〜精霊の歌声〜
ペガサスの蹄を媒体とし、今再びレアの泉が現れる!?
【固定】
始めまして、三軒長屋 与太郎です。
ゆっくりと物語の中の世界を、楽しんで頂けると幸いです。
後書きに名称一覧がありますので、ご活用下さい。
ペガサスの前脚が、強く地面を蹴りつけた瞬間、どうだろうか。
蹄と大地の間から、大量の水が溢れ出し、瞬く間に、女神レアの形を創り上げた。
エコーも、ケンタウルス達も、そして指示を出したエーレも、これには驚いた。
姿を現した女神レアは、そんな一同の様子を一切気に留めず、あたかも最初から其処に居たかのように語りだした。
「久し振りではないかエコー。
よもやこんな所へ隠れていたとはな」
女神レアはそう言うと、おもむろに一滴の水を大樹の根元へと飛ばした。
すると、小さな何かが割れる音がした。
エコーは言葉を木霊させる事なく、表情を模していた大量の葉っぱは、吊り上がった目尻を垂らした後に、そのまま地面へと崩れ去った。
「よく気づいたなエーレ。
実はこのペガサスの子の蹄を、私の泉と繋げていたのだ」
「分かりません」
エーレは素直に答えた。
「多分ケイロンさんの力だと思うんですが。
目を瞑ると周りを俯瞰して見られる様になって、今すべき事のヒントになる場所が、ひときわ輝いて見えるんです。
以前も同じ事がありました」
エーレの言葉に女神レアは眉を顰めた。
「はてさて、ケイロンにそのような力は無いはずだが……。
まあ……今は良い。
それよりも、万が一の時を思っての備えであったが、まさかこんなに早く出てくる羽目になるとは、一体お前達は何をしているのだ?」
女神レアの言葉に、ケンタウルス達は立場を失い狼狽えた。
「それにエコーよ。
お前の身体は我が母によって治された筈だ。
この私が姿を現している今、お前も姿を現すのが筋であろう」
女神レアが大樹に喋り掛けると、木の根と蔦の隙間から、それは小さくて可愛らしい精霊が現れた。
エーレの掌より辛うじて大きいであろう精霊は、全身を白く光らせながら、もじもじと恥ずかしげにカロスの脚にしがみついた。
「おやおや、随分と可愛らしくなったではないかエコー。
なるほど……、確かにその姿では、ニンフの威厳も有って無いようなものだ。
それでこの大樹を宿にしていたのだな」
小さな精霊は、それはそれは小さくコクリと頷いた。
カロスやレナもこの事実は知らなかった様で、足元に現れた可愛らしい精霊の動きを、目を見開いて追っていた。
「さて私は決して長話をしに来た訳では無い。
出来損ないのケンタウルスの尻拭いに来ただけだ」
カロスとレナは益々立場を失い、其々に仕舞い損ねた剣を持て余していた。
「エコーよ。
おおよその事情は聞いたのであろう?
これは森に住む者達、全ての危機なのだ。
本来のお前はとても強き精霊だ。
力の一部を失ったとはいえ、こんな瘴気を取り祓うなど、朝飯前であろう?
協力してくれるな?」
エコーはまた小さくコクリと頷くと、精霊にとっては遥か上空にあるカロスの顔を見上げた。
意図を察したカロスは前脚を折ってしゃがむと、自らの掌に精霊を乗せ、瘴気に取り憑かれている肩へと近付けた。
精霊は、瘴気に手をかざしながら、歌を唄い始めた。
紡ぎ出される言語は聞き覚えがなく、殆どハミングではあったが、その余りにも素晴らしい歌声に、エーレの心は震えた。
先ほど辺りを俯瞰して見た時とは真逆に、今度は目に映る情景の色彩全てが、一気に艶やかに光るのを感じた。
花の赤はより赤く、空の青はより青く、影の黒さえも艶光り、景色全体が綺羅びやかに輝いて見えたのだ。
途端にカロスの肩の瘴気は、弾け飛ぶ様に消え去った。
「これは驚いた。
まさかこれ程までの力とは……。
未完成の詩でコレだ。
自らの言葉を取り戻せば、私の泉の力をも凌駕する筈だ」
女神レアですら慄く力。
世界の色彩を変える程の力。
エコーの力は、全員の予想以上であった。
本来精霊の力はそれは強力です。
其れ故に、恐れられてもいたのです。
特に色欲に関しては、数え切れない程の男性が被害に遭いましたとさ。
【固定】
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登場する名称一覧
【キャラクター】
・カロス(ケンタウルス)
・エーレ(神の器?)
・ヤニス(エーレの父に返り咲いた男)
・マイク(伝説の英雄)
・レナ(ケンタウルスの女戦士)
・ターレス(ケンタウルスの族長)
・ソフィア(ケンタウルスの少女)
・アグノス(ケンタウルスの若い戦士)
・ルカ(マイクの息子)
・マートル(マイクの妻、ルカを産むと共に死去)
・ネオ(若い狩人)
・ミト(老いた狩人)
・ケイロン(ケンタウルスの英雄?)
・レア(大地の女神、レナの師)
・アキレウス(昔の英雄)
・アルカイオス(昔の英雄、後のヘラクレス)
・ヘラクレス(英雄の神、元アルカイオス)
・ネッソス(レナの父)
・アイネ(レナの母)
・ヘルメス(天界の死神)
・ヘルメスの使者(元ニンフの魂)
・タナトス(冥界の死神)
・狭間の獣(タナトスの下僕)
・ニンフ(精霊の総称)
・サテュロス(笛を吹く半人半獣)
・パン(ニンフ殺し、ヘルメスの使い)
・女(ヴィーナス、ルカの意思に語りかける謎の女)
・エコー(山の精霊。カロスに恋をする木霊)
【場所・他】
・ミリア(エーレが住む山奥の町)
・カテリーニ(マイクが住む海の近くの町)
・パライオ(山の入口の町)
・レアの泉(女神の泉)
・ピエリア(ミリアから山を超えた先)
・モスコホリ(ミリアの隣町)
・ヘスティア(ケンタウルス達が集う場所)
・アルゴリス(アテネより南に位置する、ヒドラの住まう場所)
・スパルタ(ヤニスやマイクが属した勢力)
・アテネ(スパルタの敵対勢力)
・天界(天空の世界)
・冥界(地底の世界)
・禁則の地(天界と繋がる場所)
・イボヴォリ(ケンタウルスの園にそびえる大樹)
・ヒドラ(九つの首を持つ毒蛇)
・パピルス紙(古代に於いて使われた植物性の紙)