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〜息子の想いと父の決断〜 その2

 パンが未知の技を発動。

遂に本性を表し裏切るのか…。


【固定】

始めまして、三軒長屋サンゲンナガヤ 与太郎ヨタロウです。

ゆっくりと物語の中の世界を、楽しんで頂けると幸いです。

後書きに名称一覧がありますので、ご活用下さい。


 マイクの馬は、前脚を力強く振り下ろし、大地を蹴り上げた。


しかし、駆け出すことはなく、その場で地団駄を踏んだ。


ここでマイクは、パンが無花果から目を離し、馬の目を睨みつけているのに気がついた。


「お前の仕業かパン!

息子の危機だ!

邪魔をするな!」


マイクは怒りを制御出来ず、馬の背に足をつき、今まさにパン目がけて飛び掛からんとしていた。


いつものように戯ける仕草は見せず、パンは始めて出会った時に見せた、“無”に近しき表情を見せた。


「あまり調子に乗るなよ人間」


パンはボソリと言葉を吐くと、同時に角笛を吹き、大量のコウモリを呼び寄せた。


夥しい数の黒い飛行物体は、瞬く間に隊列を成すと、一同の周りを半球体のドーム状に覆った。


「おい待て!

俺まで入れる必要はないだろう?」


この黒いドームの意味を知っているアグノスは、あからさまに悪態を付いた。


「黙っていろアグノス。

今からは全員、俺様に従ってもらう」


「遂に本性を表しやがったな小悪魔が!

その首叩き落としてくれる!

いくぞヤニスっ!」


……マイクとヤニスの連係は素晴らしかった。


馬の上から飛び掛かったマイクは、パンの首目掛けて一直線に斬り掛かり、マイクの合図に呼応したヤニスは、パンの後ろへとしゃがみ込み、その丸みを帯びた身体からは想像も付かない速さで、パンの膝裏へと斬りかかった。


正に、幾千の修羅場を掻い潜った強き戦士の所作で有り、二人の挙動には何も誤りが無いように見えた。


唯一、パンが創り出した“蝙蝠の球”の中であることを除けば……。


 「マイクさん!

ヤニスさん!」


ネオの叫びに、マイクとヤニスは目を覚ました。


二人とも、自らの頬が今、地べたに着いていることを理解出来なかった。


それでも意地で立ち上がると、正面に身構えた。


しかし、パンは二人の真後ろに立っており、母親が子供をあやすように、容易に二人の首を掴んだ。


後ろから首を掴まれた二人は、パンの手から伝わる“どんな剣も敵わぬ冷たさ”に、己の最期を悟った。


しかし、ネオは違った。


「マイクさんもヤニスさんも落ち着いて下さい!

パンに敵意は無いんだ!


二人が倒れている間に俺が、無花果に残されたルカの想いを読み取ったから、聞いて下さい!」


ネオは、自らが無花果から読み取った息子ルカの想いを、読み上げた。


(上手くいくかは分かりません……。


それでも決してコチラの事は気にせず、アルゴリスへと向かって下さい。


例えどんな事があっても)


ネオから聞かされる息子の想いに、マイクはうっすらとパンの妨害の意図を汲み取り、それと同時に、自らの思慮の浅はかさを嘆いた。


マイクが項垂れると同時に、パンは二人の首から手を離して説明を付け加えた。


「そういう事だ……。

さっきラミアで立ち昇った煙も、お前の息子の計画やもしれんし、仮にそうでなく単に危機だとしても、お前の息子は命を賭して“こちらへ来るな”と伝えている。

父であるお前が、それを破ってみろ。

息子は死んでも死にきれんぞ?」


マイクを、今迄に感じたことのない無力感が襲い、悔しさの余り、握り締めた拳には血が滲んだ。


「おい!

パンのドームの中で気を張るな!

俺たちを道連れにするつもりか?

取り敢えず落ち着いてくれ!


それにパン!

早くこのドームを消せ!

