を言いながら私の手を撫で回します。
「どうせ、泊まって一晩中例の幽霊話してたんだろう?私も調べてみたぞ。あれは北の屋敷で見かけるそうだな。だから、今日はお茶の時間に抜け出すぞ?」
何故そうなりますの?しかもそんな大きな声で言ってしまったのなら護衛騎士達に筒抜けですわ。
そしてお茶の時間。
私達3人には護衛騎士がベッタリくっ付いて離れません。そうでしょうね?まったくエレーネ様は......。
そう思った瞬間エレーネ様が私の手を握り小さく呪文を唱えました。
すると目の前の景色が変わりましたの!
これは移動魔法ですわね?
目の前には見るからに幽霊が出そうなお屋敷がありますわ。
「ここが北の屋敷だ」
ですわよね。
「怖くないか?」
「大丈夫です。でも怒られないですか?勝手に入ってしまって」
私達はお庭に居るのです。もう門から中に入ってしまっているのですよ。
「私を誰だと?王城に俺が入ってはいけない場所などは無い」
そうですか?きっと沢山あるような気がしますわよ?まだ子供ですしね。
特に側室様のお屋敷は......。
あ~!勝手にお屋敷の扉を開けてはいけませんよ?
このお屋敷は門番も侍女も護衛も居ないのですか?
不審者がばんばん入って来ますわよ?
ギギギーー。
わぁ、本当にアレイダ様が言っていた通りに古いお屋敷ですのね。
中に入り最初に居間のような大きいお部屋があります。私達は静かに歩いて行きます。長い廊下に出ましたわ。その廊下の窓から外を見ると中庭に茶色い髪の毛の女性が2人の侍女を連れて歩いています。
「あれがマーレ様だ。外に出るなんて珍しいらしいらしいぞ?」
殆どお屋敷から出ないってアレイダ様も言ってましたわ。
私達は見つからないようにしゃがみ込みチラチラと窓の外を見ていました。マーレ様は綺麗なピンク色の瞳ですわ!ダリル様と一緒です。
そう思った瞬間でしたわ。マーレ様がこちらを見たのです。目が合ってしまいましたわ!




