〜稀有な者達〜
マイク達三人もマギアとカターラを学ぶ。
しかしそれは新たなる絶望であった。
【固定】
始めまして、三軒長屋 与太郎です。
ゆっくりと物語の中の世界を、楽しんで頂けると幸いです。
後書きに名称一覧がありますので、ご活用下さい。
「お前が恐ろしく強いのは分かった。
その……他の者たちも、お前と同じくらいの力を持っているのか?
神はもちろんとして、神の使い、それにケンタウルスたちも……。
正直、今……俺は絶望している。
これではあまりにも、力の差があり過ぎる」
マイクの弱々しい発言に、パンはご満悦な様子であった。
そんなパンを軽蔑しながら、アグノスはマイクを慰めた。
「安心しろ。
さっきも言ったが、コイツは異例だ。
しかしそうだな……今後の為にもお前たちには、俺たちで言うところの“力”ってやつを教えなきゃいけないか。
だが、目の前に居るのが俺とパンってのがな……」
意味深な言葉を残しつつ、アグノスは人間たち三人に、マギアとカターラについて説明をした。
―――
「……とまあ、大体こんな感じだな。
ここで俺たちの力を見せながら説明すれば分かりやすいんだけど、実はパンだけではなく、俺のマギアも特殊なんだ。
ちなみに、俺のマギアは“無我”に少し“狂気”が混ざっていてね、俺自身、自分以外で同じマギアの特性を持つ者は出会ったことも聞いたこともない。
しかも、俺のマギアに至っては、普段は特に使い道が無いんだよな。
森の穢を除去したり、後はこんな風に……」
そう言ってアグノスは前脚を折り、地面に手を当てると、サッとひとつ払った。
すると、たちまちに小さな風が生まれ、つい先ほどマイクとヤニスの足によって刳られた地面へとそよぎ、瞬く間に新たな緑を生やして、大地は元あった通りに茂った。
人間たち三人は、この素敵な力に感心した。
「これは修復や治癒の能力ではないのか?」
見たままを口にしたヤニスの問いを、アグノスは首で否定した。
「そう思うだろ?
でも違うんだ。
自分自身でも説明し難い能力でね。
ザックリと言えば“自然の時間軸を歪める力”だ。
な?
分かりにくいだろ?」
三人はしっかりと頷いた。
「そんでもってパンの力は本来“拒絶”と“授与”を混ぜ合わせたものなんだが、コイツの厄介なのは他にあって、パンはこの世界随一のカターラ使いなんだよ。
場所や物、それに生き物、更には自分自身にもカターラを掛けている。
要するに訳が分からん生き物なんだ。
なあ?
俺達は“力”を説明するに於いて、全く適してないんだよ。
結論、お前たちは今後の実践で学ぶしかない」
マイクの絶望は増したが、稀有な力の持ち主が目の前に二体揃って居るのが、唯一の救いに感じた。
「お前たちの能力が特殊って事は、他の奴らのマギアってのは、目で見て分かるものなのか?」
目で見てとれたり、気配を感じられるのなら、何とかなるかも知れない……と、マイクは思ったのだ。
「まあ無理だろうな」
パンの答えは実に簡潔であった。
「正直俺も、今のままじゃ厳しいと思うな。
でも元来それが当たり前さ。
人間が神とやり合うなんて、神すら予想していない話だ。
それこそヘラクレスのように、神から産まれたのであれば話は別だがな」
マイクは絶望の淵へと降り立った。
それはヤニスも、そしてネオも同じであったが、アグノスは最後の救いを差し伸べた。
「ひとつ安心して欲しいのは、俺は多くの神の力を無力化出来る。
そして何より、パンが敵ではなく味方だってことはかなり大きな優位だ。
事実、俺が一番戦いたくない相手は、間違いなくパンだ。
基礎的な事であれば、俺だって教えられる。
お前たちはじっくりと力をつけて、対策を練れば良いさ」
アグノスは屈託のない笑顔を三人には向けた。
その奥でパンは厭らしく笑っていた。
三人に“安心”が授与される事はなかった。
アグノスの力は条件が揃った時に無敵と成ります。
そして自然の力を有する天界の神に対しては、最強を誇ります。
お楽しみに。
【固定】
お読み頂きありがとうございました。
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是非続きもお楽しみ下さい。
登場する名称一覧
【キャラクター】
・カロス(ケンタウルス)
・エーレ(神の器?)
・ヤニス(エーレの父に返り咲いた男)
・マイク(伝説の英雄)
・レナ(ケンタウルスの女戦士)
・ターレス(ケンタウルスの族長)
・ソフィア(ケンタウルスの少女)
・アグノス(ケンタウルスの若い戦士)
・ルカ(マイクの息子)
・マートル(マイクの妻、ルカを産むと共に死去)
・ネオ(若い狩人)
・ミト(老いた狩人)
・ケイロン(ケンタウルスの英雄?)
・レア(大地の女神、レナの師)
・アキレウス(昔の英雄)
・アルカイオス(昔の英雄、後のヘラクレス)
・ヘラクレス(英雄の神、元アルカイオス)
・ネッソス(レナの父)
・アイネ(レナの母)
・ヘルメス(天界の死神)
・ヘルメスの使者(元ニンフの魂)
・タナトス(冥界の死神)
・ヒュプノス(タナトスの双子の弟、冥界の死神)
・モイラ(タナトスとヒュプノスの妹、複数の人格を持つ?)
・狭間の獣(タナトスの下僕)
・ニンフ(精霊の総称)
・サテュロス(笛を吹く半人半獣)
・パン(ニンフ殺し、ヘルメスの使い)
・女(ヴィーナス、ルカの意思に語りかける謎の女)
・エコー(山の精霊。カロスに恋をする木霊)
・ヘーラー(ゼウスの妻、天界の母)
・デュシウス(ラミア西門の門番)
・ゼノン(ラミア最高位の兵士、マイクとヤニスの弟子)
・クリストフ(ゼノンのファミリーネームであり、ゼノンの父であるミトの旧友の呼び名)
・老剣士(?)
【場所・他】
・ミリア(エーレが住む山奥の町)
・カテリーニ(マイクが住む海の近くの町)
・パライオ(山の入口の町)
・レアの泉(女神の泉)
・ピエリア(ミリアから山を超えた先)
・モスコホリ(ミリアの隣町)
・ヘスティア(ケンタウルス達が集う場所)
・アルゴリス(アテネより南に位置する、ヒドラの住まう場所)
・ラリサ(ギリシャ西部中央に位地する巨大交易都市)
・ラミア(スパルタの兵士達がアテネを攻め入る拠点となる街)
・デルポイ(海に面した山岳地帯)
・コリントス海(ヘーラーの呪いが掛けられた入り江状の海)
・スパルタ(ヤニスやマイクが属した勢力)
・アテネ(スパルタの敵対勢力)
・天界(天空の世界)
・冥界(地底の世界)
・禁則の地(天界と繋がる場所)
・イボヴォリ(ケンタウルスの園にそびえる大樹)
・ヒドラ(九つの首を持つ毒蛇)
・パピルス紙(古代に於いて使われた植物性の紙)