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〜夢の中で〜 その2

 エーレは再度夢を見た。

まだ知らぬ過去の夢を。


【固定】

始めまして、三軒長屋サンゲンナガヤ 与太郎ヨタロウです。

ゆっくりと物語の中の世界を、楽しんで頂けると幸いです。

後書きに名称一覧がありますので、ご活用下さい。


 〜エーレは、不思議でありながらもどこか懐かしい空間に立っていた。


あてもなく四方へと広がる広大な神殿。


見上げれば口が開くほどに高くそびえる柱が、悠然と規則正しく並び立ち、何処からともなく差し込む光が柱を柔らかく包み込んでいた。


その光は、ただの輝きではなかった。


柱と柱の間から溢れる光の筋は、微塵の狂いもなく一直線に延び、幾重にも交差して、果てしない神殿の床に聖なる道を描き出していた。


エーレが今までに見たどの光よりも異質で、それは圧倒的な“存在”として彼女の感覚を満たした。


 呆然と立ち尽くすエーレの頭上から、声が降り注いだ。


「我が娘よ……。

そなたはオリンポスへと向かうのです。

天界に、我らの意思を残すのです」


「しかし……お母様……」


続く言葉は、咄嗟にエーレの口からこぼれた。


一瞬、その発した声に自ら驚き、心の奥で抗おうとしたが、すぐに今、自分は何者かの身体に憑依しているのだと気づいた。


きっとこれは、自分にとって重大な瞬間であると理解した。


そう悟ったエーレは、呼吸を整え、その身を流れに委ねた。


頭上から、威圧するような眼差しの気配が一瞬降り注いだ。


しかし、それはやがて引き、温かな風が神殿を包んだ。


「しかしお母様。

私はあのような不届き者たちのもとへは参りたくありません。

臆病で愚かな父ならまだしも、偉大なるお母様の神殿を攻め入るような、驕り高く野蛮な者たちなど」


エーレは憑依している者の胸の奥から、深い悲嘆と涙が溢れ出すのを感じ、胸が締めつけられた。


「愛しき娘よ。

そなたは我が子の中でも、最も優しく慈愛に満ちている。

その愛を、どうか“あの子”に注いでおやりなさい。


あの子は今、一人で戦おうとしている。

そなたに近しいほどに優しいがゆえに、自らを犠牲にしようとしているのです。

けれど、あの子にはその力がない。

我らのために、無駄な犠牲となってほしくはないのです」


「またお母様は、あの娘を……。

あのような醜い弟の子を……」


その瞬間、神殿を優しい風が強く吹き抜けた。


「優しき娘よ。

そなたにそのような言葉は似合いません。

それに、一番辛い思いをしているのは、あの子の母……即ち、そなたの姉です。


あれほど強く勇敢だった子が、自らの罪の意識で、今や光を失おうとしている」


「お姉様のことは……確かに心配です……。

分かりました。

出来うる限りのことはやってみます。


ですが、あの娘と同じく、私も力を持ちません。

いったい何をすれば良いのですか?」


頭上の声の主は、吐息と共に柔らかく微笑んだ気配を放った。


「母たる私に、隠し事は許されませんよ、愛しく罪深き娘よ。

そなたは既に“見た”のでしょう?

いや、正しくは“体感した”と言うべきか。


いずれにせよ、そなたが皆に隠しているその力は、数多の神々の中でも唯一無二。

それを恐れず受け入れたとき、真のマギアが解き放たれるでしょう。


私は大地へと降り、その時を待ちます。

幾千、幾万年でも地に根を張り、我が愛しき子らに祈りを捧げましょう」


そして、声はやさしく結んだ。


「愛しき娘と……遠き未来から覗いている、まだ見ぬそなたへ」


エーレは驚きのあまり、憑依に従うことを忘れ、思わず振り返ってその声の主を探した。


しかし、微笑みの残像だけを残し、景色は波紋のように揺らぎ、うつつからの声が耳を打った。


 「エーレ……エーレってば!」


目を開くと、鬱蒼と茂る木々の葉の合間から透きとおる青空が覗き、その中央にレナの顔があった。


「貴女、大丈夫?

