〜忘れ去られた神〜
ケイロンが語るエーレの正体。
そして物語は最大の謎解きへと向かう。
【固定】
始めまして、三軒長屋 与太郎です。
ゆっくりと物語の中の世界を、楽しんで頂けると幸いです。
後書きに名称一覧がありますので、ご活用下さい。
遂に私の正体が明かされる……。
その事実は、エーレを否応なく強張らせた。
森の女神ですら掴めなかった謎を、叡智を司る賢者ならば易々と見抜いてしまうのだろうか。
その思いはカイルとレナも同じであった。
二人は同時にエーレを見つめ、そして示し合わせたかのように一斉に、ケイロンへと視線を向けた。
賢者はまず三人を宥めるように声を発した。
「そう案ずるな。
すべてを見通したわけではないし、娘の“意味”まではまだ掴めておらん。
だが、その“形”だけは分かった。
エーレとは“ガイアの末裔”にして“女神レアの妹”だ」
一同は耳を疑った。
あまりの唐突さに、賢者に弄ばれているのではとすら感じたほどである。
エーレは今まさに、ケンタウルス族最高の賢者から「お前は神である」と言われたのだ。
「ちょ、ちょっと待って下さいケイロンさん!
そんな、いきなり……」
慌てるカイル。
沈黙を選ぶレナ。
そして、根拠も示されぬ断言に怒りを覚えたエーレが、声を荒げた。
「案ずるなと言ったはずだ。
“形”を捉えただけだとな。
お前自身が天界の神であるとは言っておらん。
だが、おお前がこの地にいる理由に、その神の意思が深く関わっているのは、疑いようもない」
言葉の意図を掴もうと、一同は息を呑む。
やがてレナが冷静を装い、問いを投げかけた。
「神の正体が分かれば、エーレの持つ力や、その意味も明らかになる……。
では、その神とはいったい誰なのですか?」
ケイロンは深く息を吐き、肩を落とした。
「それこそが最大の謎なのだ、レナ。
分からぬのでも、忘れたのでもない。
わしの中には……いや、この世界のどこにも――原初の神ガイアの娘であり、大地の女神レアの妹である—―その神の記憶が“存在しない”のだ」
どうやら考えることすら無意味だった。
賢者とは、誰も知らぬことを知る存在である。
その賢者が知らぬというのなら、それを知る道理は他にない。
ケイロンは重く続けた。
「エーレが狭間の獣に追われたのは、まだ眠る力を秘めているからだ。
その力は、天界、冥界、そして我らケンタウルスの未来に深く関わるであろう。
これは、予知できていたのだが……。
わし自身、違和感には気づいていた。
記憶が欠けたのではない。
何者かが奪い去ったのだ……と。
頭の中からだけでなく、文献からも、そして心からも……。
いや、この世界そのものから抉り取られている。
事実、お前たちの瞳の中にも、その神は映っておらなんだ。
だからこそ分からぬのだ。
これはわしが足掻いてどうにかできるものではない。
まさしく神の力だ……」
賢者は目を伏せ、かすかに笑った。
「エーレよ。
お前の瞳の記憶を覗くことが、わしの最後の望みだった。
だが、それすらも叶わなかった。
お前が皆に語らなかった夢。
その優しさゆえに、カロスとレナに告げなかった夢。
そこから確信した。
この娘は“かの”ティーターン族と深く結びついている……と。
だが其処までだ。
わしは夢を覗いておる最中、ガイアの風に吹かれ、記憶の世界から弾き出された。
残るは……欠片を奪い去った本人が、いつか親切にも返してくれるのを待つしかあるまい」
賢者の声が途絶え、草原の静寂が戻る。
恐れながらも待ち望んでいた真実は、またしてもエーレの手をすり抜けた。
それはまるで、神話そのものが彼女に試練を課しているかのようであった。
ギリシャ神話の中に記憶を司る女神がいるなぁ。
そいつなのかなぁ。
レアの兄妹多いからなぁ。
はてさて。
因みにティーターンてのは、天界を最初に支配したとされる神々で、ウラノスとガイアの子供達の中から選ばれた12柱だよ。
このティーターンを倒して天界を支配したのが、皆が良く知るゼウスを筆頭としたオリンポスの神々だよ。
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登場する名称一覧
【キャラクター】
・カロス(ケンタウルス)
・エーレ(神の器?)
・ヤニス(エーレの父に返り咲いた男)
・マイク(伝説の英雄)
・レナ(ケンタウルスの女戦士)
・ターレス(ケンタウルスの族長)
・ソフィア(ケンタウルスの少女)
・アグノス(ケンタウルスの若い戦士)
・ルカ(マイクの息子)
・マートル(マイクの妻、ルカを産むと共に死去)
・ネオ(若い狩人)
・ミト(老いた狩人)
・ケイロン(ケンタウルスの英雄?)
・レア(大地の女神、レナの師)
・アキレウス(昔の英雄)
・アルカイオス(昔の英雄、後のヘラクレス)
・ヘラクレス(英雄の神、元アルカイオス)
・ネッソス(レナの父)
・アイネ(レナの母)
・ヘルメス(天界の死神)
・ヘルメスの使者(元ニンフの魂)
・タナトス(冥界の死神)
・ヒュプノス(タナトスの双子の弟、冥界の死神)
・モイラ(タナトスとヒュプノスの妹、複数の人格を持つ?)
・狭間の獣(タナトスの下僕)
・ニンフ(精霊の総称)
・サテュロス(笛を吹く半人半獣)
・パン(ニンフ殺し、ヘルメスの使い)
・女(ヴィーナス、ルカの意思に語りかける謎の女)
・エコー(山の精霊。カロスに恋をする木霊)
・ヘーラー(ゼウスの妻、天界の母)
・デュシウス(ラミア西門の門番)
・ゼノン(ラミア最高位の兵士、マイクとヤニスの弟子)
・クリストフ(ゼノンのファミリーネームであり、ゼノンの父であるミトの旧友の呼び名)
・老剣士(?)
・ティーターン(天界を支配した原初の神達)
【場所・他】
・ミリア(エーレが住む山奥の町)
・カテリーニ(マイクが住む海の近くの町)
・パライオ(山の入口の町)
・レアの泉(女神の泉)
・ピエリア(ミリアから山を超えた先)
・モスコホリ(ミリアの隣町)
・ヘスティア(ケンタウルス達が集う場所)
・アルゴリス(アテネより南に位置する、ヒドラの住まう場所)
・ラリサ(ギリシャ西部中央に位地する巨大交易都市)
・ラミア(スパルタの兵士達がアテネを攻め入る拠点となる街)
・デルポイ(海に面した山岳地帯)
・コリントス海(ヘーラーの呪いが掛けられた入り江状の海)
・スパルタ(ヤニスやマイクが属した勢力)
・アテネ(スパルタの敵対勢力)
・天界(天空の世界)
・冥界(地底の世界)
・禁則の地(天界と繋がる場所)
・イボヴォリ(ケンタウルスの園にそびえる大樹)
・ヒドラ(九つの首を持つ毒蛇)
・パピルス紙(古代に於いて使われた植物性の紙)