表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/102

〜創り上げるのが神ならば〜

 無花果を辿るヤニスの旅路。

最たる的は身内か?


【固定】

始めまして、三軒長屋サンゲンナガヤ 与太郎ヨタロウです。

ゆっくりと物語の中の世界を、楽しんで頂けると幸いです。

後書きに名称一覧がありますので、ご活用下さい。


 パンは何やら、思い悩んでいる様子であった。


我々が進んでいる南とは全く違う、北北西の方角を振り返り、じっと睨みつけていた。


「何だ?

北から何か感じるのか?」


そう疑問を問い掛けたのは、細身ながらも荒々しい筋肉を纏ったケンタウルスであった。


「いや……何でもない」


パンは素っ気なく答えたが、マイクはその返答が気に入らなかった。


「それは困るな、パン。

図らずも俺達は今、お前に導かれているんだ。

指針であるお前が余所見をした以上、その理由を聞かない限り、疑念なく歩を進められない」


それは、至極真っ当な意見であった。


ただでさえ解らぬ事だらけの旅路で、皆を先導し舵を切っているのが、得体の知れない半人半獣と、下っ端の狩人なのだから。


 ヤニスはマイクの意見に同意し、足を止め、パンを見つめながら返答を待った。


その横で、マイクは腕を組み、仁王立ちを決めた。


二人の姿勢に感化されたのか、アグノスもそこに並び、同意の意志を示し、自らの意見を付け加えた。


「残念だがパンよ。

今回は俺も二人に仲間する。

実際、俺自身も族長からの指令を無視して遠回りしているんだからな。

お前が北を気にしている理由を、俺達に聞かせてくれないか?」


パンは大きく溜め息をつくと、背中は向けたまま、声を張り上げて応えた。


「分かったよ!

今しがた俺様がエコーに仕掛けていた『報せの笛』が壊された。

感じからするに、女神レアの仕業だ。

全くもって私的な理由だ。これで満足か?」


苛立ちを隠さず、恥じらいも見せずに応えたパンに対し、マイクは「充分だ」とだけ告げて、仁王立ちを崩した。


しかし、パンがカロスやレナ、そしてエーレの声を盗み聞きしていた事実は、誰にも知られなかった。


そして今度は、パンがこの一連の流れを気に入らなかった。


「聞くが……今のやり取りに何の意味があった?

そもそも俺様の返答が真実かどうかなど、お前たちには分からんだろ?」


パンは再び歩みを進めながら、後方の連中に問い掛けた。


ヤニスが答える。


「俺たち人間はお前たちとは違い、“空気”で全てを察せる訳ではない。

だからこそ、人間は言葉を使うのだ……。

お前が言っている事が真実かどうかなど、正直あまり意味はない。

お前自身の口から出た言葉を、俺達人間は“見ている”のさ」


この言葉は、ヤニスなりの優しさであった。

もしマイクが返していたなら、もう少し角が立っていたであろう。


パンは天を見上げ、両腕を大きく使って、あからさまに呆れた。


「まったく人間ってやつは……。

これだからやはり好かん。

何が『口から出た言葉を見ているのさ』だ」


パンは途中、ヤニスの真似をしながら戯けたが、ヤニスは至って真剣だった。


「気をつけるんだな、パンよ……。

お前がずっと俺達から向けられる“空気”によって苛立っているのは理解している。

何故なら、俺もマイクも、カテリーニを出てから常にお前の首を狙い続けているからな。

微塵も隠さず……」


 正直ネオは、この一連の流れを全く理解出来ていなかった。

故にヤニスの言葉に仰天したし、アグノスですら、首を素早くヤニスとマイクに向けた。


しかし、ヤニスは動じず続けた。


「お前たちはこれを“殺気”と感じるかもしれないが、分かりやすく言葉にしよう。

俺もマイクも、お前の事をまだ信じてはいないが、この道の先でどうせ倒すべき相手なのだとすれば、このまま行動を共にするのが近道だ。


また、お前が言っている事が真実なのだとすれば、尚良しだ。

そして俺達人間は、お前達より空気を読むことは出来ないかもしれないが、発せられた言霊は“読める”。


特に、共に旅をするパーティーにおいて、隠し事は虚偽であり、偽りは裏切りに繋がることを、身を持って理解している。

お前の裏切りが明確になれば、俺達はすぐに首を跳ねる」


この言葉にパンは卒倒しかけるフリをした。

ヤニスの台詞が、余りにも現実離れしていたのであろう。


そしてパンは面白がり、ひとつの問いを投げ掛けた。


「お前らが真に言霊を読めるとしよう。

ならば俺はこう言ってやろう。


カテリーニとは何だ?

