〜戦士の丘〜
【固定】
始めまして、三軒長屋 与太郎です。
ゆっくりと物語の中の世界を、楽しんで頂けると幸いです。
後書きに名称一覧がありますので、ご活用下さい。
マイクとヤニスたちが最後の無花果を拾い、エーレたちがケイロンの洞窟へと入って行ったちょうどその頃、ルカの率いたカテリーニの狩人と住民たちは、ゼノンに案内され、ラミアの中にいた。
小さな宿場をひとつ借りる許可をもらい、その中に住民たちを詰め込み、束の間の休息を与えたのであった。
未だに操られているのであろう……住民たちはルカの言葉をおぼろげに聞き、皆、会話もなくその場へと座り込んだ。
ヘラクレスの意思から解放された狩人たちは、(一体何が起きているのか?この場所は本当に安全なのか?)と矢継ぎ早にルカに質問を投げかけたが、現状まだ操られている住民たちを思うと安易に打ち明けることも出来ず、「今は待って欲しい」と伝えると共に、ここでそれぞれの身体を休めながら、住民たちを護る使命を与えた。
宿場から出てきたルカとミトは、外に繋がれた馬や犬たちを愛でながら「お前たちもゆっくり休みな」と告げた。
そこへ、鎧を脱ぎ、一段と引き締まった体つきになったゼノンと、相変わらず不自然な大巨体を携えたディシウスが現れた。
「待たせたかな?
感じているとは思うが、この街は血気に溢れていてな……あまりゆっくり出来る場所がない。
良い場所がある。
ついて来てくれるかい?」
ルカとミトは素直に頷くと、口数少なげにゼノンとディシウスの後を追った。
街の長であるゼノン、そして嫌でも目立つディシウス、その後をついて歩く余所者二人。
街の中でルカとミトに向けられる目線は、お世辞にも歓迎ムードとは言えなかった。
むしろ、嫉妬じみた嫌悪すら感じた。
しかし、幾ら旧知の仲とは言え、戦士の街で気を抜くほど、ミトも、そしてルカも生温くは生きて来なかった。
二人の客人の堂々たる態度は、ラミア中から向けられる目線をものの見事に叩き落とした。
途中、そんな二人を振り返りながら、ゼノンは満足げに口角を上げるのであった。
そして、四人は小さな丘へとたどり着いた。
丘とは名ばかりで、そこはひとつの緑も生えることなく荒廃していた。
「ここは上級戦士たちの訓練場でな、余計な視線を感じずに済む。
まあ……心地の良い場所ではないがな」
そう言うと、ゼノンは丘の頂あたりに自らの剣を突き刺した。
その横にディシウスが斧をめり込ませると、丘の大地は小さく揺れた。
ルカとミトも二人に習い、それぞれの武器を置いた。
剣を地面に差し込む瞬間、ルカはこの丘が数多の血を吸っていることに気がつき、一瞬身震いした。
しかし、すぐさまミト爺が肩をポンと叩き、ルカの不安を祓ってくれた。
四人は武器の近くに胡座をかいて円になった。
ディシウスが腰を下ろすと、またしても大地は小さく揺れた。
「まず何から聞くべきか……」
ゼノンの質問を皮切りに、ルカはこれまでの出来事をひとつひとつ語り始めた。
カテリーニに起きたこと、パンのこと、白鳥のこと、そしてヘラクレスのこと……。
「つまりは、どのみちカテリーニの者たちをアテネに連れて行かなければ、あの者たちの安否が定かではないと?」
ゼノンが尋ねた。
「多分……。
でもどちらかと言うと、父を呼び出すための囮だと思うんです。
理由は解らないけど、とにかく、父とヤニスさんをアテネに向かわせたいんだと……。
白鳥の女神様もそんなことを言っていました。
だけどもしかしたら、カテリーニの皆は安全であればそれで良いのかもしれないとも思っています。
あくまで目的は父とヤニスさんをアテネに向かわせること。
それであれば、僕だけでも囮として充分な気がするし……自分で言っていても気持ちが悪いのですが、ヘラクレスの意思からあまり悪意を感じないんです。 どちらかと言えば護られているような……」
ゼノンはひとつひとつ細かな詳細を尋ねながら、ルカの話を噛み砕いていった。
これはミトも同じで、初めて聞かされる自らとカテリーニに起こったことに、深く眉間に皺を寄せながら、なんとか理解しようと努めた。
この緊張感の中にありながらも、ディシウスは途中から聞いていなかった……いや、理解が追いついていなかった。
力こそがすべてと信じる戦士によくあることであり、他の三人はそれを気にも留めなかった。
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登場する名称一覧
【キャラクター】
・カロス(ケンタウルス)
・エーレ(神の器?)
・ヤニス(エーレの父に返り咲いた男)
・マイク(伝説の英雄)
・レナ(ケンタウルスの女戦士)
・ターレス(ケンタウルスの族長)
・ソフィア(ケンタウルスの少女)
・アグノス(ケンタウルスの若い戦士)
・ルカ(マイクの息子)
・マートル(マイクの妻、ルカを産むと共に死去)
・ネオ(若い狩人)
・ミト(老いた狩人)
・ケイロン(ケンタウルスの英雄?)
・レア(大地の女神、レナの師)
・アキレウス(昔の英雄)
・アルカイオス(昔の英雄、後のヘラクレス)
・ヘラクレス(英雄の神、元アルカイオス)
・ネッソス(レナの父)
・アイネ(レナの母)
・ヘルメス(天界の死神)
・ヘルメスの使者(元ニンフの魂)
・タナトス(冥界の死神)
・ヒュプノス(タナトスの双子の弟、冥界の死神)
・モイラ(タナトスとヒュプノスの妹、複数の人格を持つ?)
・狭間の獣(タナトスの下僕)
・ニンフ(精霊の総称)
・サテュロス(笛を吹く半人半獣)
・パン(ニンフ殺し、ヘルメスの使い)
・女(ヴィーナス、ルカの意思に語りかける謎の女)
・エコー(山の精霊。カロスに恋をする木霊)
・ヘーラー(ゼウスの妻、天界の母)
・デュシウス(ラミア西門の門番)
・ゼノン(ラミア最高位の兵士、マイクとヤニスの弟子)
・クリストフ(ゼノンのファミリーネームであり、ゼノンの父であるミトの旧友の呼び名)
・老剣士(?)
・ティーターン(天界を支配した原初の一族より選ばれた12の神達)
【場所・他】
・ミリア(エーレが住む山奥の町)
・カテリーニ(マイクが住む海の近くの町)
・パライオ(山の入口の町)
・レアの泉(女神の泉)
・ピエリア(ミリアから山を超えた先)
・モスコホリ(ミリアの隣町)
・オイコス(ケンタウルス達が集う場所)
・アルゴリス(アテネより南に位置する、ヒドラの住まう場所)
・ラリサ(ギリシャ西部中央に位地する巨大交易都市)
・ラミア(スパルタの兵士達がアテネを攻め入る拠点となる街)
・デルポイ(海に面した山岳地帯)
・コリントス海(ヘーラーの呪いが掛けられた入り江状の海)
・スパルタ(ヤニスやマイクが属した勢力)
・アテネ(スパルタの敵対勢力)
・天界(天空の世界)
・冥界(地底の世界)
・禁則の地(天界と繋がる場所)
・イボヴォリ(ケンタウルスの園にそびえる大樹)
・ヒドラ(九つの首を持つ毒蛇)
・パピルス紙(古代に於いて使われた植物性の紙)