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〜蝙蝠の球〜

 戦士はいざ、修行に入る。


【固定】

始めまして、三軒長屋サンゲンナガヤ 与太郎ヨタロウです。

ゆっくりと物語の中の世界を、楽しんで頂けると幸いです。

後書きに名称一覧がありますので、ご活用下さい。


 ヤニスはまず、自分たちの“現地点”をハッキリさせることに努め、質問をした。


「今しがた受けたお前たちの説明では、俺たちが気絶してしまった理由が納得できない。


俺たちは傷ひとつなく、ただ気を失った。

あれも対策があれば防げるものなのか?

そもそも、俺たちが気絶したのは、いったいどんな理屈だ?」


パンは相変わらずいやらしく笑みを零し続け、アグノスは少し困った表情に変わった。


「出来ればこれ以上、君たちを不安にさせたくはないんだけどね……」


アグノスはぼそりと漏らし、あの時マイクとヤニスの身に何が起こったのかを教えてやった。


「アレは『蝙蝠の球』と言ってね、何と言うかまあ、コイツが好きな遊びのひとつだ」


アグノスから発せられた“遊び”の言葉に、ヤニスとマイクは眉をひそめた。


「いわば、力試しのようなものだよ。

相当悪趣味だけどね」


ヤニスに言葉の真意は掴めなかったが、英雄に近しい扱いをされてきた戦士二人が、小物扱いされている事は充分に理解した。


苦虫を噛み潰したような二人を見て更にご機嫌になったのか、後はパンが説明した。


「俺様のマギアってのは、さっきも言ったが特殊で……それに強大だ。

安易に発動させるとすぐ、天界や冥界の奴らの目に触れてしまう。


そこで、俺様に従順な蝙蝠たちの出番さ。

俺様の蝙蝠には、マギアを反発させるカターラがかけてある。

蝙蝠でドーム状に囲い、その中で俺様がマギアを解放すると、力は外に漏れ出すことなく、ドーム内に俺様のマギアが充満させられるのさ。


するとだ……順応できぬ者は、ひとつ息を吸い込むだけで気絶する。

俺様のマギアで体内が満たされるのが、耐えられないってわけだ」


蝙蝠の創り出したドーム内に満たされる、未曾有のマギア濃度。


順応できぬ者は、呼吸すらままならない。


アグノスの言う通り、確かにヤニスとマイクの不安はさらに増大した。


「俺は良い……。

俺自身、自分がお前たちの言うマギアってヤツを使えるとも思っていない……。

俺はただの人間だからな。


しかし、マイクは違うはずだ!

マイクですら耐えられないものなのか?」


盟友の存在意義を失墜させてなるものかと……マイクが今まで築き上げて来た偉業の数々を、無きものにしてなるものかと、ヤニスは懇願を込めて吠えた。


「確かにマイク……。

お前は相当なマギアを保有している。

カテリーニから戻ったお前が、俺様の首に刃を添えた時、神共にバレるのを覚悟の上で、マギアを解放するか迷った程だ」


マイクの存在意義は、紙一重で踏ん張った。


「しかしだ……。

お前のマギアは相当に鈍い。

つまり、力を発動させる迄に時間が掛かり過ぎるのだ。

故にさっきは気絶した。

本来の力を発動した状態であれば、特段問題は無かったはずだ。


それにヤニス……。

お前も一定量のマギアを保有している。

ただ、使い方を知らんだけだ」


パンは二人の事を親身に想うかの様に、励ますような説明をした。


マイクとヤニスは気味悪がったが、そんな事を言っている場合ではなく、必死にパンの言葉に耳を傾けた。


「先も言ったが、俺様は他の神共にバレたくないが故に、蝙蝠を使う。

しかし逆説的に、バレても問題無いのであれば、蝙蝠など使わずともマギアを解放するだけで、いつでも同じ状態は作れる。


そして……お前たちがこれから出会うであろう者たちは、総じて後者だ。

今のままのお前たちでは、神に遭遇する度に気絶するただのお荷物だ。


マギアの使い方ってのは、人それぞれ千差万別。

自分で気付き磨き上げるしかない。

俺の蝙蝠の球を貸してやるから、その中で何度も気絶しながら、己の力と向き合うが良い。


途中で死んだらせめてもの慰めで、お前たちの魂はヘルメスに渡してやるさ。

その後奴が、どうするかは知らんがな。

さて俺様とアグノス、それにネオお前もだ。

そろそろ日も落ちる……。

俺たち“強き者”は、酒と洒落込もうではないか」


パンの言葉には純粋に救われた。


ただ単純に、足手まといになられては困るだけなのかも知れない。


しかし、それでも良かった。


己の力を知り、今後の戦いに挑む資格を得られるのであれば、何度でも気絶し、泥水を呑む覚悟もあった。


戦士として生きて来て、互いの娘や息子を護るために立ち上がらんとする二人にとって、旅が続けられるということが、何よりも重要であった。


しかし……最後の言葉には納得出来なかった。


「ちょっと待て!

