アトラシア第8章 理術工房の一日
これは、理術士見習いとしての、最初の一日。
第8章:理術工房の一日
朝の鐘の音と共に、ソウタは工房へと向かった。
ウルクの理術工房は、城壁の近くに構えられた灰色の石造りの建物だった。規則正しい設計、無駄のない廊下、整然と並ぶ帳簿と理術書。それはまるで、都市の精神そのものを体現しているようだった。
工房の責任者であるオルドは、昨日の白髪混じりの男だ。無口だが、理術士としての腕は確かだと評判だ。
「手始めにこれを運べ」
渡されたのは重い木箱。中には工具や理術書が詰まっていた。ソウタは汗をかきながら運び、指示通りに分類し、倉庫の記録帳に書き写した。
昼休み、工房の中庭でパンと干し果物をかじりながら、ソウタは他の助手たちの話を聞いていた。
「最近、冥府の諜報員がウルクに潜入したって噂、知ってるか?」
「またかよ。どうせ流言だろう」
「でもさ、複写室から創世記の理術書と焔術書が何冊か、消えたんだって」
創世記とは遥か昔、神がアトラシアを創造したとされる時代のこと。
今ではその知識の多くが失われている。
ナギの情報は未だ得られず、ソウタは一人不安に押しつぶされそうであった。
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