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〜暗闇に包まれて〜

 遂にケイロンの住むピエリアの洞窟へと辿り着いたエーレ達。

洞窟の中には、得も言えない恐怖が待っていた。


【固定】

始めまして、三軒長屋サンゲンナガヤ 与太郎ヨタロウです。

ゆっくりと物語の中の世界を、楽しんで頂けると幸いです。

後書きに名称一覧がありますので、ご活用下さい。


 エーレたちはひたすらに、森の中を駆けた。


夕刻が近付くにつれ、森の静けさは増し、草木の擦れる音と、それぞれの吐息だけが響いていた。


ペガサスの子の首にしがみつき、エーレは後ろへと流れてゆく地面を、ただただ見つめ続けていた。


 「着いたぞ」


カイルの言葉にエーレが首を持ち上げると、壮大な夕陽が、カイルの見事な身体を縁取っていた。


エーレは転げ落ちるようにペガサスの背中から降りると、カイルの足元に現れた断崖絶壁を、恐る恐る覗き込んだ。


見ると、確かに崖の中腹に、小さな洞穴の入口があった。


それはエーレの予想と大いに反するもので、かの賢者が住まう洞窟のオーラはなく、熊が冬眠に使いそうな見窄らしい単なる空洞に見えた。


崖の肌を伝う細い道を慎重に降り、目と鼻の先まで近付いても、その印象は変わるどころか、より一層ただの穴が口を広げているだけだった。


(こんな所に……ケンタウルスの賢者が?)


エーレは口から溢れ出そうになった言葉を、慌てて呑み込んだ。


“私はただ、ケイロンをピエリアの洞窟へと追いやった、人類を恨んでいるのだよ”


出逢って間もない時に、カロスが父と自分に向けた言葉を思い出したからであった。


その雰囲気を察して、カロスはエーレに言葉を投げた。


「安心しなさい。

今に分かるから……」


エーレは不安げに、洞窟の入口を見つめ直した。


ふと、レナの眼光がいつにも増して鋭いのを感じたが、エーレにはその意味は分からず、“賢者との対面は、レナを持ってしても緊張するのだ”と、逆に安心していた。


洞窟の入口は歪な形をしており、カロスは大きな身体を折り曲げて中へと入って行った。


「落ち着いて……私の後を追って、ただ奥へと進むんだ。

何が起きてもただ奥へ」


そう言い残すと、カロスは洞窟の暗闇へと消えて行った。


「私たちも行くよ」


カロスの後をレナが追い、その姿もまたすぐに、洞窟の暗闇へと消えた。


得体の知れない洞窟の中をじっと見つめ、たじろぐエーレに、ペガサスの子は首を下げ、語りかけるかの如く、額をそっと頬に寄せ、励ますように温もりを伝えた。


(そうだ……私はひとりじゃない)


ペガサスの力強い体温に感化され、エーレはペガサスの鬣を優しく握りながら、洞窟の中へと歩を進めた。


エーレがほんの数歩進むと、洞窟は深淵へと変わった。


そんなわけが無かった。


つい今しがたまで、確かにエーレは自らの背中に夕陽の温もりを感じていたからだ。


それが今は感じられず、そのかすかな陽さえ消え失せた。


この一歩で?


エーレは慌てて後ろを振り返った。


嫌な予感は的中し、エーレの後ろに先程まであったはずの洞窟の入口は消え去っていた。


驚く事に、先程まで握っていたペガサスの鬣も消え、そのまま虚空に手を伸ばしても、其処にもペガサスは居なかった。


 今まで触れたことのない、底知れぬ孤独だった。


エーレはどうしようもないほどの恐怖に包まれた。


狭いはずの洞窟の壁や天井の気配も感じない。


地面に立っている実感すら無い。


今は夕刻、以前まであんなにも恐れていた森の夜。


その奥地の洞窟でこの有り様だ。


(私は……いつからだろうか。

森やケンタウルスが当たり前に味方だと思い込んでいた。


夜の森は人を惑わす。

巧みに奥地へと誘い込み、舐めるように心を溶かし、じわじわと喰らう。


今のこの状況こそ、父や人々から何度も教え聞かされてきた“夜の森の恐怖”そのものではないか……。


ああ……そうか。

最初から、すべて幻だったのだ。


父と森へ迷い込み、それからずっと、私は惑わされ続けている。

だって、その方がよっぽど合点がいくもの。


二頭のケンタウルス。

女神の形をした泉の水。

空想にも浮かび得ぬ神の存在。


よもや自分が父に枷られた罰であり、神々に狙われる存在であるなど……なんと傲慢な幻想だったことか。


私はただの……。


ただの、森に迷い込んだ娘……)


