〜 νῦ (ニュー)〜
真っ白い空間で、謎の女性から語られる成り行き。
そこでルカに、優しく過酷な使命が下されるのであった。
【固定】
始めまして、三軒長屋 与太郎です。
ゆっくりと物語の中の世界を、楽しんで頂けると幸いです。
後書きに名称一覧がありますので、ご活用下さい。
どれほどの間見惚れていたのか、ルカは不意に正気を取り戻した。
あまりにも非現実的な今の有様に戸惑い、何かを尋ねようとしたが、何から聞けばいいのか見当もつかず、青年らしい不器用な言葉を発した。
「どうも……あの……僕はルカです。
あなたはどなたで、ここはどこなのでしょうか?
これは僕の夢なんですか?」
ルカには、女性がにっこりと笑ったように感じられた。
「知っているわ、ルカ。
とてもよく知っている。
でも、今のあなたは何もわからなくていいの。
これから私が話すことだけ、素直に聞いてくれるかしら?」
その優しい声の響きに、ルカの胸は静かに震えた。
そして成す術もなく、こくりと頷いた。
ルカの首の動きを見届けて、女は包み込むように語り始めた。
「ここは、私が創り出した場所。
あなたたちのいる世界とは別の空間だと思ってくれて構わないわ。
そこへ、あなたの“意識だけ”を連れてきたの。
本当のあなたは、今も家の椅子で眠ったまま。
だから“夢”だと言っても、間違いではないわね。
あなたはこれから、町の人たちと一緒にアテネへ向かうことになる。
“連れて行かれる”というよりも、あなた自身の足で、町の人々とともに“自ら”向かうの」
ルカは何ひとつ理解できないまま、ただ言葉を必死に記憶しようと努めた。
「町の人々、そしてあなた自身の意思は、今、ヘラクレスに操られています。
……名前は、聞いたことあるでしょう?」
ルカは礼儀正しく頷いた。
「神々が人間や地上界の生き物たちを操るためには、その対象の“心の半分”を支配しなければならないの。
いかに神といえども、同時に何人も操るのはとても難しい。
でも、さすがはヘラクレス——それをやってのけた。
とはいえ逆に言えば、“心を半分以上支配できない相手”、つまり“心の強き者”は、ヘラクレスといえども簡単には操れない。
そんな相手には、さらに強く、深く支配を及ぼすの。
心の反発に打ち勝つようにね。
実際、マイクの馬や犬たち、狩人たちは、より強く支配されている。
ミトに至っては……身体が心配になるほどよ」
「……僕も、ですか?」
ルカは聞き続けるばかりの状況に耐えかねて、つい問いを口にしてしまった。
「あら、約束を破るのかしら?
いけない子ね」
ルカはハッとして、やや顔を伏せながら上目で女性を見た。
だがその顔に怒りはなく、むしろ嬉しそうな、やわらかな感情の揺らぎが感じられた。
「でも、いい質問だったわね、ルカ」
女はやさしく微笑みながら、話を続けた。
「心が強すぎる者、あるいは“心そのものが掴めない存在”——
そういった者には、どんな神であっても支配はできない。
それほどまでに、“ひとつの生命に宿る意思”というものは、強大なの。
だからこそヘラクレスは、あなたを利用してカテリーニの中の“操れぬ三人”、
マイク・ヤニス・ネオを町の外へ向かわせたの。
まずはあなたをアテネに連れて行く。
そうすれば遅かれ早かれ、マイクたちも後を追ってアテネへ向かう。
……そういう算段ね」
まさかネオが?と、ルカの頭に疑問符が浮かんだ。
だが今度こそ、ルカは“約束”を守り抜こうと、耐えた。
「でも今、ヘラクレスは大きな誤算を犯しているの。
彼はカテリーニの中に(三つの支配できぬ心)を感じ取った。
だからこそ、あの三人を追い出した。
……けれど残念ながら、ネオは“強き心の持ち主”ではないわ」
“やっぱりだ!”と声が漏れそうになり、ルカは慌てて口を手で塞いだ。
その姿を見て、女はついにくすりと微笑んだ。
そして和やかに語りかけた。
「ネオはね、あの子は“心の強き者”ではなく、“心が掴めない者”。
彼の中に流れる血は、地上界のものでも、神のそれでもない」
ネオが“人間ではない”かのような言葉に、ルカは眉をひそめた。
「そして、カテリーニの中で最も“心の強い者”は……、
マイクでも、ヤニスでもない。
……あなたなのよ、ルカ」
ルカはさらに眉をひそめ、驚きに目を見開いた。
「あなたはこれから、自らの身体へと戻り、ヘラクレスを欺きながら、マイクたちをアテネの先——
『アルゴリス』へと導かなければならない……。
そこには今や、首を五十まで増やした『ヒュドラー』が待っている。
……“あの沼”のほとりでね」
様々な感情が交錯するルカの表情は、もはや言葉では言い表せないものとなっていた。
ネオ人間じゃなかったぁぁぁ!
