〜火もなく音もなく〜
森の中で呑気に酒を呑む二体の化け物。
そこへ更に、二体の化け物と一人の青年が交わり宴が始まる。
【固定】
始めまして、三軒長屋 与太郎です。
ゆっくりと物語の中の世界を、楽しんで頂けると幸いです。
後書きに名称一覧がありますので、ご活用下さい。
マイクとヤニスは、酒盛りをする二体に近づくと、その道中で剣を抜き、地面に突き刺した。
それは、酒の場にそぐわぬ物は持ち入らないという、二人なりの敬意であった。
ネオは、それを見様見真似でなぞった。
二人は宴の円に加わり、その後ろに隠れるようにして、ネオも座った。
パンは思い出したように「麦酒は無いのか?」と尋ねたが、マイクは首を振った。
「すまないが、今回は荷車を使っていない」
パンは、ひどくガッカリした。
「あんな不味いものの何が良いんだよ。 お前達も葡萄酒で良いだろう? グラスはあるか?」
ケンタウルスの問いに、二人はそれぞれ水筒を取り出し、「果実酒ならたっぷり入っている」と笑って見せた。
ネオには、目の前の二人が、いつにも増して“化け物”に見えた。
麦酒がないことに退屈したパンは、その暇を潰すために、ネオに照準を合わせた。
「後ろの小僧は呑まないのか? 二人に隠れて、俺達の隙でも狙っているのか?」
ネオは慌てて、二人の横に並び出て、自分の水筒を取り出した。
その様子が気に入ったらしいパンは、さらにネオを突ついた。
「お前、馬を取りに行った時、一人だけ帰ろうとしただろ? 止めてもらって良かったな。 ここに戻って来たのが二人だったら、その時点で援軍を呼んだと見做されて、此奴らの命は無かったぞ?」
ネオは目を見開き、「ゴクリ」と盛大に唾を飲み込んだ。
「やめろパン! まったく、お前もお前だぞ、若い人間。 どう考えたって冗談じゃないか。 真に受けすぎだ」
どの辺りをどう拾えば冗談になるのか、ネオにはさっぱり分からなかったし、生きた心地がしなかった。
「すまんな。 コイツは常にこんな調子なんだ。
……さて、俺はアグノスだ」
マイクとヤニスはそれぞれ名乗り、ネオのことはマイクが紹介してやった。
「ひとまず、乾杯だ」
アグノスの言葉を合図に、それぞれが果実酒の入った容れ物を軽く持ち上げた。
勿論それは、マイクとヤニスにとっても不思議な体験であり、ネオにとっては奇々怪々そのものであった。
儀礼が済むと、アグノスは族長から言われた話を聞かせた。
ヤニスは「英雄について自分は分からないが、マイクはまず間違いないだろう」と伝えた。
「いや、あんたも間違いないよヤニスさん。 ケンタウルスを脅す人間なんて、俺は聞いたことないよ。
だけど……」
和やかに話していたアグノスは、ここで空気を変えた。
「次にそうなった時は、迷わず首を刎ねることだ。 大半のケンタウルスは、人間の警告など理解できない」
「……ああ、そうするよ」
そう答えながら、ヤニスは「二度とあんな場面に出くわしてたまるか」と苦笑いを浮かべた。
その後、ヤニスもケイロンに言われたこと、そしてカロスとの会話の一部をかいつまんで話した。
アグノスは、嬉しそうに驚いた。
「カロスさんに、ケイロンだって? それはすごいや! 道理で肝も据わるわけだ」
そこからしばらくアグノスの質問攻めが続き、やがて話題はマイクにまつわる武勇伝へと移っていった。
愉しげなアグノスと二人の人間をよそに、パンはますます退屈そうで、酒を煽りながらネオを見つめ、ちょっかいを出し続けた。
ネオは、一刻も早く宴が終わるのを切に願っていた。
森の中では、夕刻の虫が鳴き始めていた。
「おっと、危ない」
ふと素に戻ったように、アグノスは簡単な計画を立てた。
「とりあえず三人とも、今日は町に戻った方がいい。 流石の俺でも、“進んで人間を森に泊めた”なんてことになったら、どんなお咎めを喰らうか……考えただけで嫌になる。 それにパンの夜は質が悪い。 俺達はここを動かないから、明日の朝また来てくれ。 そのままケイロンの所へ向かうから、支度は充分にしておいた方がいい」
「分かった」
三人は急ぎ支度を整え、暗くなる前に森を出ようと馬を走らせた。
薄暗い森の中で、ネオがポツリと溢した。
「いや、すごいよ二人とも。 あんな化け物の前で酒が呑めるなんて。
ところで、明日俺は町に残って良いんだろ?」
不安げなネオの質問に、マイクは「お前が来たいなら別だがな」と意地悪く返した。
「ごめんだね!」
ネオは、半ベソをかいた。
森を抜ける頃には、すっかり日が暮れ、辺りには暗闇が寝そべっていた。
「森を抜けられて良かった。 急ぐぞ!」
マイクが馬を速めると、二頭もそれに続いた。
しかし……ここで、予期せぬ現象に襲われた。
もう随分、町に近づいたはずなのに、一向に灯りが見えなかったのだ。
薄気味悪い不安に駆られながら、三頭は目を凝らし、道を急いだ。
だが遂に、月の光に照らされて町の輪郭が浮かび上がっても、灯りは見えず、音も聞こえなかった。
「いったい、どうなっている!」
マイクは声を荒げ、馬よりも前に出るかのように急いだ。
私は会社の飲み会等殆ど無縁な人間なんですが、大きな会社の飲み会に参加した新入社員ってこんな感じなんですかね。
お酒は好きだけど、アルハラは反対ですよ私は。
はぁ…お酒呑みたい。
【固定】
お読み頂きありがとうございました。
評価やブックマークして頂けますと励みになります。
是非続きもお楽しみ下さい。
登場する名称一覧
【キャラクター】
・カロス(ケンタウルス)
・エーレ(神の器?)
・ヤニス(エーレの父に返り咲いた男)
・マイク(伝説の英雄)
・レナ(ケンタウルスの女戦士)
・ターレス(ケンタウルスの族長)
・ソフィア(ケンタウルスの少女)
・アグノス(ケンタウルスの若い戦士)
・ルカ(マイクの息子)
・ネオ(若い狩人)
・ミト(老いた狩人)
・ケイロン(ケンタウルスの英雄?)
・レア(大地の女神、レナの師)
・アキレウス(昔の英雄)
・アルカイオス(昔の英雄、後のヘラクレス)
・ヘラクレス(英雄の神、元アルカイオス)
・ネッソス(レナの父)
・アイネ(レナの母)
・ヘルメス(天界の死神)
・ヘルメスの使者(元ニンフの魂)
・タナトス(冥界の死神)
・狭間の獣(タナトスの下僕)
・ニンフ(精霊の総称)
・サテュロス(笛を吹く半人半獣)
・パン(ニンフ殺し、ヘルメスの使い)
【場所・他】
・ミリア(エーレが住む山奥の町)
・カテリーニ(マイクが住む海の近くの町)
・パライオ(山の入口の町)
・レアの泉(女神の泉)
・ピエリア(ミリアから山を超えた先)
・モスコホリ(ミリアの隣町)
・ヘスティア(ケンタウルス達が集う場所)
・スパルタ(ヤニスやマイクが属した勢力)
・アテネ(スパルタの敵対勢力)
・天界(天空の世界)
・冥界(地底の世界)
・禁則の地(天界と繋がる場所)
・イボヴォリ(ケンタウルスの園にそびえる大樹)
・ヒドラ(九つの首を持つ毒蛇)