まったく……生きた心地がしない」


ひとりドームの真意を知っているアグノスは、落ち着きを失っていた。


やれやれと、パンが再び角笛を短く吹くと、コウモリたちは散り散りに飛び去り、いま一度皆の頭上に、神々しく太陽が昇った。


 「それにしてもパン……。

それにネオ、お前もだ。

そこまで詳細に読み取っていたのなら、何故もっと早く無花果に込められた意図を、マイクに話してやらなかった?」


ヤニスの真っ当な問い掛けに、ネオは実に申し訳なさそうに眉を顰めたが、パンは悪怯れる様子を全く見せずに答えた。


「実に単純さ。

あの無花果には俺様への挑発が込められていた。

しかも、触ると電気が流れるオマケ付きだ。

気に食わなかった……。

それだけだ」


思い掛けない幼稚な理由だった。



 小一時間悩んだんだけど、古代ギリシャの設定に於いて〝電気〟って表現が気に食わない。

でも今後のストーリーを鑑みるに、〝痛みが走る〟では弱くて、必ずそれが〝電気によるもの〟じゃないといけないんだよなぁ。

あっ…。


【固定】

お読み頂きありがとうございました。 

評価やブックマークして頂けますと励みになります。

是非続きもお楽しみ下さい。


登場する名称一覧

 【キャラクター】

・カロス(ケンタウルス)

・エーレ(神の器?)

・ヤニス(エーレの父に返り咲いた男)

・マイク(伝説の英雄)

・レナ(ケンタウルスの女戦士)

・ターレス(ケンタウルスの族長)

・ソフィア(ケンタウルスの少女)

・アグノス(ケンタウルスの若い戦士)

・ルカ(マイクの息子)

・マートル(マイクの妻、ルカを産むと共に死去)

・ネオ(若い狩人)

・ミト(老いた狩人)

・ケイロン(ケンタウルスの英雄?)

・レア(大地の女神、レナの師)

・アキレウス(昔の英雄)

・アルカイオス(昔の英雄、後のヘラクレス)

・ヘラクレス(英雄の神、元アルカイオス)

・ネッソス(レナの父)

・アイネ(レナの母)

・ヘルメス(天界の死神)

・ヘルメスの使者(元ニンフの魂)

・タナトス(冥界の死神)

・ヒュプノス(タナトスの双子の弟、冥界の死神)

・モイラ(タナトスとヒュプノスの妹、複数の人格を持つ?)

・狭間の獣(タナトスの下僕)

・ニンフ(精霊の総称)

・サテュロス(笛を吹く半人半獣)

・パン(ニンフ殺し、ヘルメスの使い)

・女(ヴィーナス、ルカの意思に語りかける謎の女)

・エコー(山の精霊。カロスに恋をする木霊)

・ヘーラー(ゼウスの妻、天界の母)

・デュシウス(ラミア西門の門番)

・ゼノン(ラミア最高位の兵士、マイクとヤニスの弟子)

・クリストフ(ゼノンのファミリーネームであり、ゼノンの父であるミトの旧友の呼び名)

・老剣士(?)


【場所・他】

・ミリア(エーレが住む山奥の町)

・カテリーニ(マイクが住む海の近くの町)

・パライオ(山の入口の町)

・レアの泉(女神の泉)

・ピエリア(ミリアから山を超えた先)

・モスコホリ(ミリアの隣町)

・ヘスティア(ケンタウルス達が集う場所)

・アルゴリス(アテネより南に位置する、ヒドラの住まう場所)

・ラリサ(ギリシャ西部中央に位地する巨大交易都市)

・ラミア(スパルタの兵士達がアテネを攻め入る拠点となる街)

・デルポイ(海に面した山岳地帯)

・コリントス海(ヘーラーの呪いが掛けられた入り江状の海)

・スパルタ(ヤニスやマイクが属した勢力)

・アテネ(スパルタの敵対勢力)

・天界(天空の世界)

・冥界(地底の世界)

・禁則の地(天界と繋がる場所)

・イボヴォリ(ケンタウルスの園にそびえる大樹)

・ヒドラ(九つの首を持つ毒蛇)

・パピルス紙(古代に於いて使われた植物性の紙)

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