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〜もう一人の僕へ〜

 ラミアの巨大な門番と対峙。

ルカの考えた秘策とは。


【固定】

始めまして、三軒長屋サンゲンナガヤ 与太郎ヨタロウです。

ゆっくりと物語の中の世界を、楽しんで頂けると幸いです。

後書きに名称一覧がありますので、ご活用下さい。


 カテリーニの一行がラミアの西門へと近付くにつれ、街の外壁の上に何処からともなく警備兵と思わしき人影が増えていった。


ルカが一歩足を踏み出す度に、左右に二人ずつ増えていくようであり、門まであと三十メートルと差し迫った頃には、カテリーニの一行には、無数の弓が向けられていた。


そして、固く閉じられた門の前にただ一人、門番が立ち塞がっていた。


この門番は、カテリーニで最も大柄なルカの父・マイクの三倍はありそうな大巨体で、何故これがラミアの中で“人間”として疑われていないのか不思議でたまらなかったし、そんなことより、ルカが最も驚いたのは、どうやら以前父と共に来た時と、同じ門番であった。


しかし、門番が放った次なる大声で、その昔話が何の役にも立たないことが明白になった。


「来門者達へ告ぐ!

ラミアへ何の用か?」


それはルカの記憶と、ピッタリ相違ない台詞であった。


ルカは自らの腹に力を溜め込み、負けじと大声で応えた。


「我々は北の町、カテリーニの民衆であります!

我が父マイクの命により、我等カテリーニの民一同、スパルタへの入隊を果たしに参りました!」


このハッタリに、ルカの中のもうひとつの意思が、耳元で小さく拍手をするのを感じた。


ルカは、糠喜びをするもうひとつの意思を戒めた。


(問題はここからだよ……)と。


すかさず門番は返した。


「我がスパルタ軍はこの世界に於いて、最も勇ましき精鋭。

故に、その訓練もこの世の地獄だ。

遠くから見てもよく分かる。

後ろに群れるただの民衆共に、それが耐えられるとは到底思えん。


命を下したマイクと言う名は、確かに聞いた記憶がある英雄の名だが、門番であるわしにとっては、何ら関係のないことだ。

大人しくカテリーニへ帰り給え」


まさに門前払い。


しかし、ルカはこれを容易に予期していた。


大袈裟に何度か屈伸をすると、ルカは目にも留まらぬ速さで、門番へと駆け出した。


途端に、外壁のスパルタ軍たちから、鋭い弓矢が放たれた。


しかし、ルカのスピードの前では全く意味を成さず、一本の例外なく、ルカの後方へと落ちていった。


そしてルカは、門番の目と鼻の先で止まった。


こうなっては、外壁に何人の弓兵がいようと関係なかった。


ただでさえ大巨体な門番の身体で、ルカの姿が見えなかったからだ。


「なるほど……」


門番は、さして驚く様子を見せなかった。


「お前が途轍もなく速いことは分かったし、我が軍への入隊も許可しよう。

しかしだ……。

如何にお前が優れていようが、後ろの民衆は別だ。


我等スパルタの兵の多くは、敵地ではなく内地で死ぬ。

故に生ぬるい入隊は阻止する。

それが私なりの正義だ」


そう言うと、門番は徐ろに巨大な右腕を伸ばし、カテリーニの人々を指を差した。


これを合図に、外壁上から数多あまたの弓矢が、今度はカテリーニの一行へと放たれた。


「戦場を舐めるな小童。

お前からは微塵の殺意も感じ取れん。

悪いことは言わん。

そのすばしっこさで、この矢の群れから民衆を守り抜き、そして大人しくカテリーニへと連れて帰れ。

先にも言ったが、お前だけなら入隊を許可する」


ルカはここですかさず、もうひとつの意思へと喋りかけた。


(はてさて、困ったな。

これくらいの弓矢、普段通りならミト爺さんたちで十二分に防げるのだけれど、そうもいかないらしい。

どうやら何処かの誰かに操られて、力を制限されているらしいからなあ……)


ルカの中のもうひとつの意思は、今度は間を置かず、すぐさま可愛げの無い声へと切り替わった。


(図ったな小僧)


(そんな言い方はよしてくれよ、もう一人の僕。

こうなればどの道、それ以外に手はない。

狩人の五人と、馬や犬達だけを解放してくれたら充分さ。

町の皆は君が操り続けてくれた方が安全だからね。


それにさっきも言ったけど、安心してよ。

君から解放されても、どの道、僕達はアテネへと向かう)


(いつから気付いていた?)


(カテリーニを出る少し前さ。

流石に君も分かっているだろうけど、父たちもちゃんとこっちへ向かって来ている。

何も問題ないはずさ。


さて時間がない。

僕は君を信じるよ。

君も、僕を信じなよ。

ね……もう一人の僕)


そしてルカは、心の中で呟いた。


(支配終わり)と。


 先に言っておきますと、ルカの強さはチート級ですので、今後も楽しみにして下さい。

あの白鳥の正体に、ルカの強さの秘密が隠されていますが、それはまた今度。


【固定】

お読み頂きありがとうございました。 

評価やブックマークして頂けますと励みになります。

是非続きもお楽しみ下さい。


登場する名称一覧

 【キャラクター】

・カロス(ケンタウルス)

・エーレ(神の器?)

・ヤニス(エーレの父に返り咲いた男)

・マイク(伝説の英雄)

・レナ(ケンタウルスの女戦士)

・ターレス(ケンタウルスの族長)

・ソフィア(ケンタウルスの少女)

・アグノス(ケンタウルスの若い戦士)

・ルカ(マイクの息子)

・マートル(マイクの妻、ルカを産むと共に死去)

・ネオ(若い狩人)

・ミト(老いた狩人)

・ケイロン(ケンタウルスの英雄?)

・レア(大地の女神、レナの師)

・アキレウス(昔の英雄)

・アルカイオス(昔の英雄、後のヘラクレス)

・ヘラクレス(英雄の神、元アルカイオス)

・ネッソス(レナの父)

・アイネ(レナの母)

・ヘルメス(天界の死神)

・ヘルメスの使者(元ニンフの魂)

・タナトス(冥界の死神)

・ヒュプノス(タナトスの双子の弟、冥界の死神)

・モイラ(タナトスとヒュプノスの妹、複数の人格を持つ?)

・狭間の獣(タナトスの下僕)

・ニンフ(精霊の総称)

・サテュロス(笛を吹く半人半獣)

・パン(ニンフ殺し、ヘルメスの使い)

・女(ヴィーナス、ルカの意思に語りかける謎の女)

・エコー(山の精霊。カロスに恋をする木霊)

・ヘーラー(ゼウスの妻、天界の母)


【場所・他】

・ミリア(エーレが住む山奥の町)

・カテリーニ(マイクが住む海の近くの町)

・パライオ(山の入口の町)

・レアの泉(女神の泉)

・ピエリア(ミリアから山を超えた先)

・モスコホリ(ミリアの隣町)

・ヘスティア(ケンタウルス達が集う場所)

・アルゴリス(アテネより南に位置する、ヒドラの住まう場所)

・ラリサ(ギリシャ西部中央に位地する巨大交易都市)

・ラミア(スパルタの兵士達がアテネを攻め入る拠点となる街)

・デルポイ(海に面した山岳地帯)

・コリントス海(ヘーラーの呪いが掛けられた入り江状の海)

・スパルタ(ヤニスやマイクが属した勢力)

・アテネ(スパルタの敵対勢力)

・天界(天空の世界)

・冥界(地底の世界)

・禁則の地(天界と繋がる場所)

・イボヴォリ(ケンタウルスの園にそびえる大樹)

・ヒドラ(九つの首を持つ毒蛇)

・パピルス紙(古代に於いて使われた植物性の紙)

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