ルカとは何だ?

お前らは俺に騙されて、ヘラクレス“様”の用意した処刑場へと連れて行かれるだけだ」


途端にヤニスとマイクは剣を抜き、パンの喉元を刃で押し当て、地面へと叩き付けた。


しかしパンは微塵も動じず、二人をそれぞれ睨みつけながら言葉を吐いた。


「な?

お前等は結局首を切らん。

威嚇するだけだ。

ではこの押問答に何の意味がある?」


ヤニスは剣を仕舞いながら、自らの想いを付け加えた。


「不器用かもしれんが、これでまた一つお前を信じる理由が出来た。

お前の言った“ヘラクレス様”には、何の意図も感じ取れなかった。

お前に刃を突き付けたのは、単に癇に障っただけだ。


創り上げるのが神ならば、築き上げるのが人間なんだよ。

分かれとは言わん」


 そして、何事も無かったかのように、一同は再び旅の歩みを進めた。


ネオの感情だけを置き去りにして……。


あのね…

この回…

すごく好き。


って言って貰いたい回。


【固定】

お読み頂きありがとうございました。 

評価やブックマークして頂けますと励みになります。

是非続きもお楽しみ下さい。


登場する名称一覧

 【キャラクター】

・カロス(ケンタウルス)

・エーレ(神の器?)

・ヤニス(エーレの父に返り咲いた男)

・マイク(伝説の英雄)

・レナ(ケンタウルスの女戦士)

・ターレス(ケンタウルスの族長)

・ソフィア(ケンタウルスの少女)

・アグノス(ケンタウルスの若い戦士)

・ルカ(マイクの息子)

・マートル(マイクの妻、ルカを産むと共に死去)

・ネオ(若い狩人)

・ミト(老いた狩人)

・ケイロン(ケンタウルスの英雄?)

・レア(大地の女神、レナの師)

・アキレウス(昔の英雄)

・アルカイオス(昔の英雄、後のヘラクレス)

・ヘラクレス(英雄の神、元アルカイオス)

・ネッソス(レナの父)

・アイネ(レナの母)

・ヘルメス(天界の死神)

・ヘルメスの使者(元ニンフの魂)

・タナトス(冥界の死神)

・ヒュプノス(タナトスの双子の弟、冥界の死神)

・モイラ(タナトスとヒュプノスの妹、複数の人格を持つ?)

・狭間の獣(タナトスの下僕)

・ニンフ(精霊の総称)

・サテュロス(笛を吹く半人半獣)

・パン(ニンフ殺し、ヘルメスの使い)

・女(ヴィーナス、ルカの意思に語りかける謎の女)

・エコー(山の精霊。カロスに恋をする木霊)


【場所・他】

・ミリア(エーレが住む山奥の町)

・カテリーニ(マイクが住む海の近くの町)

・パライオ(山の入口の町)

・レアの泉(女神の泉)

・ピエリア(ミリアから山を超えた先)

・モスコホリ(ミリアの隣町)

・ヘスティア(ケンタウルス達が集う場所)

・アルゴリス(アテネより南に位置する、ヒドラの住まう場所)

・スパルタ(ヤニスやマイクが属した勢力)

・アテネ(スパルタの敵対勢力)

・天界(天空の世界)

・冥界(地底の世界)

・禁則の地(天界と繋がる場所)

・イボヴォリ(ケンタウルスの園にそびえる大樹)

・ヒドラ(九つの首を持つ毒蛇)

・パピルス紙(古代に於いて使われた植物性の紙)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