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〜二つの愛〜

 場面は天界。

ひとつの神童とひとつのカリスマ、其々に向けられる父からの愛。

今天が割れる。


【固定】

始めまして、三軒長屋サンゲンナガヤ 与太郎ヨタロウです。

ゆっくりと物語の中の世界を、楽しんで頂けると幸いです。

後書きに名称一覧がありますので、ご活用下さい。


 地上界より遥か上空。


オリンポスの山頂より更に昇った先に、天界は広がっていた。


遥か彼方へと広がる雲海に、みどりき大地が輝く数知れぬ浮島。


人間たちが見上げる空の上に、こんなにも素晴らしきもうひとつの世界が広がっているとは、まさに神しか知り得ぬことであった。


 とある小さな浮島で、青年は杖を片手に優雅に座っていた。


その姿は実に美しく、筋肉のひとつひとつがくっきりと際立つ肉体の上には、少年の様に清らかな顔が添えられていた。


その表情は少女と見紛うほどで、性別といった原理を凌駕しているように見えた。


そこへ、一人の女が尋ねて来た。


この女も、おおよそ人類の頭では思い浮かべることすら難しいほどに美しかった。


しかし中性的な青年とは違い、この女は実に女神たる艶やかさがあった。


「こんなところに居ましたかヘルメス。

えらく探しましたよ」


女の声は胸奥に響く深き音色で、輪郭は光を帯び、見る者の魂を捉えた。


「やあアテナ姉さん。

僕に会いに来るなんて珍しいじゃないですか。

何か良からぬ事でも企んでいるのですか?」


ヘルメスは自らの杖を愛でながら、実に他人行儀に答えた。


「私を姉と呼ぶなと何度も言っているはずです。

私とお前には、何ら血の繋がりもないのです。


何処ぞの田舎娘から産まれたお前の血と、私に流れる神聖な父の血を同等化するのは、我らがゼウス様への何よりの冒涜であると……」


アテナの言葉は変わりなく穏やかであったが、その目はヘルメスを鋭く睨みつけていた。


アテナはヘルメスを心の底から嫌悪していた。


(なぜこのような者が、私と同等に、ゼウス様の愛寵を受け賜ることが出来るのか。

なぜ我が父ゼウスは、このような危惧すべき存在を、愛おしむのか。


いや、父はこの男を好いているのではない。

この男の持つ“力”に魅せられているだけだ。

所詮父の“使い”でしかない)


これまでもアテナの思考の奥底で、最早数えられぬほどに、繰り返された問答であった。


「僕も何度も言っているはずですよ」


複雑に思慮を巡らせるアテナと違い、ヘルメスは実に単調であった。


「僕は血脈という鎖に興味はない。

貴女が僕より先に産まれた。

だから姉さんさ。

それ以上も以下もない。

ただの“順番”さ」


会話はすれど、ヘルメスは自らを睨みつけるアテナと目を合わさなかった。


「お前の屁理屈など、私の耳には届きません。

それに私は、こんな無駄なやりとりをしに来たわけではないのです」


「効率を重んじる姉さんだ。

それはそうでしょうね」


ヘルメスの言葉は、アテナの心臓を逆撫でしたが、幸いこれに反応するようなか弱さは持ち合わせていなかった。


「お前にも分かるように、単刀直入にお聞きします。

私が“神殿を置く”アテネが、スパルタの軍勢に攻め入られようとしています。

ただの人間の起こし得る力ではない。

裏で糸を引いている不届き者が居るはずなのですが、よもやお前ではないでしょうねヘルメス」


「そんな訳があるはずありません。

それに姉さんは分かっているはず。

僕は地上になんてこれっぽっちも興味がありません。

その証拠に、僕は地上界に神殿を置いていない」


「ええ知っていますとも……

良く知っています。

しかし、冥界のお友達は違うのではないですか?」


「タナトスとヒュプノスのことを言っているのですか?

