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〜狂気と無我〜

 物語はエーレの力の核心へと迫る。

神の世界でも珍しき、狂気と無我の力とは。

【固定】

始めまして、三軒長屋サンゲンナガヤ 与太郎ヨタロウです。

ゆっくりと物語の中の世界を、楽しんで頂けると幸いです。

後書きに名称一覧がありますので、ご活用下さい。


 女神レアは、エーレの質問に対してすぐには答えず、先ずゆっくりと全員を見渡した。


どうやらこの返答はエーレだけではなく、皆に重要な意味を持つようだ。


「それに関して、私も最初は同じ様に感じていた。

しかし、先程聞いた“俯瞰視”がお前のマギアであれば、パンとは全く違う能力だ」


エーレは、何となくホッとした。


「正確な答えを導き出すためにも、先ずはお前に起きた事象を、私達により詳しく説明してくれるか?」


「分かりました」と小さく頷き、エーレは自らの体験した三つの出来事を皆に説明した。


「最初はカテリーニを出る前の日に見た夢の中でした……」


最初に、マイクが森でサテュロス(今はこれがパンであったと判明)と出会った話を聞いた晩に見た夢の中でのこと。


二回目は、カテリーニからミリアへ向かう道中、沢山の影(狭間の獣)に襲われた時に、レアの泉への逃げ道を見つけた時のこと。


そして三回目は、つい先程、ペガサスの子の蹄に隠された力の輝きを見つけたこと……。


「ずっとケイロンさんが力を貸してくれているのだと思っていたの。

心の中で話しかけられる声が、森で会った小さな梟の声とまったく一緒だったから……」


エーレの口から告げられる詳細な真実に、カロスとレナは目を見合わせた。


女神レアは何かを考察するように、顎の先に指を添わせ、目を細めていた。


「一番最初に、夢の中で見た周りの景色を、覚えている限りで具体的に聞かせてくれるか?」


エーレはもう一度カテリーニで見た夢のことを頭に思い浮かべ、出来る限り詳しく伝えた。


森に囲まれた綺麗な湖畔であったこと……。


湖の対岸に大樹があり、その根元に白い神殿が建っていたこと……。


これにカロスとレナは分かりやすく驚いてみせた。


それは正に、ケンタウルスたちが集うオイコスで相違なかった。


しかし何故、訪れたことなどあるはずもない人間が、事細かにオイコスの情景を言い表せられるのか……。


ここに、二体のケンタウルスは驚き、そして畏怖を憶えた。


しかし、女神レアの反応はケンタウルスたちとは少し違い、一歩ずつ答えに近付いているようであった。


「お前が辺りを俯瞰視している時、周りの景色はどう映っている?」


「なんとなくぼんやりと色褪せていて、時間もゆっくり流れている感じです。

でもさっきは違って、ペガサス以外は完全に静止していたし、世界も白黒でした」


「不味いな……」


女神レアは不穏な言葉を漏らした。


一同は不安げに、目を閉じて熟考する女神の顔を覗き込んだ。


「私と親しき者に、お前と同じような事を言っている奴がいた。

しかし、何故か今、そいつの顔や名前を思い出せぬ。

これは実に不吉だ……」


「私の力は良くない力なのですか?」


ふとエーレは実に人間らしく、目の前の女神様に救いを求めた。


「良くない事はない……。

だが私の考えが正しいのであれば、お前はより人間らしからぬ存在に近づいてしまう。

それでも聞くか?」


ここ迄来たら引き下がる足は持っていなかった。


エーレは間を置かず、女神を見上げながら深く頷いた。


「先程説明したマギアにおける六段階の性質。

その中でも特異とされているのが“狂気”と“無我”だ。

己自身に対して、無敵ともいえる絶大な力を発揮するのが狂気であり、己自身を捨てることで、世界の理を歪めかねない力を発揮するのが無我。


この二つの力は、お互いに最も相反する特徴を持ち、また、この二つの力を使い熟した者は、良くも悪くも、歴史に名を刻んだ者達ばかりだ。

狂気を抑えられるのは無我だけであり、無我を破壊しうるのも狂気だけだ。


恐らくではあるが、お前のマギアは無我に属している。

この私ですら、無我に属する者などほとんど知らぬほどの、極めて稀有な能力であり、お前のその力は“予言”や“予知”に似ているのだ」


女神レアの言葉を聞いた瞬間、カロス、それに次いでレナが立ち上がり走り出そうとした。


「待て!」


女神レアは二体のケンタウルスの背中に、強い言葉を浴びせて動きを止めた。


「仮にエーレの力が予知であった場合、エーレが近づかない限りオイコスは安全だ。

万が一に予言であった場合は、遅かれ早かれ起きうる事であり、今お前達がオイコスへ向かっても何も変わらぬ」


その言葉を受けて、カロスとレナは再び女神の方へと向き直り、今までより明確な畏怖の念を宿らせた瞳で、エーレを見つめた。


どうやらエーレの力は、“良くない事はない”という、実に際どい領域の力であった。


 予知と予言は同じ様で全く意味が違うのです。

予知とは読んで字の如く、予見して知る事が出来る力であり、予言とは言葉にする事で、予見を必ず起こり得る未来へと歪める力。

皆様がよく耳にする〝予言者〟の殆どは〝予見者〟の間違いであり、真の予言者の言葉から、逃れる事は神にすら困難なのです。


【固定】

お読み頂きありがとうございました。 

評価やブックマークして頂けますと励みになります。

是非続きもお楽しみ下さい。


登場する名称一覧

 【キャラクター】

・カロス(ケンタウルス)

・エーレ(神の器?)

・ヤニス(エーレの父に返り咲いた男)

・マイク(伝説の英雄)

・レナ(ケンタウルスの女戦士)

・ターレス(ケンタウルスの族長)

・ソフィア(ケンタウルスの少女)

・アグノス(ケンタウルスの若い戦士)

・ルカ(マイクの息子)

・マートル(マイクの妻、ルカを産むと共に死去)

・ネオ(若い狩人)

・ミト(老いた狩人)

・ケイロン(ケンタウルスの英雄?)

・レア(大地の女神、レナの師)

・アキレウス(昔の英雄)

・アルカイオス(昔の英雄、後のヘラクレス)

・ヘラクレス(英雄の神、元アルカイオス)

・ネッソス(レナの父)

・アイネ(レナの母)

・ヘルメス(天界の死神)

・ヘルメスの使者(元ニンフの魂)

・タナトス(冥界の死神)

・狭間の獣(タナトスの下僕)

・ニンフ(精霊の総称)

・サテュロス(笛を吹く半人半獣)

・パン(ニンフ殺し、ヘルメスの使い)

・女(ヴィーナス、ルカの意思に語りかける謎の女)

・エコー(山の精霊。カロスに恋をする木霊)


【場所・他】

・ミリア(エーレが住む山奥の町)

・カテリーニ(マイクが住む海の近くの町)

・パライオ(山の入口の町)

・レアの泉(女神の泉)

・ピエリア(ミリアから山を超えた先)

・モスコホリ(ミリアの隣町)

・ヘスティア(ケンタウルス達が集う場所)

・アルゴリス(アテネより南に位置する、ヒドラの住まう場所)

・スパルタ(ヤニスやマイクが属した勢力)

・アテネ(スパルタの敵対勢力)

・天界(天空の世界)

・冥界(地底の世界)

・禁則の地(天界と繋がる場所)

・イボヴォリ(ケンタウルスの園にそびえる大樹)

・ヒドラ(九つの首を持つ毒蛇)

・パピルス紙(古代に於いて使われた植物性の紙)

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