アトラシア第1章 導きの声
異世界アトラシアへと繋がる物語の始まりです。
第1章:導きの声
ソウタは高校2年生。無口で目立たないタイプで、クラスでは静かに読書しているような少年だ。趣味は読書で歴史と数学が好き。そんな彼が、放課後になると決まって向かう場所がある。
町の図書館だ。
古びた建物の中、いつもの窓際の席で、ソウタは今日も本を読んでいる。読むのは決まって歴史や神話に関する本。彼にとってそれは、現実から少しだけ離れるための、静かな逃避だった。
「ねえ、またそんな本?」
隣に座っている少女が声をかけてくる。サナ。同じクラスで、ソウタの数少ない友人だ。明るくておせっかいで、ソウタのことを放っておけないらしい。
「……うん、なんか落ち着くんだ。こういうの、読んでると」
「神話とか? 世界の始まりとか? 現実じゃないのに、変わってるよね」
「現実のほうが、よくわからないし……」
サナは笑って、机に置いていた雑誌をめくった。「私はこっち。遺跡特集。こっちも案外面白いよ」
外は蝉の声。夕方が近づいて、図書館の空気が少しずつ色を変えていく。どこか寂しげで、どこか温かい。
そんな中、ソウタは本のページをめくった。
そのときだった。
——耳元で、声がした。
『私の声を聞け、ソウタ……』
一瞬、時間が止まったように感じた。図書館の音、サナの気配、すべてが遠ざかって、そこにあるのはただ一つの“声”。
「……今、何か聞こえなかった?」
「え? なにが?」
サナがきょとんとする。彼女には聞こえていないらしい。
ソウタはゆっくりと座り直し、もう一度あたりを見回した。
すると、もう一度——
『ナギを守れ。ナギの存在が鍵となる』
今度は、はっきりと聞こえた。
ナギとはソウタの年の離れた妹だ
彼の中で、何かが確かに変わり始めていた。
***
その夜、ソウタはリビングの窓越しに外を見て、ふと目を細めた。
「……ナギ?」
庭先を、小さな影がふらりと横切った。それは妹のナギだった。夜に外へ出るなど普段ならありえないことだ。彼女は、ゆっくりと裏山の方へ歩いて行った。
「まさか……」
胸騒ぎを覚えたソウタはすぐに靴を履き、あとを追った。
裏山には昔から「岩戸」と呼ばれる場所がある。大きな岩が裂けたようにそそり立ち、その間にぽっかりと闇が口を開けている。地元の人は“神隠しの場所”などと呼び、子どもが近づくことを禁じていた。
ナギは迷うことなく、その前に立っていた。そして何かに引き寄せられるように、ゆっくりと中へ歩いていこうとする。
「ナギ、待って!」
思わず声をあげたソウタが駆け寄ると、ナギはちらりとこちらを振り返った。
「あれ・・・?お兄ちゃん、どうしたの?」
「どうしたのじゃない、何をしているんだ!?」
謎の声が響く。
「……ナギを、守れ……」
冷たい風が吹き抜け、視界がぐにゃりと歪む。
気づけば岩戸の中へと踏み込んでいた。空気が一変し、冷たい風が背後から吹き抜ける。
そして次の瞬間、視界がゆがみ、足元の感覚が消えた——。
気がつけば、見知らぬ空の下に立っていた。青くない空。重たい雲が低く垂れ込め、草原のようでいてどこか荒廃した土地。
「……ここは……?」
再び、謎の声が響く。
「ここはアトラシアの岩戸の地だ」
「ナギを、守れ」
「……彼女が、この世界を救う鍵だ……」
ソウタは初めて異世界に足を踏み入れた、すべてはここから始まる。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
どうぞ、続きを楽しみにしていてください。