〜燃えたぎる嫉妬〜
エコーの宿る大樹へと向かう一同。
無事瘴気は祓えるのか。
【固定】
始めまして、三軒長屋 与太郎です。
ゆっくりと物語の中の世界を、楽しんで頂けると幸いです。
後書きに名称一覧がありますので、ご活用下さい。
なだらかな上り坂を進み続け、一同は目的の大樹の近くへと辿り着いた。
間もなくといったところで、カロスは準備のために立ち止まった。
それは皆の、そして何よりも自分自身の心の準備に費やす時間であった。
そして後ろの二人を振り返ることなく、少し強い口調で語りかけた。
「この先の木々が開けた場所に、エコーの宿る大樹がある。
さっきレナが言った通り、エコーはとても嫉妬深い精霊だ。
だが、一部伝承とは違う部分もある。
君たちは少し離れた所にいてくれ」
そう言いながら、カロスは自らの心臓に手のひらを添えて、ひとつ深呼吸をした。
「それからエーレ。
君はエコーの“言葉”を聞き続けると、気持ち悪くなってしまうかもしれない。
私ですらすべてが解るわけではないし、初めて出会った時のことなど、思い出したくもないくらいだ。
なんとも難しい話なのだが、彼女の“言葉”はあまり気にしすぎないようにしてくれ」
そう言い終えると、カロスはゆっくりと歩みを進め、森の茂みから外へと出た。
そこは辺りを見渡せる尖った崖の上であり、その先端に、確かに一本の大樹が根を張っていた。
大樹というよりは、数多の蔦が複雑に絡み合うことで大樹の形を成しているようであり、山間の町で育ったエーレですら、初めて目にする植物だった。
魅入られるように歩みを進めようとしたエーレの身体を、スッとレナが右腕で制した。
「これより先は危ないわ。
異様な気配を感じる。
彼女、相当怒ってるみたいよ……」
レナの顔には心配よりも、どこか悪戯めいた喜びが浮かんでいた。
「やあ、エコー……。
久しぶりだな。
その……まあ……元気だったかい?」
カロスが大樹に向かって語りかけた途端、崖の上に突風が吹き荒れた。
一同の身体に吹きつける風に乗って、返事が返ってきた。
「やあ、エコー。
久しぶりだな。
その、まあ、元気だったかい?」
それはまさしく木霊であり、女神レアが言っていた『真似事エコー』の名の通りであった。
もちろん、エーレに返事の意味など分からなかったし、こんな様子で会話など成り立つのだろうかという疑問だけが脳裏に浮かんだ。
しかし、カロスは何らかの原理で、あまり問題にしていない様子であった。
「違うんだ、エコー……。
私が自ら海岸の聖域に向かったわけではない。
この瘴気を付けたのは、エルメスの使者に成り果てた狭間の獣だ。
それくらいは分かるだろ?」
「違うんだ、エコー。
私が自ら海岸の聖域に向かったわけではない。
この瘴気を付けたのは、エルメスの使者に成り果てた狭間の獣だ。
それくらいは分かるだろ?」
「証拠なんてあるわけないだろう。
しかし私は森を出てなどいない。
とにかく今が隙だし、急いでいるんだ。
頼むからこの瘴気を払ってくれ」
「証拠なんてあるわけないだろう。
しかし私は森を出てなどいない。
とにかく今が隙だし、急いでいるんだ。
頼むからこの瘴気を払ってくれ」
こんな会話が何度も繰り返された。
カロスの言葉が投げかけられるたびに突風が吹き荒れたし、精霊の声は、やけにエーレの頭の中で響いた。
しかし何よりも、ただ同じ言葉が繰り返される現象に、カロスの言葉通り、エーレは次第に気持ちが悪くなっていった。
「都合が良いってのは重々分かってるさ。
でも今は君だけが頼りなんだ、エコー……」
カロスがなんとも情けない台詞を吐いた瞬間、一際強い突風が吹き荒れると、大樹の葉が空中に密集し、大きな顔を創り出した。
エーレの想像していた“精霊”とは遠くかけ離れた、なんとも禍々しい容姿であった。
「都合が良いってのは重々分かってるさ。
でも今は君だけが頼りなんだ、エコー」
木霊した言葉は今までとはどこか雰囲気が違い、カロスの声色よりワントーン低く、大量の葉で模られた二つの吊り上がった目は、確実にエーレを睨んでいた。
カロスは苦々しい表情を浮かべながらエーレを振り返り、目を合わさないように見つめた。
エコーとカロスの間で、自分という存在が今まさに争点になっていることを、エーレは感じざるを得なかった。
木霊する台詞は、皆様の自由に想像して下さい。
但し、よりヒステリックに。
片手にナイフ持ってる位のイメージで。
【固定】
お読み頂きありがとうございました。
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是非続きもお楽しみ下さい。
登場する名称一覧
【キャラクター】
・カロス(ケンタウルス)
・エーレ(神の器?)
・ヤニス(エーレの父に返り咲いた男)
・マイク(伝説の英雄)
・レナ(ケンタウルスの女戦士)
・ターレス(ケンタウルスの族長)
・ソフィア(ケンタウルスの少女)
・アグノス(ケンタウルスの若い戦士)
・ルカ(マイクの息子)
・マートル(マイクの妻、ルカを産むと共に死去)
・ネオ(若い狩人)
・ミト(老いた狩人)
・ケイロン(ケンタウルスの英雄?)
・レア(大地の女神、レナの師)
・アキレウス(昔の英雄)
・アルカイオス(昔の英雄、後のヘラクレス)
・ヘラクレス(英雄の神、元アルカイオス)
・ネッソス(レナの父)
・アイネ(レナの母)
・ヘルメス(天界の死神)
・ヘルメスの使者(元ニンフの魂)
・タナトス(冥界の死神)
・狭間の獣(タナトスの下僕)
・ニンフ(精霊の総称)
・サテュロス(笛を吹く半人半獣)
・パン(ニンフ殺し、ヘルメスの使い)
・女(ヴィーナス、ルカの意思に語りかける謎の女)
・エコー(山の精霊、木霊)
【場所・他】
・ミリア(エーレが住む山奥の町)
・カテリーニ(マイクが住む海の近くの町)
・パライオ(山の入口の町)
・レアの泉(女神の泉)
・ピエリア(ミリアから山を超えた先)
・モスコホリ(ミリアの隣町)
・ヘスティア(ケンタウルス達が集う場所)
・アルゴリス(アテネより南に位置する、ヒドラの住まう場所)
・スパルタ(ヤニスやマイクが属した勢力)
・アテネ(スパルタの敵対勢力)
・天界(天空の世界)
・冥界(地底の世界)
・禁則の地(天界と繋がる場所)
・イボヴォリ(ケンタウルスの園にそびえる大樹)
・ヒドラ(九つの首を持つ毒蛇)
・パピルス紙(古代に於いて使われた植物性の紙)