そうであれば実に姉さんらしくない。

あの根暗な双子が、率先して地上に関与する訳がないじゃないですか」


「“率先して”……そうですね。

お前も、そして冥界の子達も、率先して問題を起こすことはしないでしょう。

だから聞いているのです。

裏で糸を引いている者は誰か?と」


ここで始めて、ヘルメスはアテナの目を見つめた。


「これだから姉さんは。

それを僕から聞き得たとして、何が愉しいのです。

どこに心震えるのです。

姉さんのその保守的で明晰な頭脳が、もったいないとは思いませんか?」


この台詞は、遂にアテナの臨界点を捉えた。


「父の御使いごときが……いつまでものうのうと口が利けると思わないことです。

それと、もう一度私を姉と呼んだ時、お前にはギガース共と同じ運命を辿ってもらいます。


それを踏まえてもう一度……私に楯突こうとしている愚者の正体は誰か?」


アテナの憤怒に、まさか、ヘルメスは笑った。


無限に等しい空に、その声が響き渡った。


「よりにもよってギガースなどと…。

冗談にもなっていませんよ。

かのギガントマキアなど、僕ひとりでも起こせます。


そして貴女はそれを知っているはずだ。

悪い事は言いません。

僕に尋ねる時点で、答えを知っているのと同意。

これが答えですよ“姉さん”」


アテナはさらに怒った。


ヘルメスは杖を翳した。


蒼穹は裂け、されどそこに陽光は差さず。


天の御座に座すべき太陽は、その身空になく……。


 史実としては、アテナは父ゼウスの頭部から産まれました。

そう。

母ではなく、父から産まれたのです。

因みに身籠ったのはヘーラーの前の奥さんですが、とある不吉な予言により、ゼウスはその奥さんを丸呑みしております。

故に父の身体から産まれ、不吉な予言を外す結果となったのです。

ヘルメスは浮気相手の子供ですが、唯一と言っても過言ではありませんが、あらゆる事に天才過ぎるが余り、数々の浮気相手の子供たちの中で、世界一嫉妬深いヘーラーにも気に入られた嘘つきのカリスマです。


【固定】

お読み頂きありがとうございました。 

評価やブックマークして頂けますと励みになります。

是非続きもお楽しみ下さい。


登場する名称一覧

 【キャラクター】

・カロス(ケンタウルス)

・エーレ(神の器?)

・ヤニス(エーレの父に返り咲いた男)

・マイク(伝説の英雄)

・レナ(ケンタウルスの女戦士)

・ターレス(ケンタウルスの族長)

・ソフィア(ケンタウルスの少女)

・アグノス(ケンタウルスの若い戦士)

・ルカ(マイクの息子)

・マートル(マイクの妻、ルカを産むと共に死去)

・ネオ(若い狩人)

・ミト(老いた狩人)

・ケイロン(ケンタウルスの英雄?)

・レア(大地の女神、レナの師)

・アキレウス(昔の英雄)

・アルカイオス(昔の英雄、後のヘラクレス)

・ヘラクレス(英雄の神、元アルカイオス)

・ネッソス(レナの父)

・アイネ(レナの母)

・ヘルメス(天界の死神)

・ヘルメスの使者(元ニンフの魂)

・タナトス(冥界の死神)

・ヒュプノス(タナトスの双子の弟、冥界の死神)

・モイラ(タナトスとヒュプノスの妹、複数の人格を持つ?)

・狭間の獣(タナトスの下僕)

・ニンフ(精霊の総称)

・サテュロス(笛を吹く半人半獣)

・パン(ニンフ殺し、ヘルメスの使い)

・女(ヴィーナス、ルカの意思に語りかける謎の女)

・エコー(山の精霊。カロスに恋をする木霊)

・ヘーラー(ゼウスの妻、天界の母)

・デュシウス(ラミア西門の門番)

・ゼノン(ラミア最高位の兵士、マイクとヤニスの弟子)

・クリストフ(ゼノンのファミリーネームであり、ゼノンの父であるミトの旧友の呼び名)

・老剣士(?)


【場所・他】

・ミリア(エーレが住む山奥の町)

・カテリーニ(マイクが住む海の近くの町)

・パライオ(山の入口の町)

・レアの泉(女神の泉)

・ピエリア(ミリアから山を超えた先)

・モスコホリ(ミリアの隣町)

・ヘスティア(ケンタウルス達が集う場所)

・アルゴリス(アテネより南に位置する、ヒドラの住まう場所)

・ラリサ(ギリシャ西部中央に位地する巨大交易都市)

・ラミア(スパルタの兵士達がアテネを攻め入る拠点となる街)

・デルポイ(海に面した山岳地帯)

・コリントス海(ヘーラーの呪いが掛けられた入り江状の海)

・スパルタ(ヤニスやマイクが属した勢力)

・アテネ(スパルタの敵対勢力)

・天界(天空の世界)

・冥界(地底の世界)

・禁則の地(天界と繋がる場所)

・イボヴォリ(ケンタウルスの園にそびえる大樹)

・ヒドラ(九つの首を持つ毒蛇)

・パピルス紙(古代に於いて使われた植物性の紙)

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