あらゆる事に疑念を抱き、恐怖に呑み込まれつつあるその時、エーレの耳にあの声が響いた。


「恐れるな」


声はいつもより近く感じた……。


エーレは知らず知らずのうちに、グッと強く瞑っていた瞼をそっと開けた。


先程まで暗闇しかなかったエーレの前には、黄金色に輝く草原が広がり、その奥に三体のケンタウルスが立っていた。


エーレは天国を連想した。


 次回遂にケイロン登場。

神に等しきケンタウルスの賢者。

その実態や如何に。


【固定】

お読み頂きありがとうございました。 

評価やブックマークして頂けますと励みになります。

是非続きもお楽しみ下さい。


登場する名称一覧

 【キャラクター】

・カロス(ケンタウルス)

・エーレ(神の器?)

・ヤニス(エーレの父に返り咲いた男)

・マイク(伝説の英雄)

・レナ(ケンタウルスの女戦士)

・ターレス(ケンタウルスの族長)

・ソフィア(ケンタウルスの少女)

・アグノス(ケンタウルスの若い戦士)

・ルカ(マイクの息子)

・マートル(マイクの妻、ルカを産むと共に死去)

・ネオ(若い狩人)

・ミト(老いた狩人)

・ケイロン(ケンタウルスの英雄?)

・レア(大地の女神、レナの師)

・アキレウス(昔の英雄)

・アルカイオス(昔の英雄、後のヘラクレス)

・ヘラクレス(英雄の神、元アルカイオス)

・ネッソス(レナの父)

・アイネ(レナの母)

・ヘルメス(天界の死神)

・ヘルメスの使者(元ニンフの魂)

・タナトス(冥界の死神)

・ヒュプノス(タナトスの双子の弟、冥界の死神)

・モイラ(タナトスとヒュプノスの妹、複数の人格を持つ?)

・狭間の獣(タナトスの下僕)

・ニンフ(精霊の総称)

・サテュロス(笛を吹く半人半獣)

・パン(ニンフ殺し、ヘルメスの使い)

・女(ヴィーナス、ルカの意思に語りかける謎の女)

・エコー(山の精霊。カロスに恋をする木霊)

・ヘーラー(ゼウスの妻、天界の母)

・デュシウス(ラミア西門の門番)

・ゼノン(ラミア最高位の兵士、マイクとヤニスの弟子)

・クリストフ(ゼノンのファミリーネームであり、ゼノンの父であるミトの旧友の呼び名)

・老剣士(?)


【場所・他】

・ミリア(エーレが住む山奥の町)

・カテリーニ(マイクが住む海の近くの町)

・パライオ(山の入口の町)

・レアの泉(女神の泉)

・ピエリア(ミリアから山を超えた先)

・モスコホリ(ミリアの隣町)

・ヘスティア(ケンタウルス達が集う場所)

・アルゴリス(アテネより南に位置する、ヒドラの住まう場所)

・ラリサ(ギリシャ西部中央に位地する巨大交易都市)

・ラミア(スパルタの兵士達がアテネを攻め入る拠点となる街)

・デルポイ(海に面した山岳地帯)

・コリントス海(ヘーラーの呪いが掛けられた入り江状の海)

・スパルタ(ヤニスやマイクが属した勢力)

・アテネ(スパルタの敵対勢力)

・天界(天空の世界)

・冥界(地底の世界)

・禁則の地(天界と繋がる場所)

・イボヴォリ(ケンタウルスの園にそびえる大樹)

・ヒドラ(九つの首を持つ毒蛇)

・パピルス紙(古代に於いて使われた植物性の紙)

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