〜梟と共に〜
【固定】
始めまして、三軒長屋 与太郎です。
ゆっくりと物語の中の世界を、楽しんで頂けると幸いです。
後書きに名称一覧がありますので、ご活用下さい。
エーレがケンタウルスたちに見惚れているその奥から、ゆっくりと女神レアと賢者ケイロンが歩み寄って来た。
「お前たちの話はおおよそ理解した。
さて、今後の話に進めよう」
賢者ケイロンがそう言うと、神殿の前の地面から、何やら大きな岩盤がせり上がってきた。
そこへ、今度は女神レアが水滴を垂らした。
するとどうだ……水滴は鮮やかに色づき、細かく分かれながら岩盤の上を縦横無尽に走り回り、あれよあれよという間に、見事な地図を浮かび上がらせた。
エーレは、もはやこれくらいのことでは動揺しなかった。
そして、其々が進むべき今後の行く先を、女神レアが語り始めた。
「お前たちが話していた通り、私たちも、エーレの秘めた力とケンタウルス族に受け継がれる古の神話が、どこかで繋がっていると思っている。
それが良き予兆なのかは分からぬが……先に言った通りだ。
エーレは引き続き、その“眼”で見たものを、隠さず我々に教えてくれ」
エーレは静かに、大きく頷いた。
「そしてこれからであるが、森の夜が明けた後、お前たちはデルポイを目指してくれ。
今から向かったとしても、エーレの父親たちには追いつけないだろう……だが、アポロンがあの地を離れるとは思えぬ」
女神レアが話すのと連動して、岩盤の上の水滴の一部がキラリと輝き、小さな足跡を刻みながら、パルナッソス山麓と、その中に浮かぶデルポイの文字を一段と強く光らせた。
「そして何よりも、やはりネムーの存在が気に掛かる。
私の推測では、ネムーは確実に、エーレの秘密に関与している。
これについても、デルポイの主であるアポロンが、何も知らぬはずがない。
即ち、お前たちは明朝より、自ら地に降りた“怠惰の太陽神”に会いに行ってもらう」
この話の流れを、エーレは深く理解できなかった。
だが、カロスとレナには大きな疑念があったようで、お互いに目を交わしていた。
その様子を察して、賢者ケイロンが口を開いた。
「お前たちの疑念も分かっておる。
勿論、急にお前たちがデルポイへと向かったところで、すぐにアポロンに会えるわけではない。
デルポイを求めれば求めるほど、パルナッソス山の中を一生彷徨うことになるだろう。
そこで、今回は私もついて行く。
わし自身がこの地を離れてしまうと、すぐに天冥の神々に気付かれてしまうのでな……今回も此奴の身体を借りる」
ケイロンが軽く天を見上げると、空から見慣れた小さな梟が舞い降り、エーレの肩に止まった。
エーレは久しぶりの再会に笑みをこぼし、人差し指を梟に啄ませ、こめかみを優しく撫でてやった。
小さな梟は大きな目を閉じ、実に嬉しそうに懐いた。
「要するに、わしがこの梟の目を通して、そして女神レアがペガサスの子の目を通して、お前たちの旅に同行する。
いかに新時代の太陽神であろうと、我々から見ればただの子供だ。
安心して向かうが良い」
エーレ、そしてケンタウルスたちの旅路は、いよいよ仰々しい様相を呈してきた。
大地の女神と、世界随一の賢者を引き連れた旅……。
エーレは肩に乗る梟に癒されながらも、小さな胃がきゅっと締め付けられるのを感じた。
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登場する名称一覧
【キャラクター】
・カロス(ケンタウルス)
・エーレ(神の器?)
・ヤニス(エーレの父に返り咲いた男)
・マイク(伝説の英雄)
・レナ(ケンタウルスの女戦士)
・ターレス(ケンタウルスの族長)
・ソフィア(ケンタウルスの少女)
・アグノス(ケンタウルスの若い戦士)
・ルカ(マイクの息子)
・マートル(マイクの妻、ルカを産むと共に死去)
・ネオ(若い狩人)
・ミト(老いた狩人)
・ケイロン(ケンタウルスの英雄?)
・レア(大地の女神、レナの師)
・アキレウス(昔の英雄)
・アルカイオス(昔の英雄、後のヘラクレス)
・ヘラクレス(英雄の神、元アルカイオス)
・ネッソス(レナの父)
・アイネ(レナの母)
・ヘルメス(天界の死神)
・ヘルメスの使者(元ニンフの魂)
・タナトス(冥界の死神)
・ヒュプノス(タナトスの双子の弟、冥界の死神)
・モイラ(タナトスとヒュプノスの妹、複数の人格を持つ?)
・狭間の獣(タナトスの下僕)
・ニンフ(精霊の総称)
・サテュロス(笛を吹く半人半獣)
・パン(ニンフ殺し、ヘルメスの使い)
・女(ヴィーナス、ルカの意思に語りかける謎の女)
・エコー(山の精霊。カロスに恋をする木霊)
・ヘーラー(ゼウスの妻、天界の母)
・デュシウス(ラミア西門の門番)
・ゼノン(ラミア最高位の兵士、マイクとヤニスの弟子)
・クリストフ(ゼノンのファミリーネームであり、ゼノンの父であるミトの旧友の呼び名)
・老剣士(?)
・ティーターン(天界を支配した原初の一族より選ばれた12の神達)
【場所・他】
・ミリア(エーレが住む山奥の町)
・カテリーニ(マイクが住む海の近くの町)
・パライオ(山の入口の町)
・レアの泉(女神の泉)
・ピエリア(ミリアから山を超えた先)
・モスコホリ(ミリアの隣町)
・オイコス(ケンタウルス達が集う場所)
・アルゴリス(アテネより南に位置する、ヒドラの住まう場所)
・ラリサ(ギリシャ西部中央に位地する巨大交易都市)
・ラミア(スパルタの兵士達がアテネを攻め入る拠点となる街)
・デルポイ(海に面した山岳地帯)
・コリントス海(ヘーラーの呪いが掛けられた入り江状の海)
・スパルタ(ヤニスやマイクが属した勢力)
・アテネ(スパルタの敵対勢力)
・天界(天空の世界)
・冥界(地底の世界)
・禁則の地(天界と繋がる場所)
・イボヴォリ(ケンタウルスの園にそびえる大樹)
・ヒドラ(九つの首を持つ毒蛇)
・パピルス紙(古代に於いて使われた植物性の紙)