〜カテリーニ軍の結成〜
ヘラクレスに操られながらアテネへと向かうカテリーニの住人達。
皆の運命は、若き狩人見習いであるルカの手に委ねられていた。
【固定】
始めまして、三軒長屋 与太郎です。
ゆっくりと物語の中の世界を、楽しんで頂けると幸いです。
後書きに名称一覧がありますので、ご活用下さい。
パンの考察通り、ルカが率いるカテリーニの住人たちは、ラリサで留まることなく、一路ラミアへと最短で向かっていた。
その間も、ルカは自身の頭の中に流れてくるヘラクレスと思しき意思に同調しつつ、カテリーニの皆を救う方法の糸口を探し続けていた。
ラリサとラミアのちょうど中間辺りで、一行は夜を越すための休息を取ることとなった。
これもルカのひとつの功績であり、本来はラミアまで休憩なしで進むつもりだった脳内の意思を、ルカが欺いた結果であった。
「僕たち人間は、夜中の間に睡眠を取らなければ精神に異常をきたしてしまう。
何処か広々とした平原で休息を取らなければ。
狩人たちが暴走を始めたら、僕なんかでは決して止められやしない」
脳内で発せられたルカの言葉に、もうひとつの意思は「そうだね」と同意したのだ。
それもそのはずで、元より魂を操るということは、操る対象の精神が正常であればこそ出来るのである。
これはよく見落とされがちな穴であり、大抵の者は精神が弱ったり異常をきたした時ほど、嘘やマインドコントロールにハマりやすいと思っている。
しかしそれは間違いであり、魂が健全であるからこそ、欺き操ることが出来るのだ。
馬を乗りこなすのに頑丈な手綱が必要なように。
そのため、ルカの脳内のもうひとつの意思も、これに同意したのである。
『人類とはどこまでも脆く、か弱き存在である』
この実に神らしい奢りが招いた、必然的な選択であった。
夜の静寂の中で、ルカは孤独であった。
周りにカテリーニの住人たちがいる事実が、逆にこの孤独をより強調させた。
平和な片田舎。
いつもは酒や噂話で、非日常をこれでもかと愉しむ街の人達。
いつものルカはそれを、何処か冷めた目で見ていた。
しかし、今に限ってはそれが、最も尊く思えてならなかった。
徐ろに目を瞑り、ゆっくりと瞼を持ち上げ、目の前にまた白鳥が出てきてはくれまいかと願った。
ルカはそれを何度か繰り返し、目を開く度に小さく傷付くのであった。
草原に吹き抜ける風だけが、ルカに寄り添った。
残りの無花果は二つ。
朝になり再度歩き出せば、最早半日を待たずしてラミアへ着いてしまう。
後を追って来ているであろう父達に向けて、意思を残せるチャンスは限られていた。
それまでにルカが達成しなければならない事は大きく三つ。
父親たちに、自らのあとを追わせず、アルゴリスへと誘うこと。
カテリーニの人達を、ヘラクレスの支配から解き放つこと。
そして……この二つを、もうひとつの意思に悟られることなく、遂行することであった。
それはとても難題であった。
しかしルカは、全ての解決策になりうるひとつの答えを見つけていた。
『ラミアを通過してアテネへと向かう』
この安易なルートこそが、ルカをその答えへと導いた。
ルカはこの時、『スパルタ軍直下カテリーニ軍の結成』を心の奥底で決めていた。
そのためにも、住人たちの休息は必須であった。
逸る熱意が昂って悟られぬよう、今はそっと眠りについた。
【次回】ルカ本領発揮。
スパルタの本拠地にて大立ち回り!?
【固定】
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是非続きもお楽しみ下さい。
登場する名称一覧
【キャラクター】
・カロス(ケンタウルス)
・エーレ(神の器?)
・ヤニス(エーレの父に返り咲いた男)
・マイク(伝説の英雄)
・レナ(ケンタウルスの女戦士)
・ターレス(ケンタウルスの族長)
・ソフィア(ケンタウルスの少女)
・アグノス(ケンタウルスの若い戦士)
・ルカ(マイクの息子)
・マートル(マイクの妻、ルカを産むと共に死去)
・ネオ(若い狩人)
・ミト(老いた狩人)
・ケイロン(ケンタウルスの英雄?)
・レア(大地の女神、レナの師)
・アキレウス(昔の英雄)
・アルカイオス(昔の英雄、後のヘラクレス)
・ヘラクレス(英雄の神、元アルカイオス)
・ネッソス(レナの父)
・アイネ(レナの母)
・ヘルメス(天界の死神)
・ヘルメスの使者(元ニンフの魂)
・タナトス(冥界の死神)
・ヒュプノス(タナトスの双子の弟、冥界の死神)
・モイラ(タナトスとヒュプノスの妹、複数の人格を持つ?)
・狭間の獣(タナトスの下僕)
・ニンフ(精霊の総称)
・サテュロス(笛を吹く半人半獣)
・パン(ニンフ殺し、ヘルメスの使い)
・女(ヴィーナス、ルカの意思に語りかける謎の女)
・エコー(山の精霊。カロスに恋をする木霊)
・ヘーラー(ゼウスの妻、天界の母)
【場所・他】
・ミリア(エーレが住む山奥の町)
・カテリーニ(マイクが住む海の近くの町)
・パライオ(山の入口の町)
・レアの泉(女神の泉)
・ピエリア(ミリアから山を超えた先)
・モスコホリ(ミリアの隣町)
・ヘスティア(ケンタウルス達が集う場所)
・アルゴリス(アテネより南に位置する、ヒドラの住まう場所)
・ラリサ(ギリシャ西部中央に位地する巨大交易都市)
・ラミア(スパルタの兵士達がアテネを攻め入る拠点となる街)
・デルポイ(海に面した山岳地帯)
・コリントス海(ヘーラーの呪いが掛けられた入り江状の海)
・スパルタ(ヤニスやマイクが属した勢力)
・アテネ(スパルタの敵対勢力)
・天界(天空の世界)
・冥界(地底の世界)
・禁則の地(天界と繋がる場所)
・イボヴォリ(ケンタウルスの園にそびえる大樹)
・ヒドラ(九つの首を持つ毒蛇)
・パピルス紙(古代に於いて使われた植物性の紙)