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〜夢の中で〜

 エーレにも忍び寄る不穏な影。

平凡な娘の身に、いったい何が起きているのか…。


【固定】

始めまして、三軒長屋サンゲンナガヤ 与太郎ヨタロウです。

ゆっくりと物語の中の世界を、楽しんで頂けると幸いです。

後書きに名称一覧がありますので、ご活用下さい。

 〜エーレは静かな森の中に立っていた。


 霧が薄く漂い、冷たく湿った空気が頬を撫でる。見渡す限りに木々がそびえ、風に揺れる葉音が遠くから微かに聞こえるだけだった。


 しばらく呆然と立ち尽くしていたエーレは、やがて一歩を踏み出し、ゆっくりと歩き始めた。足元の落ち葉が柔らかく、軽やかな音を立てる。


 少し進むと、森は急に開け、目の前に小さな湖が広がった。風に揺れる水面は陽光を反射し、無数の銀の光が煌めいている。湖の対岸には一本の大樹がそびえ、その根元には苔むした石造りの小さな神殿が佇んでいた。


 エーレは何を思うでもなく、その神殿へと向かって歩き出した。心は穏やかで、清らかさに満ちている。まるで、かつてここを訪れたことがあるような、懐かしさすら感じた。


 湖畔に沿って進むうち、耳ではなく心の奥に声が響き始めた。言葉にならない囁き。それは確かに“声”であるが、エーレには理解できない言語だった。


 − それでも分かる。二つの存在が何かを言い争っている −


 突如、胸に不安が湧き上がった。清らかだった心地は薄れ、空気が重く、冷たく感じられる。エーレは自然と足を速めた。


 「急ぎなさい」


 今度ははっきりとした声が耳に届いた。その声に背を押されるように、エーレは神殿へ向かって一気に駆け出した。だが、不安は次第に強まり、やがて明確な“気配”となって背後から迫る。


 反射的に振り返ると、木々の隙間から無数の黒い影が這い出してきた。実体の無い“影”たちが、波のように押し寄せてくる。冷たい空気が一層冷え、恐怖がエーレの体を凍りつかせた。


 足が重く、力が抜けていく。神殿まではあと少し。だが、遂に膝が崩れ、地面に倒れ込んだ。


 影は瞬く間にエーレを取り囲んだ。無数の影が纏わりつき、その存在は恐怖、絶望、死の気配そのものであり、エーレの身体は否応なく小刻みに震えた。


 次の瞬間、ふと視界が広がった。まるで魂が身体を離れ、空から自分を見下ろしているかのようだった。自身を包む無数の影、さらに森の奥から次々と湧き出る影たちが見えた。束の間の間だが、時間は恐ろしく速度を緩め、エーレはただぼんやりと眼下の光景を眺めていた。


 「恐れるな」


 再び声が響き、エーレは魂が身体に引き戻される感覚を味わった。視界には湿った地面、冷たい大地。


 (もう動けない)

 

 そう思った時、蹄の音が地面を蹴る音が響いた。力強く、疾走する音。エーレの背後で、何かが影たちに突撃している。


 無数の気配は次々と薄れ、やがて完全に消え去った。恐怖は安堵へと変わり、清らかさへと昇華した。


 風が湖面を撫で、再びの静寂が森を包んだ。エーレはそっと地面に倒れ込み、頬に冷たい大地の感触を感じながら、深い安らぎに包まれた〜



 その時、今度は聞き慣れた声がエーレに語りかけた。


「起きなさい、エーレ」


 エーレはベッドの上で瞼を開けた。薄明かりが差し込む部屋、見覚えのある天井。父ヤニスの声がすぐ傍で響く。


「早く準備しなさい。急いでミリアに帰るぞ」


 エーレは虚ろな頭を小突きながら、夢の余韻を振り払うように起き上がり、急いで帰路の準備を進めた。


 ヒント:謎の声の主は年寄りです。


【固定】

お読み頂きありがとうございました。 

評価やブックマークして頂けますと励みになります。

是非続きもお楽しみ下さい。


登場する名称一覧

 【キャラクター】

・?(ケンタウルス)

・エーレ(平凡な娘)

・ヤニス(エーレの父)

・マイク(伝説の英雄)

・ルカ(マイクの息子)

・サテュロス(笛を吹く半人半獣)

・ネオ(若い狩人)

・ミト(老いた狩人)

・?(梟)

・?(影)

・?(声)


【場所・他】

・ミリア(エーレが住む山奥の町)

・カテリーニ(マイクが住む海の近くの町)

・パライオ(山の入口の町)

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