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残花の香り 7
ふと気が付くと、林泉寺の境内に立っていた。
はて、何をしていたか。長い夢でも見ていような心地がする。
天には照り輝く三日月があった。
源太は暫くの間、ぼんやりと月を眺めていたが、己がなんのためにここにいるのかをふと思い出した。
春日山に戻って、命を遂げたことを主に報告せねば。
参道を歩きはじめると、灯篭の光を背にした女が立っていた。
「お戻りになられたのでございますね」
胸に幼子を抱いている。
「ああ、約束通りその子を抱いてやる」
源太は女のそば近くまで寄ると、両手を差し出し、そっと優しくその子を抱いた。
月明かりの下、三人は身を寄せ合った。
灯篭の傍らに咲く菖蒲の香りが、林泉寺の境内に広がっていた。
完




