〜受け継がれし力〜
ラミアの中から現れし謎の兵士。
カテリーニの一行に新たなる危機が迫る。
【固定】
始めまして、三軒長屋 与太郎です。
ゆっくりと物語の中の世界を、楽しんで頂けると幸いです。
後書きに名称一覧がありますので、ご活用下さい。
大声を上げながら出てきたその兵士は、どこか異様であった。
視覚的には門番の巨体が勝っていたが、それだけではなかった。
明らかに“もの”が違った。
兵士が一歩を踏みしめる度に、皆の寿命が縮むかのような緊張が走った。
「その哀れな様はなんだ『デュシウス』。
強さ故の門番ではないのか」
名を呼ばれた大巨体の門番は、今や小さく震えていた。
ルカの後ろで身構える二人の狩人は、つい先日パライオの森で出会ったサテュロスを思い浮かべ、崩れ落ちそうな身体を何とか支えるので精一杯であった。
血液の流れが止まりそうな程の緊張の中、唯一、ルカとミトだけが、周りとは正反対に緊張を解いた。
門番の股の下から顔を覗かせながら、ルカは嬉しそうに声を発した。
「ゼノンさん!」
門番の股下から見える青年を見つめて、ゼノンは驚いたように、そして嬉しそうに威嚇の念を解いた。
「ルカ!?
ルカなのか?」
ゼノンは銀色に輝く兜を脱ぐなり、それを脇に抱え、ルカの元へと駆け寄った。
「久し振りじゃないか!
エラく大きくなりやがって。
マイクさんはどうした?」
「今回父とは別行動なんです。
でも明日にはこの街に寄ると思いますよ」
「なんだ……それは残念だ。
いやしかし……」
ゼノンはルカと狩人、そして門番デュシウスを交互に見やり、何故か嬉しそうに尋ねた。
「うちの門番を降伏させたのか?
しっかりと血を受け継いでいるじゃないかルカ。
これでは私も、デュシウスを責める訳にはいかんな。
逆にデュシウスがルカを手に掛けていたら、私がお前を殺めていたかもしれん」
ゼノンは大らかに笑いながら話したが、応える門番デュシウスの顔は引きつっていた。
「お前達もすまん……。
敵襲かと思い、少々威嚇した。
安心してくれ。
お前達のリーダーであろうお方は、私の師匠の一人だ」
ゼノンがルカの後ろで身構える二人の狩人に伝えると、狩人達は先日の森の中よろしく、大きく腰から崩れ落ちた。
「しかし何でまたお前が……。
後ろの民衆はカテリーニの人達か?」
「そうです。
いま全ては話せないのですが、訳あって全員をスパルタ軍に入隊させて欲しいのです。
戦士と言わず、炊事でも洗濯でも、役に立てるなら何でもします。
それに、狩人達は戦士としても力になれるはずです。
一人引退したがっている老戦士もいますけどね……」
そう言ってルカが後ろを振り返ると、カテリーニの民衆を従えて、ミト爺が近付いて来ていた。
老兵が近づくのに比例して、ゼノンの口角もみるみる上がっていった。
「ミトさんですか!?」
「“クリストフ”の小僧が生意気なオーラを出すようになったじゃないか」
ゼノンは子供の様にミト爺へ駆け寄り、目の前で両膝をつくと、地面に落ちる兜も気にせず両手を広げ、力いっぱい抱きしめた。
ミト爺はまるで子供をあやすように、それを受け止めた。
二人の所作には、誰も立ち入れない神聖さがあった。
「実はわしも何故今此処に居るのか分からん。
答えは全てルカが知っていると信じておる。
お前がどの程度出世したのかは知らんが、一先ず我々をラミアの中へ入れてはくれぬか?
皆疲弊しておる……」
ゼノンは抱きしめた両腕を放すと、今度は片膝をつき、実に凛々しい笑みで答えた。
「今この街に、私より上は居ませんよ。
喜んでラミアへと迎え入れましょう!」
勇ましく立ち上がり、ラミアの方へと向き直ると、ゼノンは大声で命を授けた。
「我ゼノンの名の下、カテリーニの御一行を、客人として迎え入れる。
皆、即座に歓迎へと切り替えろ」
外壁上の夥しい弓兵達は、一目散に散っていった。
一人取り残された門番デュシウスを、ゼノンは見捨てなかった。
「お前も心が静まらんだろう。
一先ずは代わりの門番を立たせるから、私と一緒に来い。
先程お前が対峙していた者が何者なのか教えてやる」
デュシウスは落ち着きのなかった表情をキリッと締めると、ゼノンの後に続き、そして、その後をカテリーニの一行が追い、一同ラミアの中へと入っていった。
ゼノンはオシャレな口髭を生やしたイケオジです。
2.5次元だと長い銃持ってるタイプの奴です。
もういっそイタリア人です。
【固定】
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是非続きもお楽しみ下さい。
登場する名称一覧
【キャラクター】
・カロス(ケンタウルス)
・エーレ(神の器?)
・ヤニス(エーレの父に返り咲いた男)
・マイク(伝説の英雄)
・レナ(ケンタウルスの女戦士)
・ターレス(ケンタウルスの族長)
・ソフィア(ケンタウルスの少女)
・アグノス(ケンタウルスの若い戦士)
・ルカ(マイクの息子)
・マートル(マイクの妻、ルカを産むと共に死去)
・ネオ(若い狩人)
・ミト(老いた狩人)
・ケイロン(ケンタウルスの英雄?)
・レア(大地の女神、レナの師)
・アキレウス(昔の英雄)
・アルカイオス(昔の英雄、後のヘラクレス)
・ヘラクレス(英雄の神、元アルカイオス)
・ネッソス(レナの父)
・アイネ(レナの母)
・ヘルメス(天界の死神)
・ヘルメスの使者(元ニンフの魂)
・タナトス(冥界の死神)
・ヒュプノス(タナトスの双子の弟、冥界の死神)
・モイラ(タナトスとヒュプノスの妹、複数の人格を持つ?)
・狭間の獣(タナトスの下僕)
・ニンフ(精霊の総称)
・サテュロス(笛を吹く半人半獣)
・パン(ニンフ殺し、ヘルメスの使い)
・女(ヴィーナス、ルカの意思に語りかける謎の女)
・エコー(山の精霊。カロスに恋をする木霊)
・ヘーラー(ゼウスの妻、天界の母)
【場所・他】
・ミリア(エーレが住む山奥の町)
・カテリーニ(マイクが住む海の近くの町)
・パライオ(山の入口の町)
・レアの泉(女神の泉)
・ピエリア(ミリアから山を超えた先)
・モスコホリ(ミリアの隣町)
・ヘスティア(ケンタウルス達が集う場所)
・アルゴリス(アテネより南に位置する、ヒドラの住まう場所)
・ラリサ(ギリシャ西部中央に位地する巨大交易都市)
・ラミア(スパルタの兵士達がアテネを攻め入る拠点となる街)
・デルポイ(海に面した山岳地帯)
・コリントス海(ヘーラーの呪いが掛けられた入り江状の海)
・スパルタ(ヤニスやマイクが属した勢力)
・アテネ(スパルタの敵対勢力)
・天界(天空の世界)
・冥界(地底の世界)
・禁則の地(天界と繋がる場所)
・イボヴォリ(ケンタウルスの園にそびえる大樹)
・ヒドラ(九つの首を持つ毒蛇)
・パピルス紙(古代に於いて使われた植物性の紙)