アトラシア第3章 冥府の女王パトラ
死と再生の女王は、神の模造品に未来を託す。これは救いか、それとも新たな呪いか。
第3章:冥府の女王パトラ
地下深く、静寂と香煙の漂う広間。
その中心に、冥府の玉座はあった。
高く積まれた黒曜石の段の上、漆黒の衣をまとった一人の女が座っていた。
女王パトラ。
死と再生を司る神・セムカトラの血を引く存在にして、冥府国家の統治者。
彼女の目は閉じられていたが、周囲に漂う気配のひとつひとつを感じ取っていた。
「……目覚めたのですね。ナギさん」
傍らに控えていた側近の冥術師が膝をつく。
「女王様、傀儡より報告が。岩戸の地にて、ナギ様を確保。導きは成功しました」
パトラはそっと目を開けた。深い青色の瞳が、無言のまま宙を見つめている。
「神の力が、ようやく我らの手に届いた……。今度こそ、この苦しみを終わらせる。」
静かに立ち上がると、長い衣の裾が床を滑るように流れた。
「ナギを迎えなさい。決して粗雑な扱いはしないこと。彼女は“神の模造品”ではない。未来そのものです」
「はっ……」
側近が立ち去ったあと、パトラはひとり広間に残り、手にした書板に目を落とした。
そこには、古代文字でこう記されていた。
『縛めを砕きしとき、苦悩は消え、解き放たれるだろう。』
「ようやくこの苦しみが終わる、解脱は近い」
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