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〜我々が進む道の先〜

 夜が開けて、再度無花果の回りに集まる一同。

パンの質問に答えながら、ネオがその示される行き先を紐解く。


【固定】

始めまして、三軒長屋サンゲンナガヤ 与太郎ヨタロウです。

ゆっくりと物語の中の世界を、楽しんで頂けると幸いです。

後書きに名称一覧がありますので、ご活用下さい。


 翌朝、目を覚ましたマイクとヤニスとネオは、テーブルで突っ伏していた二人を起こした。


「何だ……。

まだ朝ではないか。

出発は昼でも良かろう」


パンは嫌味を言いながら大欠伸をかまし、アグノスはこめかみを押さえて小さく唸った。


「町の皆の……それに俺の息子の命がかかってるんだ。

お前たちが頼りなんだぞまったく……。

軽く一週間分の麦酒を飲み干しやがって」


マイクは酒樽の中身を覗き込みながら悪態をついた。


「今ここにはそれを呑む人間がいないんだ。

ケチケチするな」


パンは感謝の欠片も見せず、けだるそうに家の外へと出た。


アグノスはネオに差し出された水を一気に飲み干し、「ありがとう」と礼を手向けた。


「奴は“自分以外に対する気持ち”というものが欠落しているのだ。

ある程度は諦めてくれ。

それにネオ、どうやら君は、奴にかなり気に入られたらしい。

とても珍しいことだ。

喜びなさい」


空のグラスと共に渡されたアグノスの言葉に、ネオは隠す素振りも見せずに顔を顰めた。


一同が外へと出ると、パンは乾燥無花果が落ちていた場所にしゃがんでいた。


皆が近づくと、パンはおもむろに質問した。


「おいネオ……。

お前は昨晩、この無花果を見て、なぜルカの意思が込められていると感じたのだ?」


急な名指しの質問に、ネオはたじろぎながらも、ありのままに答えた。


「そんなの俺にも分からないよ。

ただなんとなくそう感じただけさ」


「それは今も感じるか?」


パンは立て続けに問いかけた。


ネオはこれを不快に感じながらも、地面に落ちた無花果を見つめながら答えた。


「ああ、感じるよ。

しかも……昨日より強く感じるような気がする」


「ほぉ」と、またしてもパンは興味深そうにネオを見つめ、ネオはそれを露骨に嫌がった。


「どういうことだ?」


今度はマイクがパンに訊ねた。


パンは黒目だけをマイクに向けて、それに答えた。


「ネオの言う通り、無花果から感じる意思が昨日より強くなっている。

ほんの少し触っただけの物に、これだけ強い意思を宿すとは……お前の息子は一体何者だ?」


マイクは嬉しいやら何やら分からない気持ちであった。


「ルカは幼い頃から、あらゆる事に非凡な才能を発揮していた。

こと狩りに関しては、既に俺よりも上手いだろうし、教えてこそいないが、仮に戦士としても叩き込めば直ぐさま一流になるだろう。

この俺すら霞むほどにな。

いや、もしかしたら、既に自力でその域にいるやも知れん」


「そんなにもか!?」とヤニスは驚いた。


マイクの息子として特に気にせず接していたため、ヤニスはそこまでルカを注視していなかった。


「俺の息子だぞ? 当たり前だ。

事実アイツは俺の“躾”を往なしてやがる。

この俺にバレないよう気を使いながらな。

まったく、自分の息子ながら癇に障るやつだよ」


悪態をつきながらも、マイクはどこか嬉しそうだった。


パンはそんな会話になど興味がないようで、やはり矛先はネオに向けられていた。


「おいネオ……。

この無花果の道標は、どこへ向かっている?」


ネオは終わらぬ質問攻めに、さらに酷く嫌な顔をしたが、「待ってね」と言いながら無花果を挟んでパンの対面にしゃがみ込むと、一度まぶたを強く閉じ、そして真剣な眼差しで無花果を見つめ直した。


しばらくの沈黙が流れた……。


マイクとヤニス、それにアグノスも何が行われているのか理解できず、不思議そうにネオと無花果を交互に見やった。


パンはネオから目を離さなかった。


「道標の行き先はアテネ……いや……アテネの先だ。

残念だけど、俺は行ったことのない場所だから分からないや。

でもなんだか(付いてこい)じゃなくて(そこに来い)って感じだね。

不思議なんだけど(自分たちの後は追わずに、皆はこっちへ向かって)って感じ。

昨日パンも言っていたけど、確かに(助けてくれ)とは全然違う意図に感じるよ」


そう言うとネオは目頭を押さえながら、再度まぶたを強く閉じた。


「上出来だぜ」と、パンは実に嬉しそうに立ち上がった。


ネオ以外の全員が、パンを見つめた。


「お前の息子は、俺たちをとんでもない所へ案内しようとしているぞ、マイク。

この無花果の道標が示す先は『アルゴリス』。

こいつは俺たちを、ヒュドラーと戦わせたいらしい。

……どうする?」


マイクとヤニス、さらにアグノスも大いに驚き、ネオは肩を大きく落として、やはり自分の運命を呪った。


 マイクの言う〝躾〟は愛のある拳です。

ネオもよく頂戴しております。

ネオは往なせません。

訴えないで上げて下さい。



【固定】

お読み頂きありがとうございました。 

評価やブックマークして頂けますと励みになります。

是非続きもお楽しみ下さい。


登場する名称一覧

 【キャラクター】

・カロス(ケンタウルス)

・エーレ(神の器?)

・ヤニス(エーレの父に返り咲いた男)

・マイク(伝説の英雄)

・レナ(ケンタウルスの女戦士)

・ターレス(ケンタウルスの族長)

・ソフィア(ケンタウルスの少女)

・アグノス(ケンタウルスの若い戦士)

・ルカ(マイクの息子)

・マートル(マイクの妻、ルカを産むと共に死去)

・ネオ(若い狩人)

・ミト(老いた狩人)

・ケイロン(ケンタウルスの英雄?)

・レア(大地の女神、レナの師)

・アキレウス(昔の英雄)

・アルカイオス(昔の英雄、後のヘラクレス)

・ヘラクレス(英雄の神、元アルカイオス)

・ネッソス(レナの父)

・アイネ(レナの母)

・ヘルメス(天界の死神)

・ヘルメスの使者(元ニンフの魂)

・タナトス(冥界の死神)

・狭間の獣(タナトスの下僕)

・ニンフ(精霊の総称)

・サテュロス(笛を吹く半人半獣)

・パン(ニンフ殺し、ヘルメスの使い)

・女(ヴィーナス、ルカの意思に語りかける謎の女)


【場所・他】

・ミリア(エーレが住む山奥の町)

・カテリーニ(マイクが住む海の近くの町)

・パライオ(山の入口の町)

・レアの泉(女神の泉)

・ピエリア(ミリアから山を超えた先)

・モスコホリ(ミリアの隣町)

・ヘスティア(ケンタウルス達が集う場所)

・アルゴリス(アテネより南に位置する、ヒドラの住まう場所)

・スパルタ(ヤニスやマイクが属した勢力)

・アテネ(スパルタの敵対勢力)

・天界(天空の世界)

・冥界(地底の世界)

・禁則の地(天界と繋がる場所)

・イボヴォリ(ケンタウルスの園にそびえる大樹)

・ヒドラ(九つの首を持つ毒蛇)

・パピルス紙(古代に於いて使われた植物性の紙)

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