俺たちが修行をするのはもちろん、お前たちが酒を呑むのも何ら問題無い。


だが何故、ネオがそちら側なんだ?」


口走ったマイクは最早、勇ましい顔を保つことが出来なくなっていた。


パンは例の如く、実に愉快に答えた。


「何故って?

簡単じゃないか。

此奴は先の蝙蝠の球で、気絶などしてはいない。

お前たちよりよっぽど優秀な戦士だよ」


パンの言葉に、ネオは二人だけの秘密を大衆に向けて公表されたように慌てふためき、そして幸か不幸かこの発表は、マイクとヤニスの中に眠っていた若き日の闘争心を、轟々と燃え上がらせた。


 御伽噺や昔話でも、神様に会うと大概気絶するんだよね。

目を覚ますと的な。

ヤニスはどんな能力を持っているのか。

乞うご期待で。


【固定】

お読み頂きありがとうございました。 

評価やブックマークして頂けますと励みになります。

是非続きもお楽しみ下さい。


登場する名称一覧

 【キャラクター】

・カロス(ケンタウルス)

・エーレ(神の器?)

・ヤニス(エーレの父に返り咲いた男)

・マイク(伝説の英雄)

・レナ(ケンタウルスの女戦士)

・ターレス(ケンタウルスの族長)

・ソフィア(ケンタウルスの少女)

・アグノス(ケンタウルスの若い戦士)

・ルカ(マイクの息子)

・マートル(マイクの妻、ルカを産むと共に死去)

・ネオ(若い狩人)

・ミト(老いた狩人)

・ケイロン(ケンタウルスの英雄?)

・レア(大地の女神、レナの師)

・アキレウス(昔の英雄)

・アルカイオス(昔の英雄、後のヘラクレス)

・ヘラクレス(英雄の神、元アルカイオス)

・ネッソス(レナの父)

・アイネ(レナの母)

・ヘルメス(天界の死神)

・ヘルメスの使者(元ニンフの魂)

・タナトス(冥界の死神)

・ヒュプノス(タナトスの双子の弟、冥界の死神)

・モイラ(タナトスとヒュプノスの妹、複数の人格を持つ?)

・狭間の獣(タナトスの下僕)

・ニンフ(精霊の総称)

・サテュロス(笛を吹く半人半獣)

・パン(ニンフ殺し、ヘルメスの使い)

・女(ヴィーナス、ルカの意思に語りかける謎の女)

・エコー(山の精霊。カロスに恋をする木霊)

・ヘーラー(ゼウスの妻、天界の母)

・デュシウス(ラミア西門の門番)

・ゼノン(ラミア最高位の兵士、マイクとヤニスの弟子)

・クリストフ(ゼノンのファミリーネームであり、ゼノンの父であるミトの旧友の呼び名)

・老剣士(?)


【場所・他】

・ミリア(エーレが住む山奥の町)

・カテリーニ(マイクが住む海の近くの町)

・パライオ(山の入口の町)

・レアの泉(女神の泉)

・ピエリア(ミリアから山を超えた先)

・モスコホリ(ミリアの隣町)

・ヘスティア(ケンタウルス達が集う場所)

・アルゴリス(アテネより南に位置する、ヒドラの住まう場所)

・ラリサ(ギリシャ西部中央に位地する巨大交易都市)

・ラミア(スパルタの兵士達がアテネを攻め入る拠点となる街)

・デルポイ(海に面した山岳地帯)

・コリントス海(ヘーラーの呪いが掛けられた入り江状の海)

・スパルタ(ヤニスやマイクが属した勢力)

・アテネ(スパルタの敵対勢力)

・天界(天空の世界)

・冥界(地底の世界)

・禁則の地(天界と繋がる場所)

・イボヴォリ(ケンタウルスの園にそびえる大樹)

・ヒドラ(九つの首を持つ毒蛇)

・パピルス紙(古代に於いて使われた植物性の紙)

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