〜白鳥の部屋〜
何者かの意思に操られるルカの元へも、一羽の白鳥が現れる。
そして物語の核へと迫り始める。
【固定】
始めまして、三軒長屋 与太郎です。
ゆっくりと物語の中の世界を、楽しんで頂けると幸いです。
後書きに名称一覧がありますので、ご活用下さい。
ルカのひと言をきっかけに、マイクとヤニスは忙しく動き始めた。
マイクに言われた準備を進めながら、ルカは心の中で（ネオも連れて行こうよ、親父）と念じた。
するとそれが通じたかのように、家の中の支度を一通り終えたマイクがルカに向かって言った。
「ネオも呼べ」
ルカは少し笑みを浮かべると、すぐさま家の外へと飛び出した。
小走りでネオの家へ向かうと、玄関先にネオの叔母がいた。
「おはようございます。ネオはいますか？」
「おはよう、ルカ。今日も朝から働き者だねぇ。うちのボンクラは、まだ夢の中さ」
「親父が呼んでるんです。ちょっと急ぎのようで……」
「マイクさんが？ それは大変！ 今すぐ叩き起こさなきゃ！」
そう言って叔母は家の中へと駆け込んでいき、ルカは待つことなく、また少し笑みを浮かべながら家へと戻っていった。
そして三頭の馬の準備を始めたところで、ネオが到着する——そんな流れであった。
「留守を頼むぞ」
マイクの一声とともに、三人は町を出ていった。
その背中を、ルカはじっと見つめていた。
すぐそこの森へ向かっただけなのに、まるでとても遠くへ行ってしまうような気がした。
けれど、その顔には今までよりも少し鮮やかな笑みが浮かんでいた。
三人の背中が見えなくなると、ルカは家の中へ戻り、椅子へと崩れ落ちるように座った。
特に何をしたわけでもないはずなのに、ひどい疲労と眠気に襲われた。
そのまま目を閉じると、ルカは深い眠りへと落ちていった。
どれほどの時間が経ったのか——
ルカは、またしても刹那の痛みに襲われた。
と同時に、どこかから声が聞こえた……ような気がした。
（ゆっくりと、ほんの少しだけ目を開けなさい）
それは、ルカにとってとても心地よい、優しい女性の声だった。
声に従って、ルカはゆっくりと、ほんの少しだけ目を開ける。
驚くべきことに、目の前のテーブルには、それは見事な大きな白鳥が、一羽、堂々と座っていた。
もちろん驚きはしたものの、それよりも身体のだるさと眠気のほうが勝っていて、ルカにはそれも夢の一部にしか思えなかった。
（一度こちらへ来なさい）
その声が白鳥から聞こえてくるのかどうかも、その意味すらもよくわからなかったが、ルカはわずかに開いたまぶたの隙間から、その目をじっと見つめていた。
次第に白鳥の輪郭がはっきりしてくると同時に、それ以外のすべてが高速で後ろへと流れ去り、ルカの意識は白鳥の中へと吸い込まれていった。
気がつくとルカは、境目のない真っ白な空間に、大の字で横たわっていた。
さっきまでの気怠さや眠気はすっかり消えていて、彼はしっかりと目を開けたまま、上半身を起こした。
腰と首を限界まで左にひねり、今度は右へと見渡す。
本当に、何もない空間だった。
正面へと身体を戻すと、そこに女が立っていた。
何もなかったはずの場所に、突然現れた女に、ルカは思わず声を上げそうになった。
女は神々しい光を纏い、わずか二歩先に立っているのに、その眩しさゆえに顔はぼんやりとしか見えなかった。
しかし、これまで見たどんな女性もかすんでしまうほどの、途方もない美しさを感じた。
ルカは口をぽかんと開けたまま、ただただ見惚れていた。
そうです。
ルカのお母さんです。
ルカのお母さんは女神ヴィーナス、またの名をアフロディーテ。
では何故地上界に、高名な天界の女神が居るのか？
それは半分お母さんで、半分違うからです。
そこはまだ内緒です。
お楽しみに。
【固定】
お読み頂きありがとうございました。
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是非続きもお楽しみ下さい。
登場する名称一覧
【キャラクター】
・カロス（ケンタウルス）
・エーレ（神の器？）
・ヤニス（エーレの父に返り咲いた男）
・マイク（伝説の英雄）
・レナ（ケンタウルスの女戦士）
・ターレス（ケンタウルスの族長）
・ソフィア（ケンタウルスの少女）
・アグノス（ケンタウルスの若い戦士）
・ルカ（マイクの息子）
・マートル（マイクの妻、ルカを産むと共に死去）
・ネオ（若い狩人）
・ミト（老いた狩人）
・ケイロン（ケンタウルスの英雄？）
・レア（大地の女神、レナの師）
・アキレウス（昔の英雄）
・アルカイオス（昔の英雄、後のヘラクレス）
・ヘラクレス（英雄の神、元アルカイオス）
・ネッソス（レナの父）
・アイネ（レナの母）
・ヘルメス（天界の死神）
・ヘルメスの使者（元ニンフの魂）
・タナトス（冥界の死神）
・狭間の獣（タナトスの下僕）
・ニンフ（精霊の総称）
・サテュロス（笛を吹く半人半獣）
・パン（ニンフ殺し、ヘルメスの使い）
【場所・他】
・ミリア（エーレが住む山奥の町）
・カテリーニ（マイクが住む海の近くの町）
・パライオ（山の入口の町）
・レアの泉（女神の泉）
・ピエリア（ミリアから山を超えた先）
・モスコホリ（ミリアの隣町）
・ヘスティア（ケンタウルス達が集う場所）
・スパルタ（ヤニスやマイクが属した勢力）
・アテネ（スパルタの敵対勢力）
・天界（天空の世界）
・冥界（地底の世界）
・禁則の地（天界と繋がる場所）
・イボヴォリ（ケンタウルスの園にそびえる大樹）
・ヒドラ（九つの首を持つ毒蛇）
・パピルス紙（古代に於いて使われた植物性の紙）
