表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/95

〜抜け落ちた名前〜

【固定】

始めまして、三軒長屋サンゲンナガヤ 与太郎ヨタロウです。

ゆっくりと物語の中の世界を、楽しんで頂けると幸いです。

後書きに名称一覧がありますので、ご活用下さい。


 「少し話がそれてしまったな。

私としたことが、申し訳ない。

先程のエーレの話を纏めると、おまえが憑依したのは確かに、私の妹であろう。

そして、私の記憶の中にも、薄らと姿を現し始めた。


常に母ガイアのそばにいた妹。

ヘスティアと同じく、いや、それよりも力を持たぬ者。

しかしまだダメだ。

形もぼんやりとしているし、名前は全く浮かんで来ない。


おまえの夢の中で、ガイアが言っていた“皆に隠している力”のせいなのか……。

しかし、それにしては何かがおかしい。

“何かを体感する”能力と、“皆の記憶から自らを消す”能力とでは、性質が相反している」


女神レアは、真剣な眼差しでエーレを見つめながら考察を深めたが、神といえど容易ならぬ様子であった。


「もうひとつ疑問なのは、なぜ母は記憶の中からケイロンを弾き出し、気付いていながらエーレを残したのかだ……。

道理に照らして伝えるならば、ティーターンの血を引き継ぐケイロンを優先するのが妥当。


しかし、母はあえてエーレだけに、記憶の全てを見せて教えた。

この事実が何を意味しているのか。


それとも単に、エーレを弾き出すことができなかったのか……」


 各々に謎を追求したが、正直、カロスとレナにとっては無理難題であり、エーレも同じくであった。


ただ伝え忘れたことがないかだけを確認し、何度も記憶をなぞった。


ケイロンが重々しく口を開いた。


「わしだけならともかく、女神レアの記憶からも抜け落ちた名前。

記憶というよりは存在が消えていると言って良い。


“名前”とは“存在”であり、また、“存在”とは“名前”だ。

この鍵を握っているのは……」


女神レアは、エーレを見つめる目線をゆっくりとケイロンに移し、紡ぎ出されようとしている仮説に同意した。


「私も同じ者が思い浮かんだ。

久しく忘れていたが、こいつはしっかりと思い出せる。


『名前の神・ネムー』


ティーターンとオリンポスの開戦と共に、姿を消した者。

あれからその姿も名も、完全に忘れていた。

あやつが居るとするならば……」


今度はケイロンが、女神レアの話の語尾を奪い取った。


「“パルナソス”であろう?

コリントス海の北、太陽神の住まう場であり、世界の中心たる聖域・デルポイの山頂。


ネムーは必ずそこに居る。

そして、奇しくも今まさに、エーレの“父”を含めたスパルタの英雄たりえる人間たちと、ケンタウルスのアグノス……さらには、パンがそこへと向かっている。


元々は合流次第、ここへ向かって来るはずであったが、何者かに導かれているようだ。

邪気を感じぬゆえに、見守るに徹していた。


女神レアよ。

この一連の流れが、偶然だと思えるか?」


ただでさえ鋭い女神の眼光は、今や小さな宇宙のように煌めきと深い闇をまとった。


「新時代の太陽神・アポロンか……。

そして、そこへ“ヘルメスの使者”に、地上界で最も私に近しい能力を持ったアグノスが向かっていると……。


もしこ奴らが争うような事があれば、聖域が滅びるだろう。

しかし、そこまで愚かではあるまい。

裏に構える大きな力の意図は判らぬが、浅はかなパンの思考なら簡単に読める。


おそらくアポロンの力を借り、コリントスを渡る気だ。

いや……そう皆を説得し、本当の狙いは“ヘーラーの呪い”か……。

あの憎きカターラの力を、何かに利用しようとしているのであれば、見過ごす訳にはいかん。

が、果たしてこれはヘルメスの意思なのか……」


女神レア、そしてケイロンも遂には黙り込んでしまった。


話に入れてもらえないまま、カロス、レナ、そしてエーレは、なんとなくお互いを見つめ合った。


【固定】

お読み頂きありがとうございました。 

評価やブックマークして頂けますと励みになります。

是非続きもお楽しみ下さい。


登場する名称一覧

 【キャラクター】

・カロス(ケンタウルス)

・エーレ(神の器?)

・ヤニス(エーレの父に返り咲いた男)

・マイク(伝説の英雄)

・レナ(ケンタウルスの女戦士)

・ターレス(ケンタウルスの族長)

・ソフィア(ケンタウルスの少女)

・アグノス(ケンタウルスの若い戦士)

・ルカ(マイクの息子)

・マートル(マイクの妻、ルカを産むと共に死去)

・ネオ(若い狩人)

・ミト(老いた狩人)

・ケイロン(ケンタウルスの英雄?)

・レア(大地の女神、レナの師)

・アキレウス(昔の英雄)

・アルカイオス(昔の英雄、後のヘラクレス)

・ヘラクレス(英雄の神、元アルカイオス)

・ネッソス(レナの父)

・アイネ(レナの母)

・ヘルメス(天界の死神)

・ヘルメスの使者(元ニンフの魂)

・タナトス(冥界の死神)

・ヒュプノス(タナトスの双子の弟、冥界の死神)

・モイラ(タナトスとヒュプノスの妹、複数の人格を持つ?)

・狭間の獣(タナトスの下僕)

・ニンフ(精霊の総称)

・サテュロス(笛を吹く半人半獣)

・パン(ニンフ殺し、ヘルメスの使い)

・女(ヴィーナス、ルカの意思に語りかける謎の女)

・エコー(山の精霊。カロスに恋をする木霊)

・ヘーラー(ゼウスの妻、天界の母)

・デュシウス(ラミア西門の門番)

・ゼノン(ラミア最高位の兵士、マイクとヤニスの弟子)

・クリストフ(ゼノンのファミリーネームであり、ゼノンの父であるミトの旧友の呼び名)

・老剣士(?)

・ティーターン(天界を支配した原初の一族より選ばれた12の神達)


【場所・他】

・ミリア(エーレが住む山奥の町)

・カテリーニ(マイクが住む海の近くの町)

・パライオ(山の入口の町)

・レアの泉(女神の泉)

・ピエリア(ミリアから山を超えた先)

・モスコホリ(ミリアの隣町)

・ヘスティア(ケンタウルス達が集う場所)

・アルゴリス(アテネより南に位置する、ヒドラの住まう場所)

・ラリサ(ギリシャ西部中央に位地する巨大交易都市)

・ラミア(スパルタの兵士達がアテネを攻め入る拠点となる街)

・デルポイ(海に面した山岳地帯)

・コリントス海(ヘーラーの呪いが掛けられた入り江状の海)

・スパルタ(ヤニスやマイクが属した勢力)

・アテネ(スパルタの敵対勢力)

・天界(天空の世界)

・冥界(地底の世界)

・禁則の地(天界と繋がる場所)

・イボヴォリ(ケンタウルスの園にそびえる大樹)

・ヒドラ(九つの首を持つ毒蛇)

・パピルス紙(古代に於いて使われた植物性の紙)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