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〜家族の形〜

【固定】

始めまして、三軒長屋サンゲンナガヤ 与太郎ヨタロウです。

ゆっくりと物語の中の世界を、楽しんで頂けると幸いです。

後書きに名称一覧がありますので、ご活用下さい。


 重たい空気を払い除け、レナが話の舵を先へと向けて漕ぎ始めた。


「確かに……今まで集めてきた情報が一致するわ」


皆ゆっくりとレナを見つめ、言葉の続きを待った。


「ターレス様から伝え聞かされた貴方の言葉が“予知の出来ない穴”。

それをターレス様は神の仕業であると考え、その神が、貴方に予知の力を授けた者か、予言を司る神のどちらかであり、“何らかの理由でその正体を隠している”と言っていた。


そして、女神レアもまた、確かに実在したはずの神を思い出すことが出来ず、“私の記憶にスッポリと穴が空いているようだ”と言っていた。

奇しくもその時レアが話していた事は、“予知と予言”についてだった……。


そして何より、エーレの力の片鱗もまた、“予知と予言”に深く関わりがありそうなのであれば、記憶から消された神とは……預言を司る神なんじゃないかしら。


貴方の師匠は違うの?」


 ケイロンはレナの話の輪郭を削ぎ、整え始めた。


「少し訂正しよう……。

私に予知の力の芽を授けてくれたとするならば、それは“父”であるアポロンと、“母”であるアルテミスである。


アポロンは確かに予言に近しき予知の力を持っているが、彼を表すならば自由気ままな旅人であり、決して予知や予言を“司る”神ではない。

そしてアルテミスが私に授けてくれたのは、弓や狩猟、獣たちや大地との交友、そして大いなる愛だ。


それに、二人とは今もしっかりと意識の共有が出来ている。

私の頭の中から二人の記憶が消失した事などあるはずもない。


無論、心からもだ」


 話を進めるにつれて、ケイロンの語気は次第に強く、荒々しくなった。


自らに深い愛情を注いでくれた二柱を疑われたことへの、揺るぎない尊敬と敬愛ゆえの怒りに思えた。


しかしケイロンは、優しくレナを見つめて続けた。


「だが話の輪郭は実に素晴らしい。

我々が探している真実の形は、間違いなく“予言を司る神”であろう。

しかし、それはつい先ほど歩いた“我々の記憶の穴の崖っぷち”だ。


私の中にそんな神は存在しないし、まして未来とは、神ですらも触れてはならぬ禁忌の領域だ。

如何に全宇宙の神であろうと、その禁忌に触れてただで済むわけがないのだよ」



 レナが真実へと漕ぎ進めた船は、力なく陸に打ち返されたが、ここでエーレが、再び船を海へと放つであろう言葉を思い出した。


「そうだわケイロン。

貴方に会えたら呼ぶようにと伝えられていたの」


 ケイロンは眉を顰めて問うた。


「呼ぶ?

いったい何をだ?」


 どうやら賢者ケイロンでも、これは予知していなかったらしい。


 エーレは真っ直ぐにケイロンを見つめて答えた。


「女神レアです」


 その瞬間、エーレの前で勇ましく座る三頭のケンタウルスは、皆露骨に表情を歪め、エーレを強く睨んだ。


(ああ、どうして私の言葉は、いつもこの方たちをこんな顔にさせてしまうのだろう)


 エーレは申し訳なくなり、眉の端を下げたが、今ではそれにも慣れていた。


 自らへと向けられる湿った視線を振り解き、エーレはペガサスの子を見つめて語りかけた。


「まさか……あなたは嫌な顔なんてしないわよね?

お願い出来る?」


 エーレの言葉にペガサスの子は小さく頷く素振りを見せると、エコーの時と同様に、前脚を高く上げて嘶いた。


 歓喜にも似たペガサスの清く澄んだ嘶きに、ケンタウルスたちは同時に溜息を漏らした。


【固定】

お読み頂きありがとうございました。 

評価やブックマークして頂けますと励みになります。

是非続きもお楽しみ下さい。


登場する名称一覧

 【キャラクター】

・カロス(ケンタウルス)

・エーレ(神の器?)

・ヤニス(エーレの父に返り咲いた男)

・マイク(伝説の英雄)

・レナ(ケンタウルスの女戦士)

・ターレス(ケンタウルスの族長)

・ソフィア(ケンタウルスの少女)

・アグノス(ケンタウルスの若い戦士)

・ルカ(マイクの息子)

・マートル(マイクの妻、ルカを産むと共に死去)

・ネオ(若い狩人)

・ミト(老いた狩人)

・ケイロン(ケンタウルスの英雄?)

・レア(大地の女神、レナの師)

・アキレウス(昔の英雄)

・アルカイオス(昔の英雄、後のヘラクレス)

・ヘラクレス(英雄の神、元アルカイオス)

・ネッソス(レナの父)

・アイネ(レナの母)

・ヘルメス(天界の死神)

・ヘルメスの使者(元ニンフの魂)

・タナトス(冥界の死神)

・ヒュプノス(タナトスの双子の弟、冥界の死神)

・モイラ(タナトスとヒュプノスの妹、複数の人格を持つ?)

・狭間の獣(タナトスの下僕)

・ニンフ(精霊の総称)

・サテュロス(笛を吹く半人半獣)

・パン(ニンフ殺し、ヘルメスの使い)

・女(ヴィーナス、ルカの意思に語りかける謎の女)

・エコー(山の精霊。カロスに恋をする木霊)

・ヘーラー(ゼウスの妻、天界の母)

・デュシウス(ラミア西門の門番)

・ゼノン(ラミア最高位の兵士、マイクとヤニスの弟子)

・クリストフ(ゼノンのファミリーネームであり、ゼノンの父であるミトの旧友の呼び名)

・老剣士(?)

・ティーターン(天界を支配した原初の一族より選ばれた12の神達)


【場所・他】

・ミリア(エーレが住む山奥の町)

・カテリーニ(マイクが住む海の近くの町)

・パライオ(山の入口の町)

・レアの泉(女神の泉)

・ピエリア(ミリアから山を超えた先)

・モスコホリ(ミリアの隣町)

・ヘスティア(ケンタウルス達が集う場所)

・アルゴリス(アテネより南に位置する、ヒドラの住まう場所)

・ラリサ(ギリシャ西部中央に位地する巨大交易都市)

・ラミア(スパルタの兵士達がアテネを攻め入る拠点となる街)

・デルポイ(海に面した山岳地帯)

・コリントス海(ヘーラーの呪いが掛けられた入り江状の海)

・スパルタ(ヤニスやマイクが属した勢力)

・アテネ(スパルタの敵対勢力)

・天界(天空の世界)

・冥界(地底の世界)

・禁則の地(天界と繋がる場所)

・イボヴォリ(ケンタウルスの園にそびえる大樹)

・ヒドラ(九つの首を持つ毒蛇)

・パピルス紙(古代に於いて使われた植物性の紙)

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