そうなんです!
ネオはアイツとアレの子供なんです。
アイツはまだ気付いて居ませんが、アレは優しく見守っているのかも知れません。
【固定】
お読み頂きありがとうございました。
評価やブックマークして頂けますと励みになります。
是非続きもお楽しみ下さい。
登場する名称一覧
【キャラクター】
・カロス(ケンタウルス)
・エーレ(神の器?)
・ヤニス(エーレの父に返り咲いた男)
・マイク(伝説の英雄)
・レナ(ケンタウルスの女戦士)
・ターレス(ケンタウルスの族長)
・ソフィア(ケンタウルスの少女)
・アグノス(ケンタウルスの若い戦士)
・ルカ(マイクの息子)
・マートル(マイクの妻、ルカを産むと共に死去)
・ネオ(若い狩人)
・ミト(老いた狩人)
・ケイロン(ケンタウルスの英雄?)
・レア(大地の女神、レナの師)
・アキレウス(昔の英雄)
・アルカイオス(昔の英雄、後のヘラクレス)
・ヘラクレス(英雄の神、元アルカイオス)
・ネッソス(レナの父)
・アイネ(レナの母)
・ヘルメス(天界の死神)
・ヘルメスの使者(元ニンフの魂)
・タナトス(冥界の死神)
・狭間の獣(タナトスの下僕)
・ニンフ(精霊の総称)
・サテュロス(笛を吹く半人半獣)
・パン(ニンフ殺し、ヘルメスの使い)
【場所・他】
・ミリア(エーレが住む山奥の町)
・カテリーニ(マイクが住む海の近くの町)
・パライオ(山の入口の町)
・レアの泉(女神の泉)
・ピエリア(ミリアから山を超えた先)
・モスコホリ(ミリアの隣町)
・ヘスティア(ケンタウルス達が集う場所)
・スパルタ(ヤニスやマイクが属した勢力)
・アテネ(スパルタの敵対勢力)
・天界(天空の世界)
・冥界(地底の世界)
・禁則の地(天界と繋がる場所)
・イボヴォリ(ケンタウルスの園にそびえる大樹)
・ヒドラ(九つの首を持つ毒蛇)
・パピルス紙(古代に於いて使われた植物性の紙)
【固定】
お読み頂きありがとうございました。
評価やブックマークして頂けますと励みになります。
是非続きもお楽しみ下さい。
登場する名称一覧
【キャラクター】
・カロス(ケンタウルス)
・エーレ(神の器?)
・ヤニス(エーレの父に返り咲いた男)
・マイク(伝説の英雄)
・レナ(ケンタウルスの女戦士)
・ターレス(ケンタウルスの族長)
・ソフィア(ケンタウルスの少女)
・アグノス(ケンタウルスの若い戦士)
・ルカ(マイクの息子)
・ウェヌス(マイクの妻、ルカを産むと共に死去)
・ネオ(若い狩人)
・ミト(老いた狩人)
・ケイロン(ケンタウルスの英雄?)
・レア(大地の女神、レナの師)
・アキレウス(昔の英雄)
・アルカイオス(昔の英雄、後のヘラクレス)
・ヘラクレス(英雄の神、元アルカイオス)
・ネッソス(レナの父)
・アイネ(レナの母)
・ヘルメス(天界の死神)
・ヘルメスの使者(元ニンフの魂)
・タナトス(冥界の死神)
・狭間の獣(タナトスの下僕)
・ニンフ(精霊の総称)
・サテュロス(笛を吹く半人半獣)
・パン(ニンフ殺し、ヘルメスの使い)
【場所・他】
・ミリア(エーレが住む山奥の町)
・カテリーニ(マイクが住む海の近くの町)
・パライオ(山の入口の町)
・レアの泉(女神の泉)
・ピエリア(ミリアから山を超えた先)
・モスコホリ(ミリアの隣町)
・ヘスティア(ケンタウルス達が集う場所)
・アルゴリス(アテネより南に位置する、ヒドラの住まう場所)
・スパルタ(ヤニスやマイクが属した勢力)
・アテネ(スパルタの敵対勢力)
・天界(天空の世界)
・冥界(地底の世界)
・禁則の地(天界と繋がる場所)
・イボヴォリ(ケンタウルスの園にそびえる大樹)
・ヒドラ(九つの首を持つ毒蛇)
・パピルス紙(古代に於いて使われた植物性の紙)