〜暖炉の女神〜
【固定】
始めまして、三軒長屋 与太郎です。
ゆっくりと物語の中の世界を、楽しんで頂けると幸いです。
後書きに名称一覧がありますので、ご活用下さい。
「夢の中で私は、誰かに憑依しているみたいだった……。
でも、乗っ取るとかそんな感じじゃなくって、その人の中にスッポリと収まってるような、不思議な感覚だった。
その人が考えている事や感じている事が、そのまま自分の意思であるかのように感じられたの。
それで、そんな私の頭上から、話しかけてくる声があって、その声に向かって私は“お母様”と言っていたわ」
ケイロンが付け加えた。
「わしも最初の一瞬は覗くことが出来た。
場所はこの神殿で間違いない。
そして、“お母様”の正体は、ガイアで間違いないであろう。
あのような異質なマギアの気配、それ以外は考えられん。
しかし、わしはすぐに追い出された。
遠い昔の記憶のはずなのに、ガイアはすぐに、わしの存在に気が付き、息を吹きかけられると同時に、エーレの記憶からも追い出された。
ハッキリ言って次元が違い過ぎる。
過去の記憶が、未来の実態に気付くなど、時間の摂理を完全に無視している。
それに、彼女はきっと……」
「そうなんです。
私にも気付いていました」
エーレが応えた。
「最後まで話し終えた時に言われたんです……“遠き未来から覗いている、まだ見ぬそなたへ”って……」
これには女神レアも納得した。
「確かに、それは我が母であるガイアで間違いないであろう。
しかし、そうであれば、エーレはいったい誰に憑依していたのか……ガイアと交わした言葉を、詳しく教えてくれるか?」
エーレは快く、夢の中での会話を皆に教えた。
ガイアが“あの子”と呼ぶ誰かを助けたがっていること。
“あの子”とは、女神レアの娘であること。
そして、エーレが憑依した者は、女神レアの妹であり、皆に隠している唯一無二の力を持っており、その力で何かを“体感した”と言われていたこと……。
「ヘスティアか……」
エーレの話を聞き終わると同時に、女神レアはひとつの名前を口走った。
「間違いない。
“あの子”とはヘスティアのことだ。
誰よりも優しく、謙虚であり、慈愛に満ち、そして、何の力も持っていなかった。
しかしあの子には、マギアとは別の特異な能力があった。
それが……絆であり、其々を繋ぎとめる力だった。
家族の中心に暖炉があるように、皆自然とヘスティアの周りに集まった。
あの子は常に、皆と皆の中心にいた。
そして……」
女神レアは、今までに見せたことのない落胆の表情を浮かべた。
視線は宙を彷徨い、何かを喋ろうと開いた口は、そのまま暫し停止した。
女神から溢れ出す悲しみと後悔の念が、信じられないほどに場の空気を重くし、エーレは押し潰されそうであった。
「オリンポスとの争いが始まり、あの時もヘスティアは、皆を繋げようと必死であった。
我らティーターンと、ゼウス率いるオリンポスの間で、ずっと停戦を叫び続けた。
しかし、我らティーターンの殆どは、そんな彼女の言葉に耳を貸さなかった。
それどころか、ハッキリと味方であるという意思を示さないヘスティアを訝しがり、嫌悪する者たちもいた。
母ガイア、我が兄妹たちティーターン、我が子供たちオリンポス。
どの味方をするでもなく、私は争いから目を背けてしまった。
そんな中でも、ヘスティアは皆の中心に立ち続けた。
全ての神から嫌われようとも……」
女神レアは“あの子”についてひと通り語ると、気持ちを切り替えるように顔を上げて皆を見つめた。
【固定】
お読み頂きありがとうございました。
評価やブックマークして頂けますと励みになります。
是非続きもお楽しみ下さい。
登場する名称一覧
【キャラクター】
・カロス(ケンタウルス)
・エーレ(神の器?)
・ヤニス(エーレの父に返り咲いた男)
・マイク(伝説の英雄)
・レナ(ケンタウルスの女戦士)
・ターレス(ケンタウルスの族長)
・ソフィア(ケンタウルスの少女)
・アグノス(ケンタウルスの若い戦士)
・ルカ(マイクの息子)
・マートル(マイクの妻、ルカを産むと共に死去)
・ネオ(若い狩人)
・ミト(老いた狩人)
・ケイロン(ケンタウルスの英雄?)
・レア(大地の女神、レナの師)
・アキレウス(昔の英雄)
・アルカイオス(昔の英雄、後のヘラクレス)
・ヘラクレス(英雄の神、元アルカイオス)
・ネッソス(レナの父)
・アイネ(レナの母)
・ヘルメス(天界の死神)
・ヘルメスの使者(元ニンフの魂)
・タナトス(冥界の死神)
・ヒュプノス(タナトスの双子の弟、冥界の死神)
・モイラ(タナトスとヒュプノスの妹、複数の人格を持つ?)
・狭間の獣(タナトスの下僕)
・ニンフ(精霊の総称)
・サテュロス(笛を吹く半人半獣)
・パン(ニンフ殺し、ヘルメスの使い)
・女(ヴィーナス、ルカの意思に語りかける謎の女)
・エコー(山の精霊。カロスに恋をする木霊)
・ヘーラー(ゼウスの妻、天界の母)
・デュシウス(ラミア西門の門番)
・ゼノン(ラミア最高位の兵士、マイクとヤニスの弟子)
・クリストフ(ゼノンのファミリーネームであり、ゼノンの父であるミトの旧友の呼び名)
・老剣士(?)
・ティーターン(天界を支配した原初の一族より選ばれた12の神達)
【場所・他】
・ミリア(エーレが住む山奥の町)
・カテリーニ(マイクが住む海の近くの町)
・パライオ(山の入口の町)
・レアの泉(女神の泉)
・ピエリア(ミリアから山を超えた先)
・モスコホリ(ミリアの隣町)
・ヘスティア(ケンタウルス達が集う場所)
・アルゴリス(アテネより南に位置する、ヒドラの住まう場所)
・ラリサ(ギリシャ西部中央に位地する巨大交易都市)
・ラミア(スパルタの兵士達がアテネを攻め入る拠点となる街)
・デルポイ(海に面した山岳地帯)
・コリントス海(ヘーラーの呪いが掛けられた入り江状の海)
・スパルタ(ヤニスやマイクが属した勢力)
・アテネ(スパルタの敵対勢力)
・天界(天空の世界)
・冥界(地底の世界)
・禁則の地(天界と繋がる場所)
・イボヴォリ(ケンタウルスの園にそびえる大樹)
・ヒドラ(九つの首を持つ毒蛇)
・パピルス紙(古代に於いて使われた植物性の紙)