眠りながらずっと震えていたわよ?」


エーレは夢の内容を胸の奥にしまい込み、平然を装った。


「大丈夫です、レナさん。

すみません……こんな時に、よっぽど熟睡してしまったみたいで」


そそくさと支度を急ぐエーレを、レナは訝しげに見つめる。


(この夢は……レナさんやカイルを不安にさせてしまうかもしれない)


動揺は隠しきれなかったが、それでも必死に笑みを保った。


そこへ、カイルの声が響く。


「とにかく、まずはケイロンだ。

間もなく着く。

ここからは少し飛ばすぞ!」


カイルの言葉でレナの疑念は霧散し、エーレはペガサスの子に頬を寄せ、強く目を閉じてその背中にしがみついた。


 もうすぐケイロン登場。

エーレの中に眠る新真実が、花開く時も近い。

と、願いたい。

これ以上深く潜りたくない。

お願い全部教えてケイロン。


【固定】

お読み頂きありがとうございました。 

評価やブックマークして頂けますと励みになります。

是非続きもお楽しみ下さい。


登場する名称一覧

 【キャラクター】

・カロス(ケンタウルス)

・エーレ(神の器?)

・ヤニス(エーレの父に返り咲いた男)

・マイク(伝説の英雄)

・レナ(ケンタウルスの女戦士)

・ターレス(ケンタウルスの族長)

・ソフィア(ケンタウルスの少女)

・アグノス(ケンタウルスの若い戦士)

・ルカ(マイクの息子)

・マートル(マイクの妻、ルカを産むと共に死去)

・ネオ(若い狩人)

・ミト(老いた狩人)

・ケイロン(ケンタウルスの英雄?)

・レア(大地の女神、レナの師)

・アキレウス(昔の英雄)

・アルカイオス(昔の英雄、後のヘラクレス)

・ヘラクレス(英雄の神、元アルカイオス)

・ネッソス(レナの父)

・アイネ(レナの母)

・ヘルメス(天界の死神)

・ヘルメスの使者(元ニンフの魂)

・タナトス(冥界の死神)

・ヒュプノス(タナトスの双子の弟、冥界の死神)

・モイラ(タナトスとヒュプノスの妹、複数の人格を持つ?)

・狭間の獣(タナトスの下僕)

・ニンフ(精霊の総称)

・サテュロス(笛を吹く半人半獣)

・パン(ニンフ殺し、ヘルメスの使い)

・女(ヴィーナス、ルカの意思に語りかける謎の女)

・エコー(山の精霊。カロスに恋をする木霊)

・ヘーラー(ゼウスの妻、天界の母)

・デュシウス(ラミア西門の門番)

・ゼノン(ラミア最高位の兵士、マイクとヤニスの弟子)

・クリストフ(ゼノンのファミリーネームであり、ゼノンの父であるミトの旧友の呼び名)

・老剣士(?)


【場所・他】

・ミリア(エーレが住む山奥の町)

・カテリーニ(マイクが住む海の近くの町)

・パライオ(山の入口の町)

・レアの泉(女神の泉)

・ピエリア(ミリアから山を超えた先)

・モスコホリ(ミリアの隣町)

・ヘスティア(ケンタウルス達が集う場所)

・アルゴリス(アテネより南に位置する、ヒドラの住まう場所)

・ラリサ(ギリシャ西部中央に位地する巨大交易都市)

・ラミア(スパルタの兵士達がアテネを攻め入る拠点となる街)

・デルポイ(海に面した山岳地帯)

・コリントス海(ヘーラーの呪いが掛けられた入り江状の海)

・スパルタ(ヤニスやマイクが属した勢力)

・アテネ(スパルタの敵対勢力)

・天界(天空の世界)

・冥界(地底の世界)

・禁則の地(天界と繋がる場所)

・イボヴォリ(ケンタウルスの園にそびえる大樹)

・ヒドラ(九つの首を持つ毒蛇)

・パピルス紙(古代に於いて使われた植物性の紙)

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