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〜父へ、そして〜

 最後の無花果へと意思を込めながら、遂にカテリーニの一行がラミアへと辿り着く。


【固定】

始めまして、三軒長屋サンゲンナガヤ 与太郎ヨタロウです。

ゆっくりと物語の中の世界を、楽しんで頂けると幸いです。

後書きに名称一覧がありますので、ご活用下さい。


 一夜明け、カテリーニの一行は、再び歩き始めた。


ラミアへと向かう道すがら、ルカは自分の中のもうひとつの意思と協議をし続けていた。


(ラミアへ着いたら、どうやって門を潜るつもりだい?)


驚くことに、ルカの問いにもうひとつの意思は戸惑いをみせた。


(おや?

カテリーニとラミアの友好は深いと思っていたのだが。

違うのかい?)


(そりゃ確かに良い関係ではあるけど、こと中に入るとなれば話は別さ。

ラミア……もといスパルタは、己以外の何人なんびとも信じず。

それが信条じゃないか。

それに、最も仲の深い父とヤニスさんも居ない。

まずすんなりとは、入れてくれないさ)


(確かにそうだったね。

しかし、それは困ったな。

やっぱり父も連れて来るべきだったか)


ルカは心の中で、この言葉を笑ってみせた。


(父だろうが神だろうが、ラミアの門番の前では同じさ。

一度父に連れられて来たことがあるけど、その時も一向に入れてくれなくて、小一時間口論してる最中、たまたま遠征から帰って来た部隊の長が父の教え子だった。

それで何とか入ることが出来たくらいだ。


でも大丈夫、安心してよ。

今回は僕に良い考えがあるから、任せてくれるかい?)


(……分かったよ)


もうひとつの意思は、同意したと思われたが、しばし沈黙があった後、今迄とは明らかに違う、実に可愛らしくない声が響いた。


(ところでお前は今何故、我と会話が出来ている?)


そんな訳はなかったのだが、ルカは自らの顔の直ぐ横に、決して見てはいけない顔があるのを感じた。


一瞬ルカの心音はけたたましく鼓動したが、ひとつ目を瞑り、これを見事に御した。


あたかも今しがた吹いた冷たい晩秋の風に震えるように、両肩を縮こまらせてスッと落とすと、ルカは何食わぬ顔でその問いに答え掛けた。


(今更何を言っているんだい?

ずっと小さい時からそうじゃないか。

僕はいつも君と色々な事を相談しながら、これまで生きて来た。

君は僕の中のもう一人の僕。

そうだろ?)


やや長い沈黙が去り、声色を元に戻して、もうひとつの意思は、ルカの提案を真に受け入れた。


(そうだったね……。

よし、君に任せるよ。

もう一人の僕)


気を抜けばまた直ぐにでも鳴り響きそうな心音を抑えつつ、ルカはじっとラミアの方角を見つめた。


そしてまたひとつ、無花果を落とした。


そして、拳の中に残った最後のひと粒へ、慎重に想いを込めた。


(父さん……。

今まで育ててくれた事を、ここに感謝致します。

貴方が強く育ててくれたお陰で、僕は今も、僕で居られます。


これから少しの間、別々の道を歩きます。

もう分かっているとは思いますが、カテリーニの皆とラミアを通ります。

策は考えていますが、上手くいくかは分かりません。

それでも決して、僕たちのことは気にせず、アルゴリスへと向かって下さい。

例えどんな事があっても……。


今世界が必要としているのは、父さんであり、ヤニスさん、そしてどうやらエーレのようです。

でも安心してください。

僕は腐っても貴方の息子です。


駒兵らしく舞って魅せますので、もしもう一度会える時が来ましたら、僕のお願いをひとつ聞いて下さい。


息子から父への、最後の願いを……)


肩の荷を下ろしたように、ルカは力を抜いた。


そして最後にもう一つ、無花果へと意思を込めた。


(そしてネオへ。

必ずこの無花果を見つけて。

もしパンが一緒に居るのなら伝えて欲しい。


僕がもし死んだら、意地でも天界へ行く。

今後も天界で健やかに過ごしたいのなら、皆の命を大事にすることだ……ってね)


小さな果実を潰さないように力を込めると、そっと道の端へと転がした。


そして遂に、遠く道のりの先に、ラミアの街が見えていた。



 ルカ、壮大な死亡フラグ。

はてさていったいルカの考えているカテリーニ軍の構想とは。


【固定】

お読み頂きありがとうございました。 

評価やブックマークして頂けますと励みになります。

是非続きもお楽しみ下さい。


登場する名称一覧

 【キャラクター】

・カロス(ケンタウルス)

・エーレ(神の器?)

・ヤニス(エーレの父に返り咲いた男)

・マイク(伝説の英雄)

・レナ(ケンタウルスの女戦士)

・ターレス(ケンタウルスの族長)

・ソフィア(ケンタウルスの少女)

・アグノス(ケンタウルスの若い戦士)

・ルカ(マイクの息子)

・マートル(マイクの妻、ルカを産むと共に死去)

・ネオ(若い狩人)

・ミト(老いた狩人)

・ケイロン(ケンタウルスの英雄?)

・レア(大地の女神、レナの師)

・アキレウス(昔の英雄)

・アルカイオス(昔の英雄、後のヘラクレス)

・ヘラクレス(英雄の神、元アルカイオス)

・ネッソス(レナの父)

・アイネ(レナの母)

・ヘルメス(天界の死神)

・ヘルメスの使者(元ニンフの魂)

・タナトス(冥界の死神)

・ヒュプノス(タナトスの双子の弟、冥界の死神)

・モイラ(タナトスとヒュプノスの妹、複数の人格を持つ?)

・狭間の獣(タナトスの下僕)

・ニンフ(精霊の総称)

・サテュロス(笛を吹く半人半獣)

・パン(ニンフ殺し、ヘルメスの使い)

・女(ヴィーナス、ルカの意思に語りかける謎の女)

・エコー(山の精霊。カロスに恋をする木霊)

・ヘーラー(ゼウスの妻、天界の母)


【場所・他】

・ミリア(エーレが住む山奥の町)

・カテリーニ(マイクが住む海の近くの町)

・パライオ(山の入口の町)

・レアの泉(女神の泉)

・ピエリア(ミリアから山を超えた先)

・モスコホリ(ミリアの隣町)

・ヘスティア(ケンタウルス達が集う場所)

・アルゴリス(アテネより南に位置する、ヒドラの住まう場所)

・ラリサ(ギリシャ西部中央に位地する巨大交易都市)

・ラミア(スパルタの兵士達がアテネを攻め入る拠点となる街)

・デルポイ(海に面した山岳地帯)

・コリントス海(ヘーラーの呪いが掛けられた入り江状の海)

・スパルタ(ヤニスやマイクが属した勢力)

・アテネ(スパルタの敵対勢力)

・天界(天空の世界)

・冥界(地底の世界)

・禁則の地(天界と繋がる場所)

・イボヴォリ(ケンタウルスの園にそびえる大樹)

・ヒドラ(九つの首を持つ毒蛇)

・パピルス紙(古代に於いて使われた植物性の